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「あたしは柴犬のアキ」12

 朝、ママがお庭のお花に水遣りをしている時、「変ね、ボールのお水がほとんどないわ。アキちゃん飲んだの」とあたしに言ったけど知らんぷりして、いつものように走ったり、寝転んだりして平静を装った。みんなが出かけるまでいつもの様に過ごした。

 一人になった。ようし、今日もやるわよ。今日中に絶対掘りきるわよ。どんどん掘った。向かいのおばちゃんが声をかけても、隣のおばあちゃんが声をかけても今日は走っていかなかった。あたしは夢中だった。少し疲れたので休憩した。お腹が空いたなと思ったとき遠くにどら焼きが目に入った。隣のおばあちゃんが投げ込んでくれていたんだ。おばあちゃんありがとう。
 昼過ぎには穴を掘り終えた。向こう側に顔を出してみた。凄い。ここからお外に行ける。あたしの胸は高鳴って思わず「ワンワンワーン」と吠えた。すると遠くの方で「ワンワン」とモモちゃんが応えてくれた。「やったね。おめでとう」って言ってくれている。

 さっそく外に出てみた。誰にもバレないように慎重に慎重に。とりあえずモモちゃんのお庭まで行き、外出成功の報告をした。モモちゃんは「今日はちょっとだけにしておいたら。見つかったら穴掘りが台無しよ」というので三本目の電柱まで行って帰ってくることにした。
道路を歩いた。三本目の電柱ならいつも散歩で通っているので何も怖くなかった。

 隣のおばあちゃんのお家の玄関をチェックした。誰もいないのを確認して歩き始めた。クンクン、クンクン。凄い。いつまでも匂いを嗅げる。誰にも引っ張られない。あたしはあちこちを存分に嗅いでまわった。雑草を食べてみた。凄く美味しい。いつもは止められて食べられない。どうしてこんな美味しいものを食べさせてくれないのかしら。おしっこがしたくなった。やっちゃえ。うんちもしたくなった。やっちゃえ。あースッキリした。何、この解放感。自由になれた。あたしはいま自由なのよ。雄叫びをあげて吠えたい気持ちを抑えて心の中で叫んだ。暫く自由を満喫していたら、いろんな疑問が湧いてきた。あたしはなぜ家で飼われているの、みんななぜリードで繋がれているの。私は茫然自失状態だった。

 「ワンワンワン、ワンワンワン」モモちゃんが吠える声で我にかえった。モモちゃんが帰って来なさいって言ってる。モモちゃんのところまで帰ると「長すぎるわよ」とちょっときつめに言われた。心配してくれているのね。モモちゃんは本当のお姉ちゃんみたい。ちょっと嬉しかった。それから私は穴をくぐってお庭に戻った。楽しかった。


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