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信岡ひかる新曲「Crazy amazing」発売記念 特集・小林清美 Part3  音楽ライター・南波一海に聞く、小林先生の魅力。


小林清美特集 Part3では、音楽ライターの南波一海さんに話を伺った。


Part1 小林清美インタビュー前編

Part2 小林清美インタビュー後編


南波さんは、Peach sugar snowのデビュー曲「ひとときでも」を「南波一海のアイドル三十六房」で紹介して以来、小林先生の音楽性を高く評価してきた音楽ライターだ。南波さんから見た小林先生の楽曲の魅力、本人の魅力とはどのようなものか? 
 


「Crazy amazing」発売記念 特集・小林清美
Part3
音楽ライター・南波一海に聞く、小林先生の魅力。

南波一海(なんば かずみ) プロフィール

音楽ライターとしてBUBKA(白夜書房)やCDジャーナル(音楽出版社)等の雑誌で執筆する一方でタワーレコードが提供する音楽番組「南波一海のアイドル三十六房」をタワーレコード社長の嶺脇育夫とともに、毎月放送している。
2016年からはタワーレコード内レーベル「PENGUIN DISC」を立ち上げる。
主な著作にアイドルの楽曲を手がけるクリエイターにインタビューした「ヒロインたちのうた」(音楽出版社)がある。

南波一海 twitter




—— 小林清美先生が作詞・作曲・編曲を担当した信岡ひかるさんの新曲「Crazy amazing」を聴いていただいたのですが、いかがでしたか?


「Crazy amazing」 小林清美✕信岡ひかる


 小林先生らしい曲だなぁと思いました。
 僕は歌を通して、何が伝わるかが重要だと思っているのですが、信岡ひかるさんは歌に気持ちを乗せるのが上手なんじゃないかと思います。

 それこそ、歌いながら泣いたりするわけですよね。


—— 今回はひかるさんに合わせて歌詞の書き方を変えたそうです。

 小林清美インタビュー前編を参照。


 あんまり当て書きをするイメージがなかったので、その話は意外ですね。Peach sugar snow(現・Peach sleep sky。以下、Peachと表記)も自分が今までやって来たアプローチを再構築して発表しているというパターンの方が多いから。

 歌の面で言うと、小林先生って独自のリズム感を持っている方だから、譜割りが難しそうだなぁと思いました。


—— ラップパートが大変そうでしたね。先生が歌うと成立するんですけど、ひかるさんが歌うと譜割り通りに行かないし、棒読みになってしまって。


 難しいですよね。


—— 先生がレッスンで「こうやるんだよ」と歌ったのを耳コピして、最終的に自分なりの歌い方にアレンジしてました。



    先生はナチュラルにやっていると思うんですけど、独自のリズムのある人だから、それをメトロノーム上のカチッとした時間軸に乗せた時に普通のリズムとは違うものになるんだと思います。
 そういうことを本人に聞いても「あぁ、そうですか?」って感じであまり自覚してないんですよね。だから、かなり感覚的にやってるんだと思うんですよ。
 でも、信岡ひかるさんは先生の譜割りに合わせて歌うことが、少なくとも音源ではできているわけじゃないですか。これは、できない人にはどうしたってできないので。

 その意味で小林先生もやりやすかったのではないかと思います。歌手の方が歌えるか歌えないかという制限の中で作っているところはあると思うので。


小林先生との出会い



—— 小林先生の曲を知られたのは「南波一海のアイドル三十六房」がきっかけですね。

 知り合いの方がくれた「ひとときでも」のCDを聴いたら、歌にあまりに元気がなかったのが面白くて。その後『全国あいどるmap 2012-2013』(エンターブレイン、監修・全国あいどるmap製作委員会)というローカルアイドルを取り上げた本を2012年に作った時にPeachに取材をさせていただいて、その時に小林先生とは初めてちゃんと喋りました。

—— Peachがウィスパーアイドルになった後ですか。


 最初はレコーディングで慣れてなくて声が出てなかっただけだったのが、その小さい声を武器にするようになっていったんだと思うんですよ。

 小林先生もウィスパーって、最初は意識してなかったと思うんですよね。
 雑誌で僕が紹介した時に「ウィスパーボイス」って書いたのを見て閃いたんじゃないかなぁ。
 想像ですけど、「ひとときでも」を作った時は、アイドルをやろうとは思ってなくて、スクールの発表会の記念として作ったんだと思うんですよね。


