これからの店舗で提供できる2つのこと。

緊急事態宣言が発令された後の4/13に、「これからの小売・店舗の価値について考えてみる」というのをnoteしたのですが、そこから1ヶ月、外出自粛を経てどこか緩和ムードも漂う中、いま一度、店舗の価値について考えてみました。

外出自粛で「集客=悪」になったのか

1ヶ月前、まだまだ世の中は「集まること=死」みたいな意識が強く、開けてる店舗はネットに晒され、「集客=悪」という状況に追い込まれました。今後、開けてるだけで窓を割られる事態まで発生しましたが、1ヶ月外出自粛した結果「精神的にも外出は重要」という気持ちになってる方も多いのではないでしょうか。

外出=買物、と同義ではありませんが、ECだけでモノを手に入れることにどこか物足りなさも感じていて、外で買物する楽しみを再認識することもあったと思います。

ニトリが、連日、年末並みに混雑してる。というニュースもありました。家具こそ、持ち帰りが面倒な商材であり、ECと相性が良いと言われますが、わざわざリアルで購入する、という人が後を絶たなかったわけです。

1ヶ月前は、「集客することが悪になり、ECシフトで店舗の役割は終わり」などと言われていましたが、そこまで極端には消費者の意識・行動は変わらなかったわけです。

とはいえ、全体の消費量が押し下がり、EC取引量が増えているので、2020年のEC化比率は間違いなく伸びます。日本国内のEC比率は2018年の段階では6.22%ですが、2020年、どこまでEC化比率が伸びるのか、というのは気になるところではあります。米国は15%前後から30%まで上がったようです。

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外出&買物はリスクか

では、これまで通りで良いか?と言われると、そういうわけでもありません。自粛していた百貨店などの小売店舗が、食品限定で店舗再開をしつつありますが、安心・安全への配慮はこれまでとは非にならないほど対応が煩雑になり、その分のオペレーションコストが増加しています。

例えば、5/7から食品フロアを再開する大丸松坂屋百貨店では、

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各種消毒、シールド設置、ソーシャルディスタンシング対応、体温検査、マスクチェックなど、これまで不要だったオペレーションコストがかかってきます。特に、売場面積の最大化のために狭小アイルにしている店内でソーシャルディスタンシングを保持する対応は困難でしょう。これは、顧客側にもかかるストレスであり、「体温チェックされてまで入りたいか」「並んでまで買いたいものなのか」という心理的ハードルを生みます

店舗は集客してなんぼ。何なら少し並ばせるぐらいがバンドワゴン効果も出て収益に繋がる、とされていたものが許されなくなりました。

顧客は来店することがリスクになったので、何かリターンが無ければ割に合いません。結果、店舗に求める価値は二極化するのではないでしょうか。

店舗体験の2つのアプローチ

では、二極化する価値とはどのようなモノでしょうか。

単純化すると、「わざわざ行きたい店舗か」という、これまでと何ら変わらない価値提供に尽きるのですが、アプローチが二極化すると思っています。二極化する際のフレームワークとして、下記、株式会社cocoの高橋俊介さんがまとめられていた購買フローで考えてみます。

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引用:「with&Afterコロナ時代の店舗の必要性とその役割について。2020年代は「自宅ファースト」なサービスを。」より。

今回のコロナの影響により、「認知」と「検討」が外出( リアル店舗)から、自宅に変わる、自宅ファースト化するという背景を説明した図になりますが、これで見ると、afterコロナにおいては、店舗の価値は「購入」段階のみで提供することになるようです。外出機会が減るので、安心・安全の視点で見ると、ローリスクです。

ここで考えるべきは、自宅ファーストを考えた場合に、購入段階で登場する店舗で提供すべきモノは何か。を考えるアプローチです。

このフローを見て、もう一つ考えられることがあります。それは「認知〜購入」までを全て「外出( リアル店舗)」で占める。というアプローチです。自宅ファーストを超える価値を提供することで、自宅と外出の境目を無くすということですが、外出機会がこれまで以上に増えるので、ハイリスクです。

ですので、アプローチとしては、それぞれ

1.購入段階のカスタマーサクセスに特化する。
2.店舗に全て任せられる購買体験設計にする。

という2通り考えられそうです。

購入段階特化型

購入段階の顧客利便性を高めるのは具体的にはどんなことが考えられそうでしょうか。

前提として、安心・安全の意識が高い顧客を対象とすることになり、早く店を出たい、自宅で検討まで終わってるので、目的のモノだけ買いたい。という顧客ニーズが高まります。

そうなると、「いかに早く欲しい物を買えるか」数値で見ると、「購買顧客の店舗回遊時間の減少」が一つのKPIになるかもしれません。

これまで、買い回りを向上させて客単価増を狙うのが一つの戦略でもあり、回遊時間を長くすることが一つのKPIにもなりましたが、今後は、これをいかに短くできるかが店舗の価値提供に繋げられるかもしれません。

