だうして薔薇と椿をおSwitchに?
薔薇と椿〜お豪華絢爛版〜、配信してから2ヶ月以上過ぎました。いまだにPR面ではフル活動してますが、作った時のことなどは早めにまとめておかないと忘れてしまうので開発後記としてまとめておくことにしました。
まずNIGOROファンではなく、つい最近薔薇と椿でコチラを知った方向けの説明ですが。
ゲーム制作資料はゲーム製作者の財産という考えと、無料にして無意に拡散しすぎると情報が歪むので、有料記事にしています。いずれ記事をまとめたお安めのマガジンにまとめる予定です。無料でも結構な分量は読めるようにするつもりです。
あと当然ですが、ネタバレまみれです。そりゃそうでしょう。
いつからおSwitchの話が?
薔薇と椿の歴史はいろいろなところで話してますし、それほど面白い話でもないので、まず最初にどこからSwitch版の話が進んだかの話をしましょう。しかし少しでも気を抜くと淑女言葉で書きそうになる。これは職業病だ。
Adobe Flashがサポート終了になるということでNIGOROのFlash製ゲームが遊べなくなりました。しかし人気のあった薔薇と椿は何かしらの形で遊べるように残せないか?というところからスマホ版を作りました。スマホアプリには容量制限があるというか、一定の容量を超えると何かしらの料金が上がるみたいな話を記憶してます。細かいことはいちいち記憶に残さないのが長生きの秘訣です。
ゲームの仕組みさえ作ってしまえば、絵やストーリーを差し替えればシナリオを増やせるという考えでした。しかし配信始まる直前にコロナ禍になったり、課金最重要国と考えていた中国で申請が通らなくなったりと、続けても利益は不透明という状況でした。
そもそも計画だけで止まっていたシナリオ3をなんとしても世に出したいと思っていたんですが、人員や予算を考えるとそれも難しいなぁと落胆していました。
そこに「薔薇と椿、Switchで出さないかい?Joy-Con振ると楽しいZE?」と外人から声をかけられました。
もう発表はされていますが、声をかけてくれたのはアメリカのWayForwardという会社です。インディーゲーム会社としてはかなりの老舗で、代表作「シャンティ」シリーズはゲームボーイアドバンス時代から続いてますな。
パブリッシュも積極的にやっていて、我々のような開発専門のインディーで良さそうな作品を見つけては声をかけているんでしょうな。
これは願ってもない提案、シナリオ3を実現するチャンス。しかし我々NIGOROは海外企業に苦い目に遭わされた経験が多いので警戒心が解けません。
話は分かった、まぁSwitchの開発機も持ってるからJoy-Con周りの研究から始めておくよ。というような返事をして話半分で聞いてました。事実、正式な契約書が届いたのは話が来てから1年後でした。PLAYISMの配信で「情報公開間に合いませんでした」と発表したプロジェクトはこれのことです。ちょうどあの頃が「契約書がそろそろできると聞いてるんですが……」ぐらいの時期でした。
まず初めに要望ありき
さてそれではまずWayForwardから出された、Switch版の要望を紹介しましょうか。我々から出た企画ではないので、こっちが大元の企画ということになります。
Joy-Conでおビンタ
対戦モードをつける
オープニング・エンディングソングをアニメ付きで
フルボイスにする
コラボシナリオも全部入れる
こんな感じだったかな。こっちはこっちでスマホ版での展開も手詰まりだったので「うん、いいよ。」と安請け合いしました。これが後々大変なことになるのですが。1つずつ順番に詳細を書いていきます。
Joy-Conでおビンタ
これは読んで字の如く。Joy-Conを振る操作をそのままおビンタにしたいと。
これはまぁSwitchに移植するならわかる話ですが、スマホ版はスワイプ操作だったので、入力周りどころかルールまで変える可能性があるかもぐらいには思ってました。
対戦モードをつける
これも安請け合いしたなぁ。というよりこれが一番強い要望だったな。日本ではおすそ分けプレイでローカル対戦で遊ぶ人ってのがあんまりイメージできなかったんですが、ひょっとすると海外では盛んなのかもしれません。
オープニング・エンディングソングをアニメ付きで
これは最近のWayForwardが力を入れているところで、シャンティやリバーシティーガールズでも歌とアニメをつけてます。
フルボイスにする
まじか、そんな必要あるか?と思ったけども、この辺りは欧米ではボックス版発売したいのか豪華にしたいって目論見もあるのかねぇ。
コラボシナリオも全部入れる
向こうからの要望は公開されていたシナリオ1、2とラムラーナとファタモルガーナの館シナリオ。そう、ファタモルガーナも要望に入ってたんです。
しかしだなぁ。あれはコチラで絵を描いたわけでもないし、別コラボで声優がついてるし、3社に跨いでのやりとりが大変そうだ。それより何より、こんなちゃんと実現するかどうかも定かでもない話にノベクタを付き合わせるのは申し訳ない。ということでこれはこっちから無理と伝えておきました。
その代わりと言ってはなんだが、未公開のシナリオ3があるよ!ってことで話をまとめました。その時にはシナリオ4のネタもあったのだけども、作業時間とか考えると無理かな?と慎重になってたんですが。でも思いついた話は形にしたいし、この機会を逃すともう薔薇と椿に商品化の機会はないだろうと思い、後々「実はシナリオ4もやりてぇんだが」と話を持ちかけました。
恐怖、おJoy-Conの実態
さて契約ができたところから本格的に開発をスタートさせます。話が来てから1年も何もせずに我慢できるほど大人ではないので、この時点でSwitchのJoy-Conのプログラム研究、全キャラクターの待機立ち絵ぐらいまではできてたかな?
