美保ちゃんへの感情

美保ちゃんにキスした事でむしろ自分の感情がより強まってしまった感じだった。

女性では良く「キスされて好きになる」「セックスしてより好きになる」みたいな話は聞くが、男でもそれはあるらしい。

何でも、好きな相手じゃないとは普通しないであろうキスやセックスをした事で、感情が行動に合わせて変化する「認知的不協和」って現象があるらしい。

人間って不思議だよな。

ともかく美保ちゃんの方はキスされた事実はあまり気にしてない風なのに、まさかの既婚者の俺の方が感情が溢れてしまってる事実に俺は絶望感を感じていた。

何故絶望するかと言えば、その気持ちが成就する事が有り得ないからに他ならない。

妻と離婚する気は更々ない。
遊びのつもりならこの先セフレくらいにはなれるかもと言う期待感はあったものの、自分にそこまでの恋愛スキルや甲斐性は無かった。

そして何よりも俺を絶望させたのは、この先また同じ様に誰かを好きになってしまったら、同じ様に絶望感を味わう事が確定している事だった。

俺はその日以来、胸が苦しくて飯が全く食えなくなった。
1週間で4kg体重が落ちた。

美保ちゃんとは翌週の金曜日にまた会う約束をしていたが、未来の無い関係性に終止符を打つべきなのかどうなのか、悩み続けていた。

家に帰ると毎日死んだ魚の様な目で飯も食わずに携帯をいじるだけの日々が続いた。

数日経って見かねた妻が「何かあったの?」と聞いてきたが、話せる訳もなく、

何でもないよ

と言うので精一杯だった。

苦しい日々だった。
たかだかキス程度でここまで気持ちが揺さぶられるなんて。
まあ自分の蒔いた種だけどな。

俺はこの先幸せになれる事は無いと本気で思った。

結婚前から恋愛経験が少ない事をコンプレックスに思っており、結婚した事でそのコンプレックスを解消するチャンスも無くなったが、そもそも恋愛したい欲望も消えてくれたのだと思っていた。

でも美保ちゃんに恋をしてしまった事で、解消することの出来ないコンプレックスだけがずっと残り続ける事実をまざまざと思い知らされた。

もう幸せになれないなら、もうどうなっても良い。

俺は妻に全てを打ち明けようと決心した。

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