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杉並区郷土博物館/分館(東京都杉並区・方南町駅/荻窪駅)

都内23区にある郷土博物館のうち、割と訪問が難しいイメージのある杉並区の郷土博物館。なぜかというと本館と分館の二つがそれぞれ別の杉並区の端と端のエリアにあり、なおかつ本館の方は最寄りの駅からも絶妙に離れた場所にあるためである。とはいえ一度ここまで乗りかかった船、23区コンプリートするなら分館も、という想いで訪問を敢行することに。

郷土博物館本館は東側を地下鉄丸ノ内線の方南町駅、南側を京王井の頭線の永福町駅に挟まれた中間のエリアにある和田堀公園に隣接している場所にある。どちらの駅からも入り組んだ道を進む必要があり勾配もあるため、23区内にありながら電車での交通の便は難しく、バスで向かうのが最も良いだろうか。

入口は古民家を残している

古民家の長屋門を正面に配した印象的な入り口にはかつて杉並一帯で行われたいた養蚕業の機織り機などが展示されている他、民間信仰の石塔が立ち並んでいる。また敷地は嵯峨侯爵の邸宅だったことから巨大な庭石も配置されている。

紀州青石と呼ばれている石

2階建てになっている館内、1階の常設展示室では郷土博物館らしく杉並区の歴史を紹介している。郷土博物館おなじみの石棒は無かったものの土器や板碑は健在。中世には江戸氏や北条氏が支配し、江戸時代には高井戸に宿場町も作られたがそれほど栄えたりはしなかった模様。その後に発展したのは鉄道が開通してから。ここから一気に人が流入して発展した。注目なのは映画の町だったこと。阿佐ヶ谷や荻窪には映画館が多く立ち並び、いわゆる名画座のようなものが形成されていた。中央線沿線にサブカルチャーが隆盛したのもうなずける。2階には昭和初期の家屋を実物大展示している。

常設展示室は土器や板碑から映画館の紹介まで

杉並区郷土博物館を訪れたかった理由の一つに文学館機能がある。杉並区は文豪が多く住んでいた場所としても知られており、阿佐ヶ谷文士村というコミュニティを形成していた。いわば田端文士村、馬込文士村、落合文士村と肩を並べる東京都内の文士村の一つ。他の文士村記念館は全て訪問していたので個人的には最後の牙城という意味合いもある。杉並区郷土博物館では企画展がない時期に文士村の展示を行っているため、あえて企画展のない時期を狙って訪問したのである。

阿佐ヶ谷文士村の中心となったのは井伏鱒二。色々と点々としたのちに阿佐ヶ谷へと移り住んだ理由として「中央線沿線は三流作家、世田谷には左翼作家、大森には流行作家、荻窪のあたりは転入者を移住民他所者と呼ぶようになったが昼間にドテラを着ていても後ろ指を指されないのが文学青年には好都合だった」と語っている。

ここから右奥が阿佐ヶ谷文士村の展示室

展示室の中には井伏鱒二の旧宅ジオラマも展示されている。間取りは井伏自身が考えたこだわりのある住宅だったようである。他にも愛用の釣り竿(相当な釣り好きだったようで、釣具屋からは「釣れない時は馬鹿のような顔して釣れ」とか、知り合いからは「もそっと真面目に釣れ」とか言われていた)や絵皿などが展示されている。

阿佐ヶ谷文士たちは中華料理店ピノチオに集まり酒を組み合わしながら文学談義に花を咲かせたという。中でも青柳瑞穂は生家が質屋なため書画に親しみ、尾形光琳の唯一の肖像画である中村蔵之助像(重要文化財)を見出したりしている。他にも私小説作家として尾崎一雄と並び称された上林暁や、梶井基次郎の親友で呉服木綿問屋を継いだが社会派小説家として再出発した外村繁などが主要なメンバーにいる。小田嶽夫、田畑修一郎、河盛好蔵、木山捷平、伊藤整、亀井勝一郎、臼井吉見、新庄嘉章、火野葦平、古谷綱武、村上菊一郎、三好達治といった面子も集まっていたという。文士村のメンバーとは違うものの、川端康成、吉川英治、瀬戸内寂聴、横光利一、与謝野晶子、保田與重郎、石川達三、堀辰雄、北原白秋、林芙美子といった有名な面々が阿佐ヶ谷周辺に住まいを持っている。もちろん井伏鱒二とセットで覚える太宰治もこの一員で、展示室には太宰にまつわる貴重な資料も残されている。

1階と2階には昔の家具が展示されている

館内のトイレは洋式。なお、博物館の外には古民家が残されており中に入って見学することができる。茅葺き屋根に土間といった一般的な古民家で、ちょうど七夕の季節だったこともあって当時の生活の様子も公開されている。古民家側のトイレは和式。

奥にある古民家は中に入れる

・杉並区郷土博物館分館
杉並区郷土博物館の分館は荻窪駅の北、天沼弁天池公園の中にある。本館から気軽に歩いて行ける距離ではなく(1時間くらいかかる)、そもそも両方を同時期に回るというよりも別々のタイミングで訪問するのが妥当かもしれない。

分館の中はわりとスッキリ

東館と西館があるうち展示室は西館がメインとなる。館内には岡本太郎の「座ることを拒否する椅子」があったり、杉並区ゆかりの史跡についての紹介がされている。企画展は2階で開催。坂東源氏についての紹介をしているのはおそらく大河ドラマが流行っているからだろう。トイレは男女共通の個室トイレで洋式。

拒否する椅子

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