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ナポリタカオの小ネタ劇場

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ナポリタカオの小ネタオリジナル作品をまとめたマガジンです。登場人物のN氏とは著者・ナポリタカオ本人のことです。
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#ショートストーリー

スーパーマーケットのテロリスト

食料品とのソーシャルディスタンス数年前、世田谷区内のあるスーパー。 N氏は50歳前後に見えるオジサンが、自分の鼻をいじりながらどこかソワソワと歩いているのを目撃した。 遠慮せずにはっきり書けば、鼻クソをほじりながら歩いていたのだ。 彼はふと、自分の買い物カゴの中の食パンに目をやる。そして、何を思ったのか、急にUターンして食パン売り場へもどった。 イヤな予感はすぐに的中。オジサンは鼻クソをほじった右手で一度カゴに入れた食パンをもどし、別のメーカーの食パンを入れ直したのだ

ガジローの本当の災難

※この話は前回から続いています。 ささやかなプレゼント亡くなったハチローになにかしてあげられることはないかと考えた妻は、妙案を思いついて夫に話した。 「明日、火葬場にもっていくっていってたわよね、奥さん」 「ああ」 「ダンボールでかわいい棺をつくってあげようかしら」 「犬用の棺桶なんていらないだろ。やめとけ、やめとけ」 「冷たい人ね、そういうわけにはいかないわよ」 棺桶をつくるにあたって、適当な大きさのダンボールを用意した妻。レースとたくさんの花をあしらった。 「棺の

ガジローの災難

ガジローがいない・・もしかして ある地方都市でささやかに小売業を営む60代の夫婦の話である。妻は午後から愛犬、ガジローの姿が見えないのが気になっていた。 「どこに行っちゃったのかしら。2階にいればいいんだけど……」 ガジローは来客が店の自動ドアを開けると脱走してしまい、行方をくらましてしまう習性がある。 店は大通りの四つ角にあるため、何キロも離れた場所を放浪したあげく、帰り道で車にはねられてしまい、うしろ足を手術したこともあった。 当日の夕方だった。妻は近所のマサルさ

上野のミイラと家庭に疲れた女

※この話は前回から続いています。 ミイラの前でおしゃべり男上野のミイラ展第2幕。N氏がガラスで囲われたミイラを鑑賞していると、横にふたりの子どもを連れた30代半ばくらいの夫婦が現れた。 近所の公園に家族で遊びに出かけて、そのノリで買い出しにやってきたような雰囲気。つまり、とてもラフなスタイル。 ミイラ展は暗がりばかりなのでどうでもいいものの、ラフすぎて館内で浮いている。 そしてダンナはおしゃべりだった。美術館でもときどきこんなオバちゃんがいる。「あたしは才能ないし、こ

突然、目の前を大名行列が横切るとき

社長の自虐ネタとはもう10年以上も前の冬の出来事である。だれに聞いてもあれ以来、こんな話を耳にすることはない。 コピーライターのN氏は広告関係の打ち合わせで、数人とプロダクションの社長である一升瓶太(仮名)に会った。当時、40歳前後に見えただろうか。 打ち合わせも終わり、一升が「まあ、一杯やりましょう」と言い出したので、メンバーはそのまま飲み屋に流れた。 最初はほがらかに仕事の話などをしていたのだが、 酒を飲むと一升はますます上手になり饒舌になり、自分のことを話し始めた