—— 過去のインタビューを読むと、確かにそういう感じですね。

【コラム】山村哲也の「諸国漫遊全国アイドル旅」<Peach sugar snowインタビュー編>

 それをこっち(三十六房)が取り上げたあたりから、ローカルアイドルとして注目されていって。丁度、あっちこっちで地方アイドルの活動が盛り上がりはじめた時期で、みんなが面白いアイドルを探している時期でもあったから、そこにうまく噛み合ったんだと思います。


—— 南波さんは、R-グランプリでは2015年のシングル部門グランプリに『さよなら惑星」を、2016年のR-グランプリの第2位に「カード戦士飛弾せりな」を選ばれていて、先生の楽曲に対して一貫して高い評価をされているように見えます。南波さんからみた先生の楽曲の魅力について教えてください。


 最初はPeachの発声が気になっていたんですけど、聴いているうちに曲がすごいなぁと思って。
(歌詞が)暗いじゃないですか。

—— そうですね。


 自分が歌っていた曲を子供用にアレンジしたものではありますけど、報われない恋愛とか失恋の話だったりして、すごく悲しかったりする。
「人魚~泡になって消えても~」なんて「すべてが泡になって消えてもいいから、あなたを愛する」という歌じゃないですか。そういう歌詞を、ちっちゃい子にぶつけてくるセンスが面白い。

 徐々に先生のパーソナリティーが見えてくると、あぁ、変わった人だから変わった曲を書くんだなぁとわかってくるんですけど、最初はそういうことはわからなかったので、単純に「ものすごいことをやるなぁ」と思いましたね。

 それに加えて女の子たち、特にあいなさんは歌が上手で。小林先生独自のリズムとか歌の世界観を汲み取って表現できる人だったからこそ、曲が広まっていったのかなぁ。
 
 「ひとときでも」の後に「じゅもん」があって、リリースごとにどんどん尖っていきましたよね。自分は「人魚」が好きなんですけども、出すごとに、小林さんもメンバーの子も要領を得ていって、ノリに乗っていった時期ですよね。あいなさんがソロのなってからの「さよなら惑星」も衝撃的でした。

 同時期にやっていたFUJI△PASSIONにしてもRelish(魔女っ子見習生)にしても基本的には同じで、ファンタジックでかわいらしいんだけど、どこか仄暗い。同時に世界平和とか人類愛のようなものも見える。それが作家性なんでしょうね。

ただ、作ったコンセプトにとらわれがちなのかなと思うことはあります。ウィスパーボイス然り、カード戦士然り。面白いんですけどね。クラシックをテーマにしたClassic fairyとか。コンセプトをひらめいて、動き出し始めはともかくとして、プロジェクトが続いていく上で、必ずしもコンセプトを守らなければいけないということもないのかなと思います。

Peach sugar snow    「じゅもん」MV

Peach sugar snow     「人魚~泡になって消えても~」MV


—— 小林先生個人の魅力について教えてください。


 すごく人当たりのいい人ですし、最初はちゃんとした人としか思わなかったですね。でも、イベントでメンバーと一緒にトークで出演すると、先生の話がすごく面白いから注目が集まってしまいますよね。それで、小林先生のピュアに狂っている感じが、だんだん「やべぇ面白さ」だって広がっていったんじゃないかと思いますね。


——「ゴットタン」(テレビ東京系)に出演して以降、小林先生のバラエティ出演が増えそうな気配がありますが、元を辿ると「アイドル三十六房」の印象が強いんですよね。


 小林先生はみんなを喜ばせたいという気持ちがあると思うんですよ。会うたびに差し入れを頂いたりするんですけど、基本的におもてなし精神がすごくあって、博愛の人なんですよね。
 それと同じ感覚で、夜の時間帯の番組に出た時は「自分の面白いエピソードを話して場を盛り上げたい」と思っていたと思うんですよ。
意外と下世話な話も好きですし、「三十六房」はそういうことを言うとみんながゲラゲラ笑うような所なので、その影響もあるんじゃないかなぁ。



—— 小林先生の作家性についてどう思われますか?



