定位しない梅田

私は梅田にいた。梅田にいたのだけれど風景が安定しなくて、目線を移すたびに変わってしまっていた。少し時間があったので、せっかくだし天満界隈か南堀江界隈かで時間を潰そうとかと、私は地図を思い浮かべた。

街は、碁盤目状で南北に核がある都市構造だった。

梅田にいる私は、天満に行くには東へ、南堀江に行くには南西へ行かなければならなかった。南堀江は本町の辺りまで南進しなければならなかったので、梅田を回ってから天満に行こうと決めた。持っていた電動キックスケーターで走るにはちょうどいい距離だなと思った。

低い高架下をくぐると左手にグランフロントらしい高層ビルが見える。北ヤードはまだ開発されきっていなくて空が広い。今度は高速だろうか高い高架下をくぐると柄の悪いエリアに出た。小便の跡と匂い。おじさんばかりで服も汚れている。街がすすけていて、クリーム色の高架下の擁壁には貼り紙の跡とラクガキがあった。地面に置くタイプの看板も沢山出ていて、人通りもあったので風景全体がザワザワと蠢いているようだった。歩道の幅も広く、片側三車線、真ん中に高架の立ち上がりのある道は、歩道側も立体的に複雑になっていて、地上にいるように見えるが地下に大きく空間が取られていて、車が行き来していた。

地下一階に「太陽のトマト麺」があるとの看板が出ていたので、歩道橋のそれと同じような階段の上から覗き込むと、店舗は踊り場ほどの区画に建っていた。さらに地下まで降りれるようだった。JRAのある芝地あたりと阪急からヨドバシに行くところの橋が混ざったようなところだなと思いながら、結局ここはどこなのだろうと、私はスクーターを抱えて、階段を降りた。せっかくの電動キックスケーターもこれだけ人が多ければ歩道を走ることはできないし、かと言って車道を走るのは、それなりに交通量も走っている車の容量も大きいから危ないなと感じていて少し不満に思っていた。それにこれだけ立体的に複雑だといちいちスクーターを抱えなければならないし、面倒だなあと考えていた。

気がつくと階段を降りきっていて、地下街に出ていた。暖色の照明が壁に反射していた、石を使っているらしく、高級感がある。スケーターを滑らせてみると抵抗がある。床は絨毯になっているらしかった。抵抗はあるもののさっきよりも人通りは少ないので快適に走れると、地下街のブティックショップを通り抜けて行った。目指す方向が明るくなっていて、気づけば高架とショップが見える地上まで戻っていた。

そうだ、天満の方に行かなきゃいけないんだっけ、と思い出し、スクランブル交差点で信号を待つ。大阪は都市基盤が碁盤目状になっているから空間定位が容易だし走りやすいなと思い、斜め前に見えているJRの高架から離れない程度に東進していけば辿りつくだろうと思い、信号を渡って、JRの線路を左手に走る。

何回か高架をくぐり抜け、長屋の並ぶ住宅街を抜け、家がまばらになってきたことに気づく。足元を見ると駐車場の砂利のようになっていて、再び顔を上げると腰くらいまでの高さがある雑草、その少し先でトラックを含めた車が行き来していて山が見えていた。空が広い。郊外まで来てしまった、行き過ぎたなと雑草の方に糧に向かってしまった電動キックスケーターを拾いに行った。

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