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【読書感想文】『わたしを離さないで』カズオ・イシグロ

小さな裏通りにトミーと一緒に立ち、これからテープ探しを始めようとしたあの瞬間、突然、世界の手触りが優しくなりました。

世界に手触りってあるんだ、と思いました。
触りに行かないと、世界って感じられないんだと。そして、優しいときもあるんだなーと。

カズオ・イシグロの作品は漢字2文字で言えば「緻密」でしょうか。描写がとことん細かくて、繊細です。

また、『わたしを離さないで』について言えば、こちらは冬の陽射しのようなお話でした。
常に「死」や「終わり」、「別れ」などの不安がつきまとっているけれど、それさえも包み込むような、一瞬だけど、美しく、繊細なお話しでした。

大きな問題提起で言えば、これは人間が人間たりえる条件と状態とは何かという話しかもしれません。が、私には「誰にでも美しい思い出はある」ということかなと思いました。

過去に浸っていては前に進まないかもしれないけど、思い出によって生かされることもある、そんな物語なのではないかと。

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