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お豪華絢爛版のお楽曲たち

前回からの続き、ここからSwitch版の曲のお話になります。


己を超えよ、歌ものにおチヤレンジ

先に書いた通り昔の曲を超えられるか心配だったので、「メインテーマを越えようと意気込むからいけない。まずは依頼のあった歌物を新たな気持ちで渾身の力で作曲するのだ。そうすればシナリオ3と4の戦闘曲は歌のアレンジでいけるでしょ。」という計画を立てたというお話。

実際、シナリオ3や4の新戦闘曲を作ろうとしたんですよ。でもやっぱり劣化コピーにしかならない。頭の中でフレーズを考えては「いまいちパッとしねぇなぁ」とパソコン作業前にボツの繰り返し。しばらく作曲作業は手をつけなかったもんね。

依頼主からは歌付きのオープニング・エンディングアニメを作ると言われてます。アニメっつーのは作るのに時間がかかる。つまり作曲には手を出さないにも限界があるのだ。歌物は早めに作らねばならん。覚悟を決める時。

華の淑女(オープニング)

巷では「異邦人のパロ・パクリ」とか言われているようですが、事実無根です。
イメージモチーフにしたのはベルサイユのばらのオープニング、パタリロのエンディング、小公女セーラのオープニングなどです。「異邦人に似てる」というのは公開後、言われて「あ、ほんまや」と思ったぐらい。ほんとだよ。

なぜお昭和アニソンに?

さて、どこから話すか。そもそもなんで昭和アニソン風で行こうと思ったのだろうか?よくよく考えてみると薔薇と椿と昭和アニソンってそんなにイコールなわけではないよねぇ。

歌つきオープニングアニメという依頼でしたが、話が来たときは許可を求めていた程度でした。つまり曲もアニメも向こうが作るつもりだったようでね。いやいや、俺のゲームぞ?曲もアニメもワシが作るわいな。ま、アニメを作るまでは現実的ではないのでコンテを切るぐらいか。
偶然なんですが、ここ何年か昭和アニソンにハマってた時期がありましてね。最近の曲と違ってメロディーの音数が少ないので歌詞がはっきり伝わる、何よりポップスではあまり使われないような味わい深いコードがうまく使われてて勉強になるなぁと研究してたんですよ。

そういえばスマホ版のPV作る頃から昭和アニメパロディ入れてたな。これは多分、「薔薇」という単語からベルサイユのばらがすぐにイメージされたからなのかな。PV用のアニメを作るならベルサイユのばらのパロディ入れたいなというところからの流れで昭和アニメと結びついたのかもしれない。

お歌作りはサビから

作曲の方はサビから作りました。そこからして異邦人モチーフではない証明とも言えよう。まずはキメとなるサビから作る。

この曲はサビのメロディとほぼ同時に歌詞が思いついた。昭和アニソンのようにタイトル連呼にしたいところだが、それはロボットものか。
せめてゲームタイトルを絡めて「薔薇の赤」と「椿の白」というフレーズを入れよう。出来上がったメロディ、低いところから高音に登った後、たららららと階段状に低音へ降りていくイメージから自然と「咲き誇るのは薔薇の赤と、舞い散るのは椿の白」とハマる歌詞が出来上がる。

音符数からすると1文字余る。頭に1音増やして「咲き誇るのはー薔薇のあーかーとー」にするが収まりが悪い。後ろに増やすか?いや、「薔薇のあーかーと」は言葉と音がマッチして気持ちいいので変えたくない。じゃあしょうがない、日本語としては変かもしれないけども「『咲き誇る』は、薔薇の赤と」という「咲き誇る」という名詞扱いにして1文字削りました。ここから音が下るメロディーと「舞い散るのは」がマッチして儚げな感じが出てて気に入ってます。その後の歌詞は迷いもなく決まった。
歌物なんだから歌ってて気持ちのいい歌詞がのってればいいよなー。

おサビから周りを

サビが出来たら、これを元にAメロとBメロを作ります。昭和アニソン、昭和歌謡ぽさを出すためには、「それっぽい進行・展開」をなぞるのが一番。サビがこうなら手前はこう、ここで上がるなら次はこう、みたいなお決まりのコード進行とか展開ってもんがあるんですよ。
この歌で採用したのは、「Aメロはサビから盛り上がりを抑えた類似メロディー、Bメロだけ雰囲気を変えてリズムスピードも半分に、そしてサビ」というパターンです。

