シシテル #魍魎
「狭間が……開いた…」
初老の男が驚きのあまり帽子を深く被り直しながら口をぽかんと開けている。
一葉「癒鬼…もう大丈夫…」
僕は背後にあるその闇に気付かなかった。
僕の背後から足音が聞こえる。
鉄と地面が擦れ合うような音が…
その音に驚き振り返ると武装した一体の髪の長い鬼が癒鬼に視線を向ける。
鬼「癒鬼……貴様が名付け親か…」
一葉「えっ…鬼?」
鬼「ん?鬼とわかっているだろうに…なんだその顔は…まさか、魍魎道を初めて開いたのか?あぁ〜そうか…確かにお前とは会ったことがないな。」
僕の中で目の前の鬼の言っていることがわからなかった。
その鬼の後ろにはぽっかりと空いた闇が広がっていることに気がついた。
「バカな真似を一葉君…それを閉じなさい!」
初老の男はどこか焦っているようだった。
一葉「嫌だ…閉じ方なんて知らない!」
「いいから早く閉じろ!くそ…命ある人間に触れては重罪に値する…どうすれば…」
初老の男の存在に気づき髪の長い鬼が視線を向ける。
鬼「そうか…お前が癒鬼を…」
「違う…話をしよう…そちら側とでは私の立場が違う…決して地獄から攫ったりなどしとらん!」
鬼「黙れ…貴様…神導を背いたのか。」
「違うと言っている!私はただ神事の理を司る為にだな…」
鬼「攫ったのだな…わざわざ地獄の扉を開けて…」
「えーい…煩わしい怪異め…リープサイズ!」
初老の男がそう唱えると身の丈の倍はあるであろう大きな鎌が手元に現れた。
鬼「死神…なるほどな…命這い(*めいばい)をするつもりか…つまらん」
*命這い→死神の担当エリアの死人を増やし業績を上げることで神位を上げることや転生する為に神の求める導以上の業績を上げること
初老の男は髪の長い鬼に大きな鎌を振り上げ白眼でこちらに向かってくる。
「地獄へ堕ちろーーーーー」
一葉「このままじゃ僕も…癒鬼だけは…違う…二人とも僕が守る!」
「きぇーーーーぃ」
鬼「よくぞ言った…名を一葉と言ったな。」
一葉「はい…」
鬼「私には名前をくれぬのか?」
一葉「あっ…いや…その…」
初老の振りかざした斬撃をひらりと髪の長い鬼は交わして男の腹に拳を立てた。
「ぐわぁ…聞かぬ…わしにゃ〜効かぬぞ!」
鬼「名前をくれぬのかと聞いておる。」
その鬼はニヤリと口を大きく開けた。
その時、僕の身体中の血管が張り裂けそうになり心臓の鼓動が脳みその奥まで伝わってきた。
一葉「痛い…なんだ…これ…」
体の中にある臓器が張り裂けそうで眼球も張り裂けそうだ。
一葉「だめです…あなたにつける名前が…ありません。」
今度は全身から一気に血の気が引いて先程までの痛みが嘘のようになくなった。
すると鬼が振り返り今度は優しい笑顔で微笑んだ。
鬼「賢いな…とても賢い。どこでその力を覚えたのか私には興味深いね。」
その言葉を聞いて今度は頭が揺さぶられるような痛みに襲われ意識が遠のいていく。
その時癒鬼も僕の腕の中で地面に先に落ちようとしていて癒鬼の頭を僕は両手で守った。
僕の意識がなくなる寸前、初老の男がもう一度鬼の元へ走り出した。
鬼は男の頭を鷲掴みにして握りつぶし、こちらを見ていった。
鬼「つけられるわけなかろう…わしの名は茨木童子」
血飛沫をあげて男は膝から崩れ落ち倒れた。
四葉「一葉!一葉!」
薄れ行く意識の中でねぇちゃんが泣きながら僕の元に走ってきてボロボロと涙をこぼしている。
僕はねぇちゃんの膝の上で安心して目を瞑った。
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