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晴れ、ヘンリー・フォンダ

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本文より】今頃は最終候補作が出そろっている。あたふたしてもしょうがない。羽毛布団を引っ張り出したのは正解だった。BSで「刑事マディガン」を見終えたばかりで、まだ暗くなるには早い。大藪春彦新人賞に送ろうと思ったのは、三月のことだった。まだパンデミックと騒ぐ前、ちょうど初の長編小説を書き終えて一息ついたところ、「まだ書け」とばかり自分を急かせたのだ。四月下旬、締め切り前にA4封筒を抱え、ポストに向かった。ヘンリー・フォンダからの連絡なら、きっと落選でもラッキーだと思うはずだ。主役マディガン刑事を演じたリチャード・ウィドマークの名前を覚えた。

そういえばどこからともなく猫がやってきて、休憩した日もあった。カメラを構えるこっちを見て、目を細めていたように思う。どうやら俺には、猫を引き付ける才能だけはあるようだ。故郷から遠く離れても、猫は毎日のように俺と目が合った。そこは丘の上の住宅街だった。夜になると、何かくれとばかり足元に駆け寄ってきた。残念。俺のポケットにはマンションの鍵しかない。大倉山ヒルズタウンと名前のある場所だった。送った小説はその周辺を舞台にしている。ある青年と刑事が取り調べ室でにらみ合う。そういう話だ。

今日から日記を書くことに決めた。飽き性の俺だから、いつまで続くかわからない。不平不満など抱えるくらいなら、窓の向こうの野良猫と遊ぶつもりだ。

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