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これからの小売・店舗について考えてみる。

非常事態宣言の発令によって、小売店舗が休業を余儀なくされています。休業するか否かは、社会にとって必要か不要か、で峻別され、小売店舗の大半は「不要」と判断されたわけです。

今後、「不要」とされた小売店舗はどうあるべきなのか。先行きは全く不透明ですが、これまでもVUCA時代、と言われ続けてきたわけで、影響の大小はあれど、やることは同じ。今後の消費環境変化を予測しながら、その一歩先、半歩先を行くしかありません。

では、何が変わりそうか。

①リモートが増える。ギフトが変わる。

今回、最も影響を受けたのがワークスタイルで、出社しないことを前提とした消費行動を捉えていく必要が出てきます。

出社が不要であれば、スーツに着替える必要もなければ、靴を履く必要も無い、天気も関係ないので傘はいらないし、パンプスも履かないのでストッキングも履かない。オフィススタイルに支えられていた服飾、雑貨は山ほどあり、クールビズで死んだネクタイ産業の比ではない無いほどの影響があるでしょう。

オフィススタイルの変化は婦人服・紳士服の産業構造を変化させるほどの影響があるわけですが、他にも困るのが「ギフト市場」。自身の身の回りの雑貨を見渡すと、結構ギフトで貰ったモノが多い。ネクタイ、ボールペン、ハンカチ、カードケースなどなど。ちょっとした餞別に選ばれるのは「なんか仕事で使えるモノ」だったのですが、出社を前提としないことで「家で使えるモノ」の需要へ変化していきそうです。

Work From Homeの世界で使えるモノとして、マグカップであったり、タオル、クッション、ルームフレグランスだったり、これまでのファッション雑貨から生活用品雑貨に需要が移行して、百貨店でも上層階に追いやられているような住文化用品と呼ばれるカテゴリーの需要が増える気がします。

いずれにせよ、小池百合子元環境相が提唱したクールビズという概念が死ぬほどに、オールシーズンネクタイ不要、みたいなオフィススタイルの変化が一気に押し寄せてきたので、今後の消費行動に大きな変化を及ぼします。

②接触拒否。接客拒否。

ソーシャルディスタンスと呼ばれる不可侵の2mみたいな概念が出てきて、接触拒否の文化が生まれつつあります。これは、店舗において言えば、接客拒否とも受け取れる距離感で、これまで、ECに対して店舗の付加価値であった「販売接客」のあり方も変わってくるかもしれません。

「接客=リスク」と捉えられると、リスクに対するリターンが無いと接客の価値は無くなります。これまではノーリスクだったから高い確率で付加価値と捉えられてた接客が、マイナスの気持ちをゼロにする、もしくはプラスに持っていくまでに気持ちを高められないとサービスとして認められなくなります。

要するに、接客に対する期待値が相対的に高くなるわけです。

「良かったら、試着できますんで。」という無意味な接近は逆効果で、近づいてくるなら何か意味ある行動しろ、となります。動的待機やとりあえずアプローチ、というマニュアルは、今後デメリットがあることも理解した上で、わざわざ店舗に来た顧客は、一体何を求めているのか、をこれまで以上に突き詰めて頭を使った販売が必要になってくるかもしれません。

またもう一点、ヒトの問題として「販売員になりたくない人の増加」が懸念されます。わざわざ濃厚接触のリスクを負ってまで販売したくない、という感情です。私自身、少し人材サービス業に関わっているのですが、実際、まだ休業していない商業施設に勤務されてる方から、出社したくない、という声も頂いています。親から止められている、という話しも聞きます。

サービス業における人手不足は深刻で、パーソル総研が出している「労働市場未来推計2030」では、2030年のサービス業の需給ギャップは400万人とダントツトップ。新型コロナ影響前の試算であり、今後、さらに広がることが懸念されます。

これまでは給与や働き方といった待遇面の課題が多く、事業収益との見合いでコントローラブルな範疇でしたが、まさか、安全保障の課題が出てくるとは予想もしておらず、この安心・安全をどう担保していくか、という新たな課題が出てきているのが現状です。

それに対して、遠隔販売などのデジタル接客も出てきています。ANAのアバターインが有名ですが、このサービスは今のところ「接客の代替」に過ぎず、店頭接客以上の新たな価値を生み出してるとは言い難い。ただ、安心・安全を保証する新しい接客販売のスタイルとしてはアリなのかもしれません。

接客すらデジタルに移行するとなると、販売員のスキルとしては、接客スキルよりデジタル活用スキルが重視され、機械も触れない販売員は不要、と人材要件も変わってきます。

③多人数オンライン接続でできること。

WFHが一般化する中、孤独を埋めるために、家にいながらもオンラインでヒトと繋がろうとする動きが出てきています。ZOOM飲み会のような新しい飲み会スタイルもその一つでしょう。

