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猫と犬の抗争

本編は猫と帽子の創作コンテスト(えぴさん)において、「白ショートショート賞」を受賞しました。ありがとうございました。

侵入者の前に立ちはだかる者

日本のある小さな町で暮らす、A家のニャー子(仮名)は夜遊びが好きだ。

だが、飼い主から夜8時から朝5時までは外出を禁止されているため、朝になって開放されると外へ飛び出して行く。

お気に入りは、となりのB家の納屋である。ところが、その納屋にたどり着く前に外で番犬が待ちかまえている。

今日もニャー子は忍び足でA家の茂みから、B家をうかがう。犬があくびをしているのが見える。

彼女は生垣に近づいた。すると、早くも匂いを嗅ぎ付けた犬が、ギャンギャン!ギャンギャン!と威嚇。

悪女の手口

ニャー子は彼が鎖につながれているので、吠えるだけが精一杯だと知っている。しかも老犬だ。

ニャー子はほくそ笑む。生垣から頭と耳だけ出してみる。

犬「(心の声)あ、くそ!ちょっとだけ出しやがった!なんてなめた態度なんだ!こっちはワシの縄張りだぞ!来るんじゃねえぞ!」

ギャンギャン!ギャンギャン!飛びかかりたいのに、鎖で前にいけない。

ニャー子はまたもほくそ笑む。今度は目と鼻まで出して見せる。ほらほら~こっちだよ、おじいさ~ん。

犬「(心の声)あ、あのバカ猫!鬼ごっこやってんじゃねえぞ!こっちを見るな!鎖につながれたオレを見るんじゃない!」

ギャンギャンギャンギャンギャン!ウザい猫をぶっとばせず、吠えまくる老犬。

吠えられるほど、ニャー子は楽しくてしかたがない。喉をならして、陶酔の表情だ。今度はこんなのはどう?と顔を引っ込めて、片腕だけひょいと見せる。

猫「(心の声)ハイ、右ひじ左ひじ見て見て~右ひじ左ひじ見て見て~♩」
犬「(心の声)なにやってんだ、クソ猫!チラチラひじ見せるんじゃねえ!くそっ、この鎖さえなければあんな猫、ボコボコなのに!」

ギャンギャン!ギャンギャン!

番犬の名誉を賭けて、血管が切れそうなほど吠えまくる老犬。だが、それも長くは続かず、やがて体力を消耗させ、肩で息をはじめる。そして、最後にはその場にぐったりと寝そべってしまう。

敵の戦意喪失を確認したニャー子は、犬小屋の左側面からゆっくりとB家に侵入。もはや、犬は叫ぼうにも喉が枯れ果てているため、フェー、フェーしか声が出ない。

そして、ニャー子は悠々とB家の納屋にたどり着き、惰眠を貪るのだ。

漁夫の利を得る者

その頃、ニャー子の留守中のA家には、いつものように野良猫が侵入し、ニャー子の昼メシを横取りしていた。

もどってきた彼女は空になった皿を見て、腹立ちまぎれにそとへ飛び出していき、庭の小鳥たちに飛びかかっていくが、空へいなされてしまう。

ああ、イライラする!ふてくされたニャー子はゴキブリなどを捕まえては、飼い主の悲鳴をよそにクチャクチャとガムのように口の中で転がすのであった。

かつて住んでいた東京のマンションでは、あんなに可愛かったニャー子。田舎暮らしですっかりスレた女になってしまった。



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