ガジローの本当の災難
※この話は前回から続いています。
ささやかなプレゼント
亡くなったハチローになにかしてあげられることはないかと考えた妻は、妙案を思いついて夫に話した。
「明日、火葬場にもっていくっていってたわよね、奥さん」
「ああ」
「ダンボールでかわいい棺をつくってあげようかしら」
「犬用の棺桶なんていらないだろ。やめとけ、やめとけ」
「冷たい人ね、そういうわけにはいかないわよ」
棺桶をつくるにあたって、適当な大きさのダンボールを用意した妻。レースとたくさんの花をあしらった。
「棺の大きさはこれでいいかしら。小さいかなあ。ハチローちゃんってどのくらいの大きさだったかしら」
「さあな。ためしにガジローでも入れてみろ。大きさ、ほとんど同じだろ?」
「あ、そうね」
かわいい兄弟のために
えっ、オレ?!冗談じゃないよ!気配を察する老犬ガジローが、慌てて二階へ脱走をはかる。棺桶に入るなんて縁起でもない。やめてくれ!
「待てガジロー!」
熟年夫婦が懸命に追う。
「こいつ、おとなしく棺桶に入れ、ガジロー!」
嫌がるガジローだが、あえなく捕獲され、棺桶に入れられた。
「こらっ、じっとしてろ、ガジロー!」
「そうよ、あんたのかわいい兄弟のためなんだから」
これは動物虐待なのだろうか。イヤがっているペットを無理やり棺桶に入れるのだから、そうともいえる。
「あら、ちょうどいいサイズじゃないの!」
「おお、ほんとだ!」
「フフフ、あんたのときもこの大きさに入れてあげるからね」
あまりにもリアルすぎるジョークに、白内障を発症中の老犬はうなだれるしかなかった。
棺桶はさっそくハチローの飼い主に届けられた。奥さんに感謝された妻は、その流れでハチローの火葬にも立ち会った。火葬代2万2千円也。
ガジローは犬なのか、家族なのか
1か月後。自宅に親戚が集まった場(ソーシャルディスタンス時代のはるか前)で妻がその経過を話したことから、ある論争が巻き起こった。
「わたしはガジローが亡くなったら、うちのお墓にいっしょに入れてやるつもりなのよ」
とたんに、70歳すぎの実の姉が猛反対。
「アタシはやだよ、そんなの!」
「姉ちゃんがいっしょに入るわけじゃないでしょうに!だいたい、ガジローは家族にかわいがられてたんだからいいじゃないの!」
「犬は犬!」
「犬も家族!家族!」
騒がしい場所をのぞきにくるガジロー。ここで正論ぶったことを言う次女。
「あのね、犬があんたにとっては家族でも、先代やその先のご先祖様にとってはそうじゃないでしょうが。あんたがガジローを家族の一員って言ったって、ご先祖が見ず知らずの動物をいっしょにお墓に入れられたら、どんな気持ちがすると思うのよ」
「ちがうの!お墓にいっしょに入るわけじゃないのよ!お墓の敷地の隅にちょっとだけ骨を埋めてあげるだけよ。時間がたてば土になっちゃうし、いいじゃないの」
「気持ち悪いよ!」
ビクッ。気持ち悪いという言葉にナーバスになるガジロー。
「そんなことないわよ、家族なんだから!この前死んだハチローちゃんだってそうしたのよ」
「うちだって猫飼ってるし、家族だと思ってるけど、お墓には入れないよ。共同墓地でいいじゃないの。あの子はわたしには家族だけど、ご先祖にはなんの関係もないんだから申し訳ないよ。それにね、動物だってほかの動物といっしょのほうが楽しいでしょ」
先祖へのケジメはわたしが
「そんなことない!いじめられるかもしれないじゃないの」
「あんたなに言ってるのよ、幽霊が幽霊にいじめられるって?!」
「幽霊じゃない!犬の霊魂!」
「なんでもいいよ!そんなことあるわけないでしょうが!」
「ガジローは意気地なしだし、心配なのよ。もういいわよ、ご先祖にはわたしが説明するから!」
「どうやって?!」
「あとからわたしが入ったときに、ごめんなさいって」
「それで許してくれりゃいいけどねえ」
「わかってくれるよ、絶対!わかってくれる!もうほっといてちょうだい!」
家族は家族。お墓の敷地に入れるか、入れないか。どっちがいいのか、さっぱりわからない。
その後、亡くなったガジローの骨は、無事にお墓の隅に埋められた。ご先祖に「あとから入ったときに、ごめんなさい」と謝罪するはずの妻はそれから5年以上も生きている。
ご先祖は温かく迎えてくれただろうか。どういうつもりだと怒っているだろうか。ガジローが肩身の狭い思いをしないように、冥福だけは祈りたい。
完
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