ということでサビのメロディーがこうだから、Aメロのメロディはこう。最初の6音はAもサビも同じ。Aメロはサビと違って音程上がらずに落ち着かせると。
あとは自然に赴くままに、こうきたら次はこのコードでしょ?定番の昭和歌謡パターンで!なんてやってるからAメロが異邦人に似てしまったのかもね。メロディの譜割や音程はそんなに近くないんだどね。コード進行はそっくりになってるね。

アレンジは、ゲーム本編の曲調から離れすぎないようにチェンバロをメイン楽器に。でもどこかに昭和アニソン研究の成果を出したい。ということで山本正之的なベースラインを入れる。これは最近ベースを弾くようになってたのも役に立った。

お歌詞に込められたお戦略

歌物なので歌詞についても少し。

曲調は至って真面目に作っているので、歌詞の方で仕掛けを施したい。歌自体が真面目だからこそ、所々に「今の何?」みたいなパワーワードを散りばめることにしよう。あとは「薔薇と椿」なのだから花に絡んだ比喩も使ってオシャレにまとめたいな。

歌詞を決めるには「伝えたいこと」、つまりテーマぐらいは決めないと一本筋が通りません。サビの歌詞はすでに出来ちゃってる。ポイントは「女だもの、淑女だもの、私は戦う」の部分。戦う女のテーマ、あわよくば深読みされて「自立したい女性の応援歌」みたいに受け止められたらしめたもの。ゲーム自体が暴力的なので、少しでも他の部分で印象を和らげようというという魂胆が働いているのです。

言葉を選ぶ前のラフイメージとしては、スマホ版の時のPRなんかでつぶやいていたことから使えそうなものをチョイス。「お嬢様じゃなくて淑女、おビンタは相手を許せない時に行う正々堂々とした決闘、おビンタの嵐」これぐらいのイメージ。このような流れになるように言葉を探していく。

「泣いてるのは私じゃない」は良いが、「心の中のお嬢様」はもう少しいい言葉をつけられなかったか。ラフの方に引っ張られすぎね。
「お嬢様じゃなくて淑女」にするために「心の中のお嬢様」を否定する言葉が必要。花に絡めた比喩も忘れずに。ここでは「つぼみ」を使おう。「つぼみ」=「まだ未熟・淑女じゃなくてお嬢様」的なね。「つぼみに包まれたままの柔らかな」まではメロディの音符数から自然にハマった記憶。あと4文字でいい言葉ないか?
うーん、殺意は暴力性和らげるどころじゃないよ。熱意、闘志、情熱。どれも文字数がはまらない。
…‥あ。「お殺意」って思いついちゃった。「お」をつければいいってもんじゃないというツッコミどころにもなるし。暴力性を和らげるはどうした。いや、書いて自分で笑ってしまったんだからしょうがない。

「譲れない花がある」「ひけない季節がある」はうまいこと言おうとしてイマイチしっくり来てない。無理に花に絡めようとして比喩になっているような、ないような気がしてます。
Bメロはこれまでに使っていたPRキャッチコピーみたいなのを有効活用。「手のひらのしびれ」ってのはよく思いついた。「猛き女」てのはイマイチかなぁ。パッと伝わりづらいような。

ざっとこんな感じ。こんな感じだからこそ、早く仕上げなければならないのにじっくり捻り出さなきゃならない。のちのことを考えて2番も作っとくか!とはその時は思いつきもしませんでした。

お茶しましょ(クレジット)

あれこれ考えすぎて、詰め込みすぎて、歌詞の言葉選び的に少し納得いかないところがあるオープニングよりも、全てがバチっと決まったこっちの方が気に入ってます。

お曲調はどちらの方向に?

