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きみは赤ちゃん

「果たしてオレの生殖機能ってマトモなんだろか?」

たった35年とはいえ、自分の生殖能力を疑ったのはこの世に生を受けてからはじめて。どうやら35歳を過ぎると男性も身体が老化して、生殖機能もぐっと落ち込んでしまうらしい。お恥ずかしい話、当たり前なんだけど全然自覚してなかった。身体は老いるという事実に。

そんなブライダルチェック真っ最中の病院の待合室で、柄にもなく心配でガタガタと身を震わせながら読んでいたのが川上未映子の『きみは赤ちゃん』だった。

すべての出産は親のエゴ。

結婚することはあったとしても子供を育てて、文字通りの「家庭を持つ」という人生を一度も想像した事のなかった自分としては、自分に似た性格の子どもが、また一からこの生き辛い社会の中で、自分と同じような辛く厳しい目に会ってゴーイングウェイしなければならないなんて可哀想!

という固定観念が離れず、別に夫婦で仲良く生きていれば寂しくもないし、他に欲しいものなんて無いだろうと、タカを括って生きてきたのだけれども、やれ離婚しちゃったり、知り合いの子どもと遊んだり。ちゃっかりそれを楽しんでしまったり。仕事も趣味ももはやひと段落して、他に何をするでもない抜け殻のような落ち着いた日々を送っていると、何故か無性に周りが当たり前のように進んでいく人生の既定路線てヤツを、いつの間にか自分も進みたくなってきた事は事実である。

そして、それよりもなによりも、こう心底から「家庭、持ちたいなー」って感慨が沸々と湧いてきたのだから不思議である。あんなに、自分から出来る子供なんて血が蒼いのが出て来るんじゃないか!?(、、、というくらい変わり者なんじゃないかという例えです)とか、思っていたのに、である。

そもそもこのままずっと独りじゃ寂しいなーてのも正直な思いだけど、それなら再婚したいなーで済むところなので、やっぱり何か考え方が変わったのだろう。

本を読んでいると、川上未映子も同じ事を考えていた。この本は妊娠から出産と出産から生後1年までの2章立てで書かれたエッセイ。勿論、子育てを経験した事がないので、読んで共感したのは前半の妊娠期だ。

「出産というものが、この生きやすいとは到底いえない世界にいきなり登場させる、ある意味でとても暴力的なもののように思えてしかたのなかったわたし」

率直に言って、上記の通り自分とまったく同じような考えの筆者でも、子どもを持って良い権利があるんだなと。それは、すべての出産は親のエゴだから。結局のところ、理屈とかそんな次元を通り超えて子どもが欲しいから。子どもに会いたいから。それ以上でもそれ以下でもないし、それが本能なのだろう。その本能を生きていていつ感じるか。それがたまたまこの世に生を受けて35年経った今だったというだけの話なような気がする。そんなタイミングでこの本に出逢い、読めたってのはちょうど良かったのだろう。需要と供給の一致という奴だ。

まだ妊娠もなにもないけれどね。

本によれば、女性は妊娠した後もマタニティブルー、出産した後も産後クライシスと、とにかく悶絶し、葛藤と苦悩を繰り返すらしいが、当事者になった時、その事実を知らなかったとしたらちょっと後悔していたかもな。

だって、、、何も知らずに当事者になったら罵倒されて無視されて、どんな扱いされるか怖いもの。

だから何事も事前の擬似体験は必要。知ってりゃ一応覚悟も出来る。

そういった意味で時系列的に、しかも読み物として面白可笑しく、ここまで詳細に子育ての体験を書いてくれてる本を何故手に取れたのか。たまたま面陳してあった中野坂上の本屋に感謝です。

さて、ブライダルチェックの結果、どうやら私の精子は充分な量に反比例して少々怠け者が多いらしい。まさか婚活に続いて妊活って奴を自分が経験することになるなんてね。もうちょいでコロッと死んじゃうのかなとか思ってたけど、人生てのは予想していた以上にまだまだ永く続いていくようである。

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