北村薫『月の砂漠をさばさばと』を読んで
北村薫さんの本はこの一冊しか持っていません。
いつ買ったのかもおぼろげ。たぶん、大学生のころ。
なんで女子大生だった私がこの本を手に取ったのか、正直まったく思い出せません。
でも、自分も母になったいまだからこそ、読んで気付かされることや、心に染み入るところがありました。
あらすじ
9歳のさきちゃんと作家のお母さんは二人暮し。毎日を、とても大事に、楽しく積み重ねています。お母さんはふと思います。いつか大きくなった時、今日のことを思い出すかなーー。どんなときもあなたの味方、といってくれる眼差しに見守られてすごす幸福。かつて自分が通った道をすこやかに歩いてくる娘と、共に生きる喜び、切なさ。やさしく美しいイラストで贈る、少女とお母さんの12の物語。
我が子に、おまもりの記憶を
お母さんは、さきちゃんの小さな心の機微を見逃さないように、そして、好奇心の芽を摘まないように、丁寧に、丁寧に、接しています。
この日々は、さきちゃんが大人になってつらいことがあっても、きっとさきちゃんを守ってくれる。
私にもそんなおまもりのような記憶がたくさんあります。
学校から帰ると、毎日「おかえり」と返事をしてくれたお母さん。
ベランダから洗濯物を取り込んで、せっせと畳んでいるお母さんに、私はその日の出来事をいっしょうけんめい話していました。
お母さんは、「うんうん」と聞いてくれました。
お味噌汁の匂いがして、テレビから夕方のニュースの音が流れていました。
土曜日になると武庫川沿いをジョギングするお父さん。
私は首からストップウォッチをぶら下げ、決まって自転車でついて行きました。
10キロ走ってから、帰り道にあるコンビニに寄ります。
必ず買ってくれるホットレモンは、甘くて温かくて、なんだか特別で、お母さんにも弟にも内緒の、私だけが知っている味でした。
なんでもないような日常だけど、子どもは覚えています。
この本を読みながら、もう26歳でお母さんの立場の私が、9歳のさきちゃんの気持ちもよくわかるのです。
お母さんとの穏やかな暮らしが、さきちゃんの人生を支えていくおまもりになるのでしょう。
親子すれ違うことがあったって
お母さんは、いつもさきちゃんの気持ちをよく考えて言葉を発するし、行動しますが、それでもたまに、さきちゃんの真意を知らずに咎めてしまうこともあります。
私もきっとこれから、息子の想いを汲み取ることができないままに叱ってしまうこともあるでしょう。
そんなときに、「お母さん、実は僕、あのときこんなことを考えていたんだよ」って、正直に話をしてもらえるような、そんなお母さんでありたいと思いました。
子どもと対等で自然体なお母さん
さきちゃんのお母さんは、明るくて、ユーモアがあって、おちゃめ。
さきちゃんと一緒に空想したり、さきちゃんのお話を子どもの話と思わず真剣に聴いたり、自分が悪いことをしたと思ったらきちんとさきちゃんに謝る。
母親だからといって、上から目線で価値観を押し付けたりしない。
教育しようだなんて思わない。
あくまでひとりの人間として尊重する姿勢が、常に感じられます。
さきちゃんとお母さんは、暮らしを営む一つのチームなのです。
私も、息子と生活のチームを作っていける、そんな家族になりたいな。
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