アニメのエンディングのつもりなので静かな曲調で、でも哀愁・情念みたいなのはオープニングでやってるから方向性は違うものを。パタリロのエンディング方向だと暗すぎる。小公女セーラのエンディングみたいな路線にするか。オープニングが「戦う女性のテーマ」という体なのだから、エンディングではまた違うテーマを用意しないと。「お殺意」のせいで暴力性が増してしまったので、今度こそ緩和させねば。
うん、「戦い終わったら全てノーサイド、だって由緒正しき競技だものね」で行こう。

大事なお歌はサビからよ

そんな漠然としたイメージの中、この曲もサビから作りました。メロディを考えては没にして、というかパソコンに打ち込もうとしたら忘れてるんですよね。風呂でメロディを思いついても、体拭いてパソコンの前に座る頃には忘れちゃってる。言い換えればその程度だということ。心に残らない、一発で耳に残らないということだ。
そんなある時、「明日はそう薔薇と」の部分のメロディが浮かぶ。今まで思いついたものよりもクセがあって良いぞ。確か風呂だったはず。忘れてしまわないようにパソコンの前に行くまでに何度も反芻、無事パソコンにこのメロディーフレーズを打ち込むことに成功しました。

メロディを忘れないように反芻するために口ずさんでいるといつの間にかおぼろげながら言葉がついてくる。「薔薇と」が出てきているので椿もくっつけないと。戦い終わってノーサイド。つまり玲子も椿小路家も戦いを忘れてしまわなければならない。「薔薇と椿を混ぜて」これだ。

これがなんでお茶になるんだ?多分パタリロのせい。「美少年は午後のお茶に自ら手折った薔薇の花びらを浮かべて飲み干す。ズビズバー。」てのがあったはず。アニメの絵もグレーな空に花壇は黒塗りでパタリロ的な背景でしょ?

曲調やイメージを優先するのはどこへやら。思いついたメロディーから勝手に曲調が決まった感じ。ズンチャッチャーズンチャッチャーのリズム。
このリズムならチェンバロよりもアコーディオンだよなぁ。おフランスチックになっちゃった。結果、どの曲とも違う曲調にできたからいいんじゃないのかね。

やつぱりサビから周りを

オープニングと同じく、サビのメロディを改変してAメロを作る。
Bメロは思いつかなかった。「ナイナイしちゃいましょ」のフレーズで、「あれ?流れが止まっちゃった。」となってしまったので、もう思い切って流れ分断。ぱ・ぱ・ぱの部分が出来上がる。Aメロは流れるように、その代わりサビではスタッカート気味に伴奏のノリを変えることで変化をつける。向こうに渡したら案外フラットな感じになって帰ってきたけども。

あ。オープニングもエンディングもこちらで作ったのはYoutubeに投稿したアニメラフのムービーで流している仮歌つけたものまで。Wayforwardの方で歌入れしてもらうので自分のデータを元に伴奏も作り直してもらってます。だからこちらの手元に最終楽曲構成データがないので気軽にフル版が作れないんですなぁー。こっちで作っちゃうと音が変わるだろうし。フル版を作るのは、これが良しとされるかどうかなのだ。

今度こそお立派なお歌詞に

さて歌詞だ。サビの歌詞は決まってる。「あれもこれも全部飲みほしましょ」だ。花というよりお茶の方に引っ張られた。オープニングの歌詞が腑に落ちないところがあった分、こちらは美しくまとめたい。
なんならダブルミーニングとやらに挑戦してみようか。文字だけだと「お庭でお茶する」話でしかないが、実は「仲直りの歌」になっている!みたいなさ。作詞家ぽいじゃん。まともに作詞したことないけどさ。「苦さはおミルクで薄める」が何を示唆しているのかは自分でもわからんが、何か意味ありげに深みを感じるじゃろう?

暴力感は鳴りを潜めなければならない。つまり「お殺意」とか「おビンタ」という単語を使うことなく「おビンタバトル」を連想させなければならんのだ。よし、「お口の中に少し血の味」だ。我ながら酷いフレーズを思いつくもんだ。「疲れも痛みも」はまさにおビンタバトルによるものだな。「ナイナイしちゃう」は可愛いでしょう。

おSwitch版のお楽曲

世は華まみれ・静かなる椿(シナリオ3・4戦闘曲)

曲名はどうでもいい。計画通り、良い歌が作れた。あとは戦闘曲用にアレンジするだけだ。苦労の甲斐もあり、これまでの戦闘曲の劣化コピーとはならず、でも薔薇と椿のイメージを十分に持った(そりゃテーマソングなんだから)違う曲になった。

問題はどっちをどっちで使うかだ。本当ならオープニングのアレンジ戦闘曲なんてのは玲子のシナリオで鳴るべきではあるのだが、それまぁしょうがない。幸い歌の方に「薔薇」がついてないので右子でも静香でも問題ない。
淑女というか華族がメインになるべきなのだからオープニングアレンジの方を静香のシナリオ4に使うべきなのだが…‥。それだとお茶しましょのアレンジがデス・クイーン・サーキットの曲になってしまう。それは流石に合わないんじゃないか?

