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ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクション(東京都中央区・水天宮駅)

地上1階の常設展示室と螺旋階段を降りた地下1階の企画展示室の2フロアで構成されている。今回は浜口陽三とブルーノ・マトンという二人の銅版画家にスポットを当てて特集している。

地上1階では浜口陽三の作品を中心に展示しており、こちらは常設展の趣が強い。さくらんぼを画題とした作風で知られる浜口陽三、その銅版画の作品や画材道具、それに使用していたプレス機などが展示されている。版画なので量産できる反面、1枚の作品を作るためにポイントごとの数枚の版画を作成するという作業はとても真似できない。『蝶と太陽』という作品が特に好み。原版もある。限定枚数として刷られたらしく、限定枚数を刷った後は乱用を防ぐため原版に切れ目を入れている。

地下1階に降りるとブルーノ・マトンの作品を中心とした展示を行っている。無機質で低体温な作風を感じる浜口陽三に比べるとやや体温を感じるような表現で、日常の一コマを切り取ったような作品が面白い。陶芸家の樂直久(当時は吉左衛門)と一緒になって行った共同展があり、それに際しての手紙のやり取りが残されている。ちょうど樂直久の作品を観たばかりというのもあって感慨深い。

ブルーノ・マトンはエッチングの作品も多く作っており、今回は詩人の谷川俊太郎と大岡亜紀が彼の作品にコラボレーションする形で、作品を観て浮かんだ言葉を寄せる、といったイベントを行っている。

全部で3つの章になっている。第1章はエッチング作品を観て2名の詩人が浮かべたインスピレーションを元にした散文が載せられる。「ためらいながら歩む秘密/流産した線が誕生する驚き/無から現れて苦笑するかたち」といった抽象的ながらインパクトのある言葉を残す谷川と、「あなたは、なぜ、その道を選んで通ってきたの?」など全てを対話として描き出す大岡の対比が面白い。

第2章ではそれら言葉の断片がボックスに入っていて、見学者がランダムで手に取ったそれを、今度は並べられているマトンの無題の絵にタイトルとしてつける、という試みを行っている。

第3章は今度は完全に見学者が主役となる。短冊が用意されており、自分自身で考えた言葉をそれに綴り、会場に準備されている吊りに結びつける、といった試みがある。すでに何枚もの作品が結ばれており、それらは公式のSNSでランダムに公開される。なかなか今回は面白い試みが多くてよかった。ちなみに入場時にはカフェの割引券がついており、手前のカフェで一服つくこともできる。トイレは男女共用のウォシュレット式。


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