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『それでも僕はここで生きる』最終話 #36.それでも僕はここで生きる

津波が引いた後、僕泣き続ける南をつれて松下が最初に船を止めて僕を下ろしてくれた、南の家がある集落の反対側のところに行った。
すると、そこには松下の船がまだあった。僕は松下の船に乗り込んだ。
南も一緒だ。松下は南を見て、とても驚いた顔をしていた。
「南!それにお前も、こんなところで何をしているんだ?」と松下。
リアクションが少しおかしい。
「お前、ずっと待っててくれたのか?」と僕。
「待ってた?そんなわけないだろ?俺はただここで仲間と釣りをしていただけだぞ?」と松下。
確かに松下の他にも人が乗っていた。
僕はかなり困惑したが、松下が南の記憶を取り戻したことは僕にとって、とても嬉しかった。
南を連れて家に戻り、彼女を一度病院に連れていった。その際、僕はふと『広瀬南』と、もう一人の女のことを思い出し、彼女たちの病室に行ってみた。
しかし、彼女らはおらず、病室はがらんとしていた。




後日、南は退院し、実家に帰った。彼女は地元で事務職を見つけ、働いている。

南のいたあの島は、理想郷(ユートピア)のような場所であった。しかし、この世には理想郷は存在しない。今は南も、この世界で自らの弱さと向き合いながら生活をしている。

僕はあの日見た津波の暴力性を忘れることはないだろう。
僕も南も、あの島に戻りたいと思う日がくるのかもしれない。しかし、物事には終わりが必ず存在するし、時間(とき)は全てを解決してくれる。

だから僕は今日も前を向いて行こうと思う。

辛いことがあって、耐えられなくなり、逃げ出したくなって、再びあの島に行きたくなったとしても、それでも、僕は、ここで生きていこうと思う。


                終わり

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