猪股庭園/旧山田家住宅(東京都世田谷区・成城学園駅)
・猪股庭園(東京都世田谷区・成城学園駅)
世田谷区はトラストまちづくりと銘打って歴史的に貴重な建築などをボランティア団体と連携して管理・公開している運動をおこなっている。現在は世田谷区内にある三つの施設が対象になっており、そのうちの一つである猪股庭園は成城学園駅の北西にある高級住宅街の中にふいに現れる。近くには所ジョージ氏の世田谷ベースもある。
猪股家の邸宅として建てられた建物で特に注目したいのは武家屋敷風の意匠である数寄屋造りになっており、これを手がけたのは文化勲章を受賞した吉田五十八。かつての歌舞伎座をはじめとして、五島美術館、大和文華館、玉堂美術館、山口蓬春記念館、吉屋信子記念館、外務省飯倉公館・外交史料館といった錚々たる建築を手がけた人物。こうして個人の邸宅として都内で現存しているのは唯一。
作庭にも注目で、邸宅と目の前にある日本庭園の関係が非常に近しい上、茶室がまるで離れのように見える(実際は邸宅とつながっている)という効果を持っている。実際に居間から庭園へ出ることができる。スギゴケが広がった鮮やかな庭園の中に貫かれた置き石をたどりながら、水路を配した回遊式の庭園は非常にクール。外国人からの人気も高いという。
邸宅は居間に隣り合った食堂から夫人室、次の間、和室、書斎、といった順路になっている。中庭も居間と夫人室にそれぞれ隣接して設けられており、この存在があるだけで邸宅がグッと広がる効果を持っている。かつて納戸として使われていた部屋では吉田五十八のこれまでの建築作品のほか、猪股邸を設計した時の図面もパネル展示されている。最奥部にある書斎ともう一つの茶室は後から増築されたもので、こちらは吉田五十八の弟子によるもの。自然につながる造りをしており、書斎から眺める庭園もまた心地良い。
庭園から見ると離れにあるように感じられる茶室は、ホールから45度の角度で渡り廊下を渡った先にありつながっている。渡り廊下の途中には当時に使用されていたトイレがある。こちらは使用できないが当時のトイレは洋式が使用されていた。実際に使用できるトイレは玄関から右手にある個室ウォシュレット式。
・旧山田家住宅(東京都世田谷区・成城学園駅)
世田谷区トラストまちづくりの対象となっている三つの施設のうち、近代建築の意匠が色濃く残った旧山田家住宅は猪股庭園のすぐそば成城みつ池緑地の一角にあり、どうせなら一緒に巡るのが理想的と言えるかもしれない。残りの一つは二子玉川駅の方にある旧小坂家住宅で少し離れている。旧小坂家住宅は以前おとずれたのでこれで三つの施設はコンプリート。
建物自体は昭和初期に建てられたもので、元々はアメリカで事業を成功させた実業家の楢崎定吉の邸宅として建てられたもの。戦後になってGHQに接収された後、画家の山田盛隆が購入してからは住居兼アトリエとして使用された。もともと楢崎邸で建築された段階で間取りは洋風になっていたため接収後も大きな変更はされず壁紙を貼られた程度にとどまっているのが特徴。いわゆる国分寺崖線の台地の上に建てられており、建物の脇からは一気に崖になっているというスリリングな立地になっている。
綺麗なステンドグラスで飾られた玄関ポーチから広間を通って客間で映像解説があるほか、食堂や居間、ベランダポーチが1階のメインとなっている。木片を組み合わせて作られた寄せ木張りの床は部屋によって模様が全て異なるのも特徴的。また2階へ続く階段は住居用と来客用が別々にあるというのも面白い。2階には寝室と寝室をつなげた物入れ(ウォークインクローゼット)や次の間、客間に和室(外からは和室に見えないように障子と窓の間に細い廊下がある)といった部屋があったり、2階の洗濯物を1階に下ろすランドリーシューターがあったりする。
こちらの邸宅は見学者に楽しんでもらうための試みを積極的におこなっており、照明の傘、ドアノブなどそれぞれにミニガイドシートや邸内を組まなく探すことでわかる建物に関するクイズ(賞品つき)を配布していて、なんの知識がなくても楽しめるようになっている。トイレは多目的トイレと個室とがあり両方とも洋式。
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