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好きをみつめる頬、『スキップとローファー』

姉さん、事件です。

月刊『アフタヌーン』が第二黄金期に突入してしまいました。

(ちなみに、第一黄金期は、『神戸在住』『無限の住人』『リトル・フォレスト』等々が連載されていた、2002年から2005年あたりです。あの時の『アフタヌーン』は、毛色の違う作品ばかりなくせに、全部粒ぞろいで発刊日とともに、発汗しそうになりました。)

別に私は『アフタヌーン』の回し者では決してないのですよ。編集者誰も知らないですし。

ただ、月刊・週刊合わせて、ここまで各々の作家に対して、独自のテーマ性を深く掘り起こして作品に落とし込むことを課している漫画雑誌は、珍しいと思う。

たかが漫画、としてしまうと、人々から好まれやすいスポーツのような物語に、今っぽい画を落とし込めば成立してしまうのだ。マーケティングに合わせれば、戦略的に売れる作品を量産することもできる。そこに、一歩踏み込んで、作者の個性を引き出しながら、帰結点を物語の進行に合わせて考えていくのは、難しい。

編集者の力もあるんだろうけど、書きたいことがあり、強いテーマのある作家が集まっている気がする。

と、前置きが長くなってしまってけど、『青野くんに触りたいから死にたい』と、同じくらい推したいのが、高松美咲『スキップとローファ―』です。

好きという感情を発する、つたなくもぬくもりのある本心

『スキップとローファー』は、典型的なボーイ・ミーツ・ガールの学園ものかと思いきや、それがちょっと違う。

「好き」という感情が動くまで、またその感情が動いた後の、情けなさ、嫉妬、そしてさらに「好き」が加速していく、その過程を丁寧に描いている。

登場人物たちは、各々が、「好き」な相手を見つける。

だが、登場人物たちの「好き」な気持ちは、拠り所のないものだ。なぜなら、それは彼らのアイデンティティが、「好き」という感情を受け入れることを拒む場合があるから。人によっては「好き」に、たやすく手を伸ばせる人もいれば、「好き」が目の前にあらわれても、違う惑星にロケットで移動するように遠くに感じる人もいるのだ。

拠り所のない「好き」が、迷いながら、歪にも、輪郭を得ることを受け入れた時、キャラクター達は、少しづつ前進しようと、ごく小さなステップを進める。

頬を染め、気持ちを高揚させて。横顔、後ろ姿、正面から、「好き」の正体をみつめて。

この作品を読んでいると、「好き」という気持ちはこんなにも美しくささやくのに、なぜ素直に耳を貸せないのだろう、とやきもきする。

また、その「好き」が、決して異性や同姓との恋愛関係を求めるだけでは無いのも、いい。

例えば、結月は誠が好き。ゆずちゃんは、まこっちゃんと話している時は、特別楽しそうだ。そして、ゆずちゃんはまこっちゃんに自分を深く理解してほしい、というわけではなさそう。クールな美女なのに、それこそがコンプレックスとなって影を落としているゆずちゃんにとって、男子に媚びを売るモテ相場からは距離を置き、自分の世界に引きこもるまこっちゃんと一緒にいると、自分らしくいられる。それだけだ。

複雑で勘のよい神経をもつミカは、中々素直に人を好きになれない。それでも、そんなミカにとって、MtFの社会人として揺るぎない自己を持ち、オシャレで女子力高いナオちゃんが、憧れとして輝く。

(というか、ほんとナオちゃんかっこいい。こんな大人は素敵すぎる…。)

主人公だけでなく、他の登場人物たちも、物語のエピソードを一つひとつ彩りながら、ページをめくる読者をゆっくりと高揚させていく。

コメディタッチでありつつも、青春時代の泥臭い重さもきちんと描いているので、多層的な物語構造になっており、一話一話、読んでいて飽きない。

「好き」という感情の純粋さ、複雑さ。とても繊細で、状況の変化に合わせて、すぐに消えていく恐れすらあるのに、その瞬間にはっきりとある、奇跡。

社会的に、立場が形成された大人ではない、青春の時代。自分の個性を認知することに手を焼きながらも、「好き」という感情をどこに向けたらいいのか、皆戸惑う。その戸惑いを、受け入れる人。戸惑いを受け入れることにすら、迷う人。「好き」の先に、何を求めているのかも不確かなままで。

成長過程にさす暗い影に、「好き」という明るい世界が、今後どう関わっていくのか……。

すっごく楽しみ!

よしながふみ『フラワー・オブ・ライフ』が好きな人は、どハマリするんじゃないかな。しかし、『フラワー・オブ・ライフ』の主人公が男子なのに対し、主人公が女子高生の本作の方が、女子の主人公を取り巻く女子的な世界が細やかに描かれている。

5巻は3月下旬に発刊予定だそう。

ローファーを履いた小さな足が、一体どこまでスキップできるのか、わくわくしながら見つめてゆきたい。

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by 日向雅 理予 Narratify Co., Ltd.

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