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『それでも僕はここで生きる』#34.邂逅

#34 .邂逅

島に上陸した僕は島がどうなっているのかを確認することにした。島はかなり小さく、一周するのに三十分くらいしかかからなかった。だが、深部は木々に囲まれていて、そこを目指し、僕は歩みを進めた。
深い木々をかき分け、僕は開けた場所に出た。そこには人がおり、古風な集落が形成されていた。
ここに南がいるのか
僕はそのあたりにいた人に話を聞いてみることにした。
「すみません、ここに広瀬南さんはいませんか?」
「はい、いますけど」住民はそう答えた。
そこには南がいたのだ。僕は長い時間がここで止まったような感覚に陥った。
「どこにいるんですか?」僕は決心し、場所を尋ねた。
「案内しますね」島の住人が僕を案内してくれることになった。
集落の中を歩き、その住人は一軒の家の前で止まった。
「ここです」と住人。
僕は緊張をしながらドアをノックした。中からは南であろう女性が顔を出した。
「えっ…」女性はそう言って立ち尽くした。
「南?」僕はそう言っていた。
「うん。本当に、本当に来てくれたの!?」南はそう言って僕に抱きつき、涙を流し始めた。
「私、来てくれると思っていなかった。みんな私のこと、忘れているかと思ってた」
「忘れてなんかいないよ」僕は言った。
彼女は再び大粒の涙を流し始めた。一通り泣き終えると、彼女は僕を家の中に入れてくれた。
しばらく僕らは昔話をし、打ち解けてきたところで、僕は勇気を出して尋ねた。
「なんでここに来たんだい?」
「私、昔から繊細で、本当にいろんなことに気を遣って生きてたの。気を遣って生きていることすら他人には悟られないように振る舞ってた。いつの頃からか、そういう自分や、世界に耐えられなくなってしまったの」ここで、彼女は一息置いた。気持ちの整理が必要なのだろう。
「いいよ、ゆっくりで」僕はいった。
「私は、たまに海に行った時、何か特別な感情を抱くことがあったの。まるで、運命の人に出会ったように。年齢が上がっていくにつれて、その感情が、海から帰ってもずっと続くようになって、さらには、私の夢は毎日海の向こうにあるこの島のことばかりだった。この島に来れば、平和な毎日が待っている。そんなふうに考えるようになっていったの。そして、ついに、高校最後の夏、海に来た時、私は海の向こうの島に行ってみようと思ったの。これは突発的なことで、体が勝手に動いていたの。もちろんあなたたちとの毎日は楽しかった。でも、私の心はもうボロボロだった。心配をかけたくないから、親にも相談することはできなかったし、だから、本当にごめんね、何も言わずに、勝手にここまで来ちゃって、あなたの前から消えてしまって」
「こちらこそごめんよ。君の気持ちに気づけなくて、僕は君のことは大方理解しているつもりだった。僕が悪いんだ、君を救えなかった」
「でも、いいの。私はこの島で生きていくことに決めたから。ここはとてもいい場所よ、あなたもここに来れば良いのに」と南。
「それはできないよ、僕は君を迎えに来たんだ。ここに残ることはできない」と僕。
「私は帰らないわ。私を連れ戻そうとしても無駄よ!」南は怒り出した。
「ダメなんだ!ここにいても、何も始まらない。ここは確かに楽かもしれないけど、君はここで生きているうちは、本当に生きているとは言えない気がするんだ。僕と一緒に人生をやりなおそう」僕はだんだん感情的になっていた。
「いや!やめて!」南は連れ戻そうとする僕に抵抗した。
「南がそこまでいうなら、僕は強制しないでおくよ」
僕は一旦南の意見を尊重することにした。
「僕もここに住んでみてもいいかな」
「一緒に住んでくれるの?」
と南
「少しの間だけ、君が今までしてきた暮らしをしてみようと思ってさ」
「あなたもきっとここが気にいると思うわ」

僕は複雑な気持ちだった。

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