チャーンレート(解約率)の計算で注意したいこと
SaaSビジネス、サブスクリプションビジネスが拡大の一途を辿る昨今では、解約率を意味するチャーンレート(Churn Rate)という言葉を耳にする機会も増えました。界隈ではお互いのビジネスのチャーンレートを比較し合ったり、「チャーンレートxx%を目指そう」という話などもよく耳にします。 しかし、一般に用いられるチャーンレートの計算方法は、扱いを気をつけないと間違った結論を導きかねないと考えています。
一般的なチャーンレートの計算方法
今更ではありますが、チャーンレートの計算方法は以下のとおりです。
月間の合計チャーン数 ÷ 月初のユーザー数
この計算式については、否定の余地はないように感じますが、全ユーザーをこの計算式に代入するような場合には、やや注意が必要です。何が言いたいかを以下で説明します。
ユーザーの解約タイミングとチャーンレート
ユーザーが解約しやすいタイミングというのはビジネスによって様々だとは思いますが、利用開始初期に解約が起こりやすいというビジネスは多いのではないでしょうか。例えば、セルフサービス型のSaaSなどは、簡単に使い始めやすく「使ってみたら期待していたものと違った」ということが多々あるので、この傾向が見られるのではないかと勝手に想像しています(あくまで仮説ですが)。
この「利用開始初期に解約が起こりやすい」という傾向を前提とした時に、冒頭に提示した 月間の合計チャーン数 ÷ 月初のユーザー数 で求められるチャーンレートがどのように変化するかを見てみたいと思います。
まず仮定として、毎月100人のユーザーが利用開始をして、翌月に10%、翌々月以降に毎月5%ずつ解約していくとします。つまり、N月に利用開始をしたユーザー群(コホート)のユーザー数とチャーンレートが以下のように推移するという仮定です。
これが毎月積み重なっていくので、ユーザー数はこんな感じで推移します(小数点以下四捨五入により、やや数字が合わないですがお許しください)。
ここまでは、なんら違和感かと思いますが、ここで覚えておいて頂きたいのは、新規ユーザーが10%→5%→5%→5%→・・・・ で解約するという各コホート内でのチャーンレートは全く改善していないということです
しかし、このデータで 月間の合計チャーン数 ÷ 月初のユーザー数 という数式を用いてチャーレートを計算するとこうなります。
お気づきの通りかと思いますが、各コホート内でのチャーンレートの推移は全く改善していないのに、全体として見ると勝手にチャーンレートが下がっています。何が起きてるのかというと、解約しにくい古くからのユーザーの割合が次第に増えていくため、全体としての解約率が下がって見えるのです。
加えて、新規ユーザー獲得数が徐々に減っているようなケースを想定してみます。ここでは新規ユーザー獲得が100人から95人、90人と毎月5人ずつ減っていくようなケースを想定します。するとチャーンレートは以下のようになります。
数値を上の表と比較すると、チャーンレートの改善幅がさらに上がっているのがわかると思います。こちらも理由は基本的に上と同じです。
計算は省きますが、逆に初月は解約率が低いけど翌月以降は解約率が高止まりするというケースでは、何もしなくても全体のチャーンレートが徐々に悪化して見えるようになります。
コホート別のチャーンレートを追うべき
以上の通りチャーンレートを計算する際に 月間の合計チャーン数 ÷ 月初のユーザー数 という数式をユーザー全体に当てはめてしまうと、実態を伴わない改善(や悪化)を示してしまうことがあります。 また、この計算方法では累計ユーザーの数や、ユーザー獲得のトレンドがチャーンレートに影響してしまいますので、この方法で計算したチャーンレートを他社と比べたりするのも要注意です。(そうでなくても業界や対象顧客によってチャーンレートは大きく変わると思いますし。)
これを回避する方法としては、導入月別のコホートでの解約率(先程10%→5%→5%→5%と仮定していた部分)が改善しているかどうかをウォッチしていくのがよいと思われます。
当たり前といえば当たり前のことなのですが、最近チャーンレートについて考える機会が何度かあり、気になったのでまとめてみた次第です。
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