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「業務改善助成金」の内容変更

こんにちは。社会保険労務士の町田です。
本日は、「業務改善助成金」について8月1日から取扱が変更になり、使いやすくなりましたのでご案内したいと思います。

業務改善助成金:中小企業・小規模事業者の生産性向上のための取組を支援|厚生労働省

1.「業務改善助成金」とは?

「業務改善助成金」はかなり前から存在する助成金で、当初は非常に人気のある助成金だったのですが、徐々に適用できるケースが少なくなる・助成される範囲が狭くなる等の改正があり、近年ではあまり使われていない助成金になっていました。

目的は、事業場内での最低賃金の引き上げです。昨年度は「新型コロナウイルス」の影響により、地域別最低賃金はほとんど引き上げられませんでしたが、その前数年間は毎年20円前後の引き上げが行われてきました。
中小企業で最低賃金の引き上げに対応するためには、売上向上や経費削減、生産性向上が必要になりますが、そのためにも経費(投資)が必要です。この「業務改善助成金」は、事業場内での最低賃金を一定以上引き上げ設備投資などを行った中小企業・事業主に対して、その設備投資費用の一部を助成するものです。
助成率は、事業場内最低賃金が900円未満の事業場については4/5、900円以上の事業場については3/4です(生産性要件を満たした場合には、それぞれ9/10、4/5になります)。但し、引き上げ額や対象の人数によって上限額が設けられています。

2.8月1日からの変更内容

業務改善助成金が使いやすくなります(リーフレット)[PDF形式]

(1) 上限額の見直し(①コースの追加)

上記の通り、引き上げ額や対象の人数によって「業務改善助成金」の支給額には上限が設けられています。
まず、「最低賃金をいくら引き上げる予定なのか?」によって「コース」が設定されており、これは最初に「計画書」に記載するのですが、従来の「20円」「30円」「60円」「90円」に加えて、「45円コース」が追加されました。
例えば、対象者が5人の場合で、「30円は引き上げられるけど、60円上げるのはしんどいなあ」という場合、従来でしたら「30円コース」を選択して上限額「70万円」だったところ、今回の「45円コース」を選択することで上限額を「100万円」に引き上げることができます。

(1) 上限額の見直し(②人数区分の追加)

従来、各コースについて引き上げる対象者の人数が「7人以上」の場合には一律の金額でした。例えば「60円コース」の場合、7人以上でしたら10人でも一律「230万円」が上限になっていました。
今回の変更で、新たに「10人以上」の区分が設定されました。例えば「60円コース」で対象者が10人の場合は「300万円」が上限になります。
※ただし、「賃金要件」と「生産量要件」を満たす必要があります。

(2) 対象となる物品の追加

「業務改善助成金」の対象となる物品は、「生産性の向上、労働能率の増進に資すると認められる設備投資等」ですが、パソコンや車両等は汎用的なものと捉えられ、「業務改善助成金」の対象からは除外されていました(以前は認められていたこともあります)。
今回の変更では、パソコン、スマホ、タブレットや貨物自動車の新規購入であっても、生産性向上の効果が認められる場合等については対象になる可能性が出てきました。
※但し、「生産量要件」等を満たす必要があります。

(3)注意点

上記の変更のうち、「②人数区分の追加」については、通常の要件に加えて以下の要件も満たす必要があります(満たさない場合は、10人以上であっても「7人以上」の上限額が適用されることになります)。

賃金要件
事業場内最低賃金が900円未満であること。
生産量要件
売上や生産量などの事業活動を示す指標の直近3か月間の月平均値が、前年または前々年の同月に比べて30%以上減少していること。

また、「(2) 対象となる物品の追加」については、通常の要件に加えて以下の要件も満たす必要があります。

生産量要件
売上や生産量などの事業活動を示す指標の直近3か月間の月平均値が、前年または前々年の同月に比べて30%以上減少していること。
賃金引き上げ額の要件
引き上げ額が30円以上であること。

3.個人的意見

今回、急に「業務改善助成金」の見直しが取り上げられたのは、中央最低賃金審議会において「28円増」が決定されたから、と思われます。新型コロナウイルスの影響で業況が改善しない中、この数字のインパクトは大きなものでした。

最低賃金3%上げ、全国平均930円 28円増を審議会決定_ 日本経済新聞

様々な政策について、激変緩和措置として「助成金」を利用する、というケースはあります。例えば、「新型コロナウイルス」に伴う休業について、国は直接従業員に補償するのではなく、事業主が休業手当を支給し、その分を「雇用調整助成金」で補填する、という対応をとりました(個人的には、これは国の責任放棄と、事業所への責任押し付けと捉えています)。

しかし、本来の「助成金」のあり方は、消極的な激変緩和措置ではなく、積極的な政策目的の推進であるべきではないでしょうか。特に今回の「業務改善助成金」については、何が「生産性の向上、労働能率の増進に資すると認められる設備投資等」が不明確なこともあり、徐々に使われなくなってきた経緯もあります。また、厚生労働省の判断が、のちに会計検査院の検査によって「不適切な支給だった」と覆される可能性もあります。

また「業務改善助成金」は、事業所が設備投資を行った後で、助成金によって補填される仕組みであり、いったんは全額の経費を事業所が負担する必要があります。特に「新型コロナウイルス」の影響によって生産量が減少している事業所が、その負担に耐えることができるのでしょうか?

今回のケースでは、「助成金の拡充」でカバーするから、という前提で、業況の充分な判断を行うことなく「最低賃金引き上げ」を安易に決定しているように感じます。本当に28円引き上げが妥当なのか?中小企業が雇用を維持していけるのか?を確認し、各都道府県の最低賃金審査会が適切な判断を下すことを期待します。


本日は以上です。
最後までお読みくださいましてありがとうございました。

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