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便秘薬(古代エジプトからのご提案)

暖冬で早くも梅が咲き始めた先日、私はいつものように市立図書館にいました。世の中には書店に行くと便意を催す人がいると聞いたことがありますが、私は図書館でいつもそうなります。体に悪いと思いながらも、あ、出そうと感じてから、パソコン作業や読書のキリが良いところまで粘ってしまいます。私物を机に置いたまま席を立つのは嫌なので、荷物をバッグに仕舞ってモタモタする間にお尻がキュンキュンしてきます。いつもはお手洗いに駆け込めばすぐ出るのです。さあ、ようやく便座に座りましたよ。カモンっ!

その日の私の便はどうやら直腸の中で大きく硬くなってしまったようで、ちっとも出てきません。そのうちとても痛くなってきて、ゼイゼイ息が出ます。ふっふぅー・・・。んぐうぅぅ。声にならない怪音を出していると、誰かがトイレに入ってきました。先っちょだけはすでに出ています。息を殺して力んでみます。だめだ、戻そう。絞ってみます。ああ、困った、後にも先にも進めない!そんなことは今まで経験したことがなかったので、私は少しパニックになりました。頭に血が上って爆発しそうです。大量出血、意識不明、救急車・・・いろんな想像が駆け巡りました。

他の利用者さん、長居してごめんなさい

さて、古代エジプト人も便秘で悩む人は多かったようで、医術書エドウィン・スミスパピルス(XXII, 11-14)には次のようにあります:

もし、汝が尻に苦しむ男を見つけ、彼が両脚の間の腫れものゆえに大いに苦しんで立ったり座ったりしているならば・・・

エドウィン・スミスパピルス、第二中間期(紀元前17世紀ごろ)、ニューヨーク医学アカデミー所蔵

男性も女性も関係ない。はいっ、該当者は私です!恥ずかしながら、ワタクシいぼ痔ではなく、どうやら切れ痔体質のようですが、参考になりそうです。便器に腰掛けたまま、上半身を大きく前後に揺らしてもがき苦しんでいたときにこの言葉に出逢いたかったです。で、どうすればいいの?まあまあ、ちゃんとパピルスは続きの処方も書いてありますよ:

汝は彼に処方を、偉大なる守護の軟膏を与えよ。アカシアの葉を砕いて粉にして一塊に焼け。そして、パケト布の包帯に塗って尻に充てよ。彼はすぐに良くなるだろう。

パケトとは織目の非常に細かい最高品質の麻布を指します。柔らかいガーゼで代用できそうです。でも、あいにくアカシアの木はありません。しかも、これは便秘ではなく痔の処方のようです。では、同時代に記されたエーベルスパピルス(X, 9-14)も参考にしてみましょう。それによると:

悩ましい便を男の体から追い出す別(の処方):
白い樹脂1;
赤いインク1;
ヒトの乳。
(これらを)一塊にして飲む。

エーベルスパピルス、第二中間期〜新王国時代初期(紀元前16世紀ごろ)、ライプツィヒ大学所蔵

そうそう、求めていたのはこれです。でも、妊婦のお友達がいません。いたとしても、便秘に効くからと説明したら怒られそうです。さらに、「1」という数量が意味不明で不安です。ピンクのバリウムみたいなものでしょうか。お腹を壊しそうですが、それこそが便秘の特効薬なのかもしれません(皆さんマネしないでね)。

このような医学的な指南書はたくさん現存していて、様々な症例に合わせた処方が載っています。でも、中にはヒトや動物の糞尿を混ぜて飲むなど、危なっかしい記述もあります。医学というよりは呪術に近いかもしれません。私は結局お手洗いで15分くらい格闘しました。自分の体に優しくしなければ、と深く反省しています。これからは便意を催したら、すぐにトイレに向かうよう心掛けます。

もうすぐ春ですね。待ち遠しいです。皆さんもお身体を大切に。

(おわり)



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