ということで今のようになっています。

アイキャッチ・シナリオ解放

東京ゲームショウでの試遊展示が終わってから、プログラマには「会話デモが入る前に、アニメのサブタイトルみたいなの入れましょう」と言った。
「どんな曲鳴らすんですか?」
「チャチャチャチャ、チャーチャーチャーチャチャチャ!『黒いガンダム』みたいな感じ。」
全然違うのができたけど。

シナリオ解放の音がサントラに入ってますが、実はバグで実機だと鳴ってなかった。アップデートしたら直しとく。

復活の椿(メカ椿戦)

昔の拙い自分が作った曲でいまいち気に入ってない椿戦の曲のリベンジだ。あの曲を今の自分の力で気に入る曲に仕上げ直すのだ!

というわけで今回の曲の中で一番気に入ってます。高級なコーラス音源を使えることによってブレイクフレーズがカッコよく決まった。ちなみに玲子戦のコーラスには歌詞をつけてますが、こっちは付いてません。「ひーせっそっほっちょっぱっそっ」と歌わせてます。

一旦静かになってから盛り上がる大サビ。大変よくできました。しかし実況を見ていると、メカ椿初戦で負けるぐらいだと丁度この大サビの前で負けちゃうのよね。

仮面の華(メイ戦)

今回の最難産。だってよう、アイツの曲だぜ?中華風にする?薔薇と椿の曲調で?意味わからん。
もしそうするとしたら、どう考えてもこの曲だけ浮いてしまう。それならシナリオ3は国ごとに曲を変えるぐらいしないとまとまらないのでは?歌作るので精一杯だったのに?ギリシャ風の薔薇と椿調ってなんだよ。

まぁここは無理に中華要素は出さず、薔薇と椿のボス戦の曲として考えるべきでしょう。椿戦とメカ椿戦は実質同じ曲だ。これらと玲子戦とは違う路線のボス曲にすべし。まずは曲の構成から違う作りにしよう。

ここまでのパターンにはない、イントロから重厚に盛り上がってみるってのはどうだ?よしやってみよう。そうするとイントロの重厚さを際立たせるためにAメロは薄めにしたほうがいいよな?Bメロもなんだか流れでさらに落ちついちゃったな。
…‥あれ?サビが思いつかないよ?違いを出すために目立つ楽器も他のボス曲とは変えてみる。奥で鳴っているティンパニがそうだ。曲の最後はティンパニだけになって、その上に激しいバイオリンソロにしよう。違うタイプのソロボイスも入れてみよう。…‥あれ?サビが思いつかないよ?

どうする?完成ギリギリまで思いついたら修正するか…‥と思ってたんですが、この頃にパソコンを買い替えることになり、マスタリング(音量の最終調整)プラグインをアップデートせざるを得なくなり、「今この曲を作り直すと、他の曲も全部マスタリングし直さなければならない」ことに気づいて断念、そのまま完成となる。

咲き誇る華(対戦メニュー曲)

これ忘れてた。結構開発終了直前まで会話デモシーンの曲を流用してました。別にそれで構わないと思ってたけども、この曲使いすぎかなぁ。

ここは力を振り絞り、対戦メニュー専用曲を作りましょう。そしてここまで読んでくれた方、気づきましたか?ここに来て往年の「4小節作って繰り返し、楽器を重ねる」復活。結局搾りかすだったんですなぁ。

このメニュー画面のカーソルが曲のリズムに合わせて点滅しているなんて誰も気に留めまい。

アメリカンはいや

はあー、2回に分けても長くなりました。せっかくなので歌入れに関しての話も書きますが、かなり細かいやり取りまで書くのでここから有料パートにさせてもらいます。

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