個人的に面白いな、と思ったのは「オンライン観光案内」。Googleストリートビューを使って観光案内するもので、家にいながらでも旅行気分を味わえる、といったもの。Googleストリートビューが出てきた時も、世界中どこでも行ける、と思ったものですが、それはあくまで個人の楽しみでした。これを多人数オンライン接続して散策するようになった、というのが今回の新しい変化かと思います。

では、多人数オンライン接続というキーワードから小売店舗ができることは何か。

一つは、店舗からのライブ配信が考えられそうです。店舗に顧客が来ないことを前提に店舗側から発信する。1対1の顧客との繋がりから、1対多に接点を増やす。5Gの普及とともに重たいデータ配信も容易になるので、今から準備しておくことが重要です。そうなると、先ほどの販売員の人材要件にも関わってきますが、ライブ配信の映りや見せ方を知る人材が重宝されます。

店舗側から発信する有用性は、ソーシャルディスタンスの概念がどこまで根付き、尾を引くかにもよります。これまで、店舗は集客してナンボでしたが、集客してはいけない、という初めての事態に陥っています。店を満員にしてはいけないので、必然的に入店客数は減ります。これまでのように店舗で顧客を待っているわけにはいけなくなったわけです。ヨドバシカメラがNintendo Switchを店頭販売して騒然となったことが批判を浴びたのが一例です。これは、これまではある意味微笑ましい光景として見られていたのですが、世論がそれを許さない。3密は悪です。

これまでもインスタなどでライブ配信はできたわけですが、顧客が店舗にいたので、本気でやってこなかった。やる必要もなかった。ただ、顧客が来ないことを前提に店舗のメディア化を進めると、ECで売れることを前提に店舗のあり方を再定義しなければいけません。どこで誰の配信から売れたのか追跡できる仕組みや評価の仕組みも変えなければいけません。面倒です。ただ、今は顧客がオンラインに移行してしまったので、家のPCやスマホまで追いかける必要性が出てきました。

大きな課題があるとすれば、多人数同時接続はあくまでチャネルであり、コンテンツの魅力度がなければ届かないということです。そこは販売員が接客のプロたる理由を存分に発揮してもらい、今あるリソースを活用して、需要に沿った提案をし続ける必要があります。

個人的には、着こなしや自社商品の売り込みとかではなく、同業他社と組んで、他社の商品レビューとか本気でして欲しいです。実は買いました。など、等身大の声が聞きたいですね。

④シェアリング からモノ売りへ?

SGDsやESG経営と言われるように、サステナビリティへの対応が経営案件になる中、ここ数年で「シェアリング 」は一つの消費行動として認められ、サステナビリティの代表ビジネスとして隆盛してきました。これは、モノ売りをしてきた小売のディスラプターともいえる存在で、事業リスクとして捉えてる企業も多かったと思います。

ところが、自分と家族以外は信じられない、という事態において、他人とシェアすることへの不信感が生まれつつあるように思います。とくに、モノのシェアにおいては、誰が使ったか分からないモノへの不安は大きく、その対応として、いかに清潔でいかに安全か、を強く打ち出す必要性が出てきています。マズローの欲求段階説で言えば、安全欲求まで降りてきたので、社会欲求以上の欲求まで気持ちがいかない、といったところです。

では、自分のモノは自分で管理する。シェアしても良いけど、シェアされたモノは使いたくない、という風潮になるのでしょうか。

シェアリング の衰退は、地球にとって重要な話しなので喜ばしくないものの、ビジネス上、モノ売り小売業には朗報か、と思ったのですが、レンタルファッションのairClosetは新規会員を大きく伸ばしているという報道もあり、WFH環境の中、せめてファッションで気分転換したいという需要も強いのか、EC購入では無くレンタルという手段に需要が移行している側面もあるようです。シェアリング は今後どうなるのか、小売にとっても重要な論点であり、今後もトレンド注視する必要がありそうです。

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まだまだ色々あるのですが、ここまでで考えられるのは、「重要」と考えられていた概念が「必要」になったことです。

これまでも、ファッションのカジュアル化や人手不足問題、ライブ配信の可能性、シェアリング の概念など、全て存在していて身近にありました。

それが突然必要になったのが、今回の変化かと思います。どこか身構えつつも対応してこなかったことが、一気に押し寄せてきたので慌ててしまっている状況。ただ、対応はできますし、今は時間はあります。

言葉遊びみたいですが、「必要」になったということは、そこからまた「重要」と思われる概念が出てきて企業の差別化に繋がります。そして、その重要がまた必要に、、の繰り返し。いかに先読みして取り入れるか。

未来は不透明なのは今に始まったことではないので、時間のある内に妄想を膨らませて考え抜くのが良さそうです。

これを機に、多くの方と、小売・店舗を考えてみたいですね。

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