絵描き担当の自分の作業はスマホ時代と何も変わらない。他のゲームの開発も進んでいたので、空いた時間に少しずつ追加されたシナリオのキャラ絵を描き続けるのみ。難航したのはJoy-Conのプログラムだ。
まずはNIGORで会議を行い、Joy-Conを振ることでスワイプと違う部分はどこかという根本的な話から煮詰めていきます。
研究段階でわかっていたのは、我々ついついコントローラーを振ると言われるとWiiリモコンが頭に浮かぶんですよ。なーんとなく、あれと同じぐらいのことはできるんじゃないか。だからスワイプがリモコン操作になるだけぐらいに思っていました。だとしたらスマホ版で実装計画があった、後の敵になる程戦いにくくするために顔の位置を動かす敵が増えるなんてアイディアも使える。それはすでにスマホ版のプログラムでも実装可能なように作られてました。つまり顔の高さに合わせてJoy-Conを振り上げたり振り下ろしたりするつもりだったんですな。
しかしJoy-Conを研究すればするほど、Wiiリモコンとは全く構造が違うことがはっきりしてくる。
Wiiリモコンは赤外線を使ってリモコンの向きというか、モニタのどの位置を指しているってのは結構しっかり把握できるんですが、Joy-Conは赤外線ではありません。小さいコントローラーの中にジャイロという機構が仕組まれてます。
つまり、正確な向きや位置が出せないんです。もちろん不可能ではないです。しかし基本構造が「中のジャイロにどの方向に加速がかかるか」という作りなんです。
まずは企画書通りにJoy-Conを振ってビンタするところまで進めたのですが、他のメンバーが遊ぶと上手くビンタできない。なんでだ?
原因はJoy-Conの握り方。というかJoy-Conがどっちの方向に振られるかで返ってくる数値が違うというか。
これを解決する方法はいくつか考えられましたが、一番確実なのが「ゲーム開始前にテレビに向かってJoy-Conを正面に向けて位置リセットをする」と言うものでした。しかしこれも問題がある。
正確に言うと「テレビに向かって」ではなくて「Switch本体に向かって」Joy-Conの向きをリセットするんです。でもテレビに対してSwitchをどこに置いてるかなんて人によってバラバラですよねぇ。
どこかで割り切らねば、お厳しい
他にも「これ厳しい」「あれ無理」みたいなのが次々発覚していきます。
例えば「ビンタした後に次のビンタのために手の位置を戻す」てのが難しかったんですよ。理由は端折りますが、この辺りで「難しいならターン中一発ずつにルール変えようか」となっていきました。
企画者の俺としては「Joy-Conを振るだけの簡単操作でできるのが理想」と思ってたので、「ビンタするとき・戻すときで押しているボタンを変えれば確実に認識できます」と言われても、しばらくは悩んでたなぁ。
こんな感じで違う実装を提案しては「こりゃ難しい」の連続。安請け合いのしっぺ返しその1です。
このぐらいの頃にボクの中の大事な何かが切れた。
「もーうわかった。NIGOROらしい、ゲームとしての深み、駆け引きの妙とかいったん忘れる。振れば当たるぐらいのお手軽路線で広い層に向けて作りましょ!」と方向転換しました。
例えばクリティカルの仕様なんかは「腕を振りながらJoy-Conが正面を向いた時(ビンタが顔に当たる瞬間のイメージ)にRボタンを押すとクリティカル」てのが理想だったんですが。振ってる向きが取れないんじゃしょうがあるめぇよ。強く振ったらクリティカルでいいや。
顔の高さによって振る方向を変えるのもヤメ。だって無理なんだもん。振れば当たる。
この時点でスマホ版の「顔をしっかり狙わなければならない」ゲーム性がなくなるわけですから、ルールだけでなくバランス、敵のパラメーターなんてスマホ版とはまるで変わりました。この仕様じゃ「難しくするのに限度がある。ひょっとしたら難易度めちゃ下がるかも」と思いましたが、いいよもう。誰でもクリアできるように、広く皆様に楽しんでもらいましょう。
もちろん、新仕様が定まってからその仕様の範囲で難易度の変化、駆け引き、奥深さは追及しましたよ。それは当然です。
ここからは会社同士のやりとりなどもあるので有料にします。
結構長め、濃密なこと書いてますのでよろしければどうぞ。
盛り上がるのであれば、もっともっと掘り返してみようと思います。