 やっぱり変な曲を書く人は人間も変ですね。何かが欠けてるから、何か秀でるものがあると思うんですよ。
色々なところでご本人が話されてますが、人生に様々な不幸があり、その人生観が曲にめっちゃ投影されてますよね。

—— 僕は寓話性というかおとぎ話っぽい物語性に惹かれるんですよね。「電子記号少女§」についてお話を伺った時に、パソコンを見ていたら電子が生きているんじゃないかと思ったのがきっかけだと、おっしゃってました。

小林清美インタビュー(後編)を参照



 自分の中では理路整然としたストーリーがちゃんとあって、ちょっと妄想っぽいものを具現化するというのは、小林先生のスタイルの一つではありますよね。


——あと、人が何を考えているのかがすごく気になるそうで、例えば電車に乗っていると、どういう人かよく想像してしまうそうです。


 それは先生が特殊というわけではなくて、音楽に限らず、ものを作っている人は繊細で。そういう見方ができる人だからこそ、歌が作れるわけですよね。
 人のことをすごく気にしてしまうというのも、そういうことだと思うんですよ。小林さんがいろんなものを感じ取ってしまう人だから他人にすごい気を配るし、すごい曲が作れる。それは表裏一体なんだと思います。

—— 南波さんは柳♡箱(ハコイリ♡ムスメとRYUTistのコラボユニット)の「ともだち」という曲で、作詞を担当されていますが、どのようなアプローチで書かれたのですか?

 小林先生のようなアーティスティックなアプローチとは全然違う書き方ですね。もっとルールをいっぱい決めて、ロジックで作った感じです。

 最初に「遠くに行った友達に会いに行く」というテーマでどうですか? と言われたんですけど、いくら考えても歌詞が出てこなかったんですよ。
 自分に置き換えて考えた時に、中学生の友達が田舎に引っ越すとなっても別に会いに行かないなぁと思って。引っ越した親友に会いに行くってことに、リアリティがないなぁって思ったんですよ。

 だったら、一緒にライブをやった後で帰る時って切ないなぁとか思っていたのもあって、「別れる」時の歌詞なら書けるかなぁと。だから、「ともだち」はお別れの歌なんです。
 サビの最後は「ごきげんようありがとね」なんですけど、ハコイリ♡ムスメが舞台からはける時にいつも「ごきげんよう」って言うんですよね。RYUTistはいつも最後に「ラリリルル」という曲を歌うんですけど、この曲が「ありがとね ほんとほんとにね」で始まるんですよ。

この二つ(「ごきげんよう」と「ありがとね」)をくっつけたらお別れの歌として成立するなぁと思ったんです。あとは「こうなったらグッとくるな」とか、この子たちがこういうシュチュエーションでお別れになったらどうだろう? と考えながら作りました。

—— 確かに組み立て方が明確ですね。

 だから小林先生みたいに「パソコン見ていたら電子が生きているんじゃないか?」みたいな発想は自分には全くないから、すごいなぁと思います。

——「ともだち」はMVも素晴らしかったです。南波さんが監督されたそうですが。

柳♡箱「ともだち」MV



 2組の合うタイミングが全然なかったんですよ。一緒になるのはジャケット撮影の日だけだったので、そこでオフショット的に撮ろうと。
 ジャケット撮影はバッチリ撮るからセッティングに時間がかかるじゃないですか。だからその間にiPhoneを渡して、ちょっとずつちょっとずつ撮りためていったという感じですね。

—— アイドルの顔で一番見たいのは「こういう表情なんだよなぁ」と思いました。


 実は結構、工夫してるんですよ。自由に撮ってもらったものという訳ではなくて、自撮りしてもらっている裏で、「もっと近づいて、近づいて」とか、すごく言ってます。


—— 自然に撮ったように見えるけど、実は計算されているということですか?

 休憩時間中、メンバーに好きに撮ってもらったものもあったんですけど、最終的に使ったのは狙って撮ったものの方が多いですね。

—— 作詞されたりMVを撮ったりというのを見ていると、作品にはがっつり関わっているという感じなんですか?