施策としては、BOPIS(Buy Online Pick-up In Store)のような、ピックコーナーの拡充や、商業施設であれば、フロアマップの視認性なども重要視されるかもしれません。最近では、カーブサイドピックアップのようなドライブスルー形式の小売りまで現れて、個人的には継続的に利用されるサービスなのか懐疑的ですが、これも欲しいモノだけを早く買う、という心理からすれば妥当な施策だと言えます。

アパレルであれば、販売員も、顧客に対して比較・検討を促す接客ではなく、顧客が探しているモノを早く提供できるかという「購入段階」に特化する必要が出てきます。極端に言えば、在庫があるか確かめに行く時間は顧客満足を妨げる重大な要素になるの、店頭で在庫を把握できるシステムも整備する必要がある、などが考えられます。

では、販売員の業務は生産性の観点から効率化されるのか?と言うとそうではなく、「認知」〜「検討」に対するオンラインアプローチを販売員自身が強化する必要が出てきます

「認知」や「検討」が自宅ファースト化するので、販売員は、これまで認知段階で来店していた顧客へのアプローチ業務を、オンラインシフトして、自宅まで顧客を迎えに行かなければいけません。いらっしゃいませー、と認知段階の顧客を待っていた行動が、自分でオンラインに飛び込み営業をかけなければいけなくなったわけです。

インスタなどのSNSを販売員個人で活用したり、ライブコマースなどで動きのあるプロモーションを行ったり、店頭業務の効率化の代わりに、販促業務にリソース配分する必要が出てきます。その時の販売員の人材要件としては、ライティング技術や動画制作技術など、これまでとは異なる要件になるかもしれません

購入段階特化型は、店舗はいかに早く購入できるか、ということに価値を置きながらも、重要なのは、認知〜検討段階のオンラインシフトで集客をかけることで、自宅と店舗がお互いを補完し合うことで顧客満足を高められる、という設計になりそうです。

ただ、オンライン化したら全てがうまくいくわけではなく、WEB、ECの世界は新参者には厳しい激戦区です。SNSは筋トレみたいなモノで、武器にするには時間もかかるでしょう。そういう意味では、店舗から離脱した顧客を回収するほどのリターンを得るには忍耐が必要です。

店舗購買体験特化型

もう一つのパターンは、認知〜購買までを全て店舗で捕捉する。という考え方です。WEBで検索するより行った方が早く、より多くの有益な情報が得られると判断されれば、このパターンが通用しそうです。

具体的には、「この販売員から買いたい」「ここでしか買えない」など、ヒトやプロダクトに依存したアプローチが必要になります。ゆっくりと自分の時間を過ごす、という意味では、先ほどのアプローチと異なり、長い回遊時間が一つのKPIになります。

このアプローチは、これまで店舗で提供してきた価値に近いのですが、安心・安全が基本思想になって少し対応が変わってきそうです。

認知〜購買までを店舗で過ごすことは、回遊時間の増加に繋がり、感染リスクを相対的に高めます。そのため、集客人数を限定して顧客の安心・安全を確保する必要があります。具体的には「事前予約接客」という施策が取れそうです。

ヘアサロンのように、事前に来店予約を受付けて、場合によっては販売員の指名を受けて接客販売していくというアプローチです。かなりパーソナルな対応になるため、これまで以上に質の高い接客を受けることができ、集客人数を限定しているため、安全に買物を楽しむことができます。

D2C第一世代のBonobosのように、店舗で接客を受けた後にECで購入する、というショールーミング対応もあり得るかもしれませんし、ロイヤリティプログラムを組んで、優先的な接客などのファストパスなどで顧客のリテンションを高め、LTVを高めることもできるかもしれません。

このようなパーソナル対応は顧客の回転率を下げて、客数を稼ぎにくくするため、ラグジュアリーファッションなど、客単価が高く、顧客の捕捉率の高いカテゴリーには有用です。

感染リスクは高まりますが、わざわざ行ってまで話しをしたい販売員や、行けば発見があるメディア機能のある店舗であれば、ロイヤリティの高い顧客を囲めます。いずれにせよ、afterコロナにおいて、「認知」と「検討」段階を自宅に取られるのではなく、それ以上の価値を以って、全て店舗で囲い込むことが求められるので、これまで以上に販売員と顧客のコミュニケーションの重要性が増します。

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両極端に捉えた2つのアプローチですが、結果として、いずれも「販売員」の役割が重要になってくる内容になりました。

役割として、「オンライン集客できる販売員(店頭では素早い購買体験を提供)」と「ロイヤリティを高められるコミュニケーションが取れる販売員」という、大きくは2つの人材要件が見られ、それは販売商品や個人の特性に依存するところはありますが、販売員自身がこれまでとは異なる行動を取る必要が出てきそうです。

5月7日現在、自粛緩和とともに店舗再開する小売も出始めているので、今後の消費者動向を見て、また1ヶ月後には違うことを言ってるかもしれませんが、何か店舗価値再考の参考になれば。

Twitter @NaoyaTech


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