 レーベルをやる上で「作品には関わらない」と言ってきたんですけど、なりゆきでやるようになってますね。
 最初にRYUTistの「夢見る花小路」のMVを撮ったのですが、今までRYUTistにはちゃんとしたMVがほぼなかったんですよ。
 それで「なんで作らないですか?」と聞いたら、どうしていいのかわからなかったらしくて。
 だから「せっかくうち(PENGUIN DISC)から出すんだからやろうよ。やってみないと効果もわからないから」と言って、説得したんです。で、作ることが決まったときにはお願いしたい監督がスケジュール的にダメで、自分たちで撮ることになりました。
 

RYUTist「夢見る花小路」MV


 MVはあった方がいいと思うんですよ。映像がないと曲までたどり着かないという人もたくさんいるので作りたいんですよね。 
 MVは撮ったことなかったので、なりゆきとはいえ面白かったです。一個、自分のなかの壁が壊れたところがありますね。
 その後、RYUTistとハコイリ♡ムスメ,のスタッフが集まって会議をした時に、曲を誰に頼むかという話があった時に「じゃあ、歌詞は南波さんで」と言われて、書くことになりました。
 でも、詞まで書くとなると、音楽ライターとしては、その作品に関する評論はできないですよね。

—— 客観的な評価ができなくなりますね。

 だからすごく迷ったんですけど、企画モノだし、公平性とかも、気にしすぎなのかなぁとか思ったりして。これをなにかのランキング1位にしますとかになるとおかしなことになりますけど、単純にそういうことを避ければ、問題ないかなぁと思いました。
 そういう流れで作詞をしてMVも撮って、自分としてはものづくりには関わるつもりはなかったんですけど、結果的にはそうなってしまったかなぁと思います。
 これでライターとしての信用が下がったと言われたら仕方ないかなとも思いますけど、そんなになってない気もするんですよね。いや、わかんないですけど。

—— 音楽ライターとして、公平でありたいという気持ちはあるのですか?

 

 そこまで意識はしてないですね。元から人とズッポシ仲良くなるタイプでもないので。だからと言って悪口を書く気もないですけど。でも、誰に対してでも公平とは思ってないですよ。

—— 南波さんはご自身のお仕事は評論だと思われているのですか?

  紹介です。紹介も広くは批評の延長だと思っているのですが。

  基本的にレーベルやるのも何やるのも紹介だと思っているので、そこはあまり変わってないのかなぁとは思います。人から見たらレーベルの作品を特別視しているように見えるかもしれないですけど、良いと思ってることに対しては遠慮してもしょうがないので。Peach sugar snowの「キミと僕のwhisper」は素晴らしいのでみなさん聴いてください、と言うことにはなんのためらいもないです。

 小林先生が作る曲は全部聴きたいと思ってますしね。


—— 最後に、最近、バラエティで小林先生をはじめて知ったという方にとって、入り口になるようなCDを3枚選んでいただけますか?


 全部いいので難しいですけど、入手しやすいものを優先して選びますね。

 一枚は、Peach sugar snowのミニアルバム「キミと僕のwhisper」です。あいな、サララの二人体制では唯一の作品です。
 Peachの代表作がまとまっていて聴きやすいのではないかと。

Peach sugar snow「私キミに恋してる」MV
(ミニアルバム「キミと僕のwhisper」収録)


 二枚目はこのミニアルバムには入っていない「さよなら惑星」ですね。Peachがあいなソロになってからの初作。
 途中からあいなさんが地声で歌い出すのが感動的で。peachはウィスパーボイスで歌うという前提を逆手にとったのが驚きでした。長尺の語りパートも大胆ですし、Peach sugar snowのひとつの到達点だったと思います。

Peach sugar snow「さよなら惑星」MV

 
 
 最後が、ちょっとよくわからない壮大な物語ができつつある「カード戦士 飛弾せりな」シリーズ。飛弾さんがアニソン歌手に憧れていて、それを知った小林先生が架空のアニソンを作るところから始まったんですけど、どうやらアニメも作ろうとしているらしいです。

 ただ、「カード戦士 飛弾せりな」はMVもなくて、ライブ会場限定のCD-Rでしか発売されてないので、聴きたいと思っても、なかなか聴けないんですよ。
 いずれアルバムにすると先生は言っているので、その時を楽しみにしています。

—— ありがとうございました。

Part4に続く。

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