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医療AIスタートアップがリモートで海外事業をゼロから立ち上げた話

医療AIスタートアップのUbie株式会社/Ubie Discoveryで海外事業開発をしている島津です。

コロナ禍で、世界で多くの国が国境封鎖に踏み切りました。
昨今でも新規入国停止 or 入国後の強制隔離など、物理的なアクセス障壁が圧倒的に大きく、リソースが限られるスタートアップがこのタイミングで海外進出をすることは好手では無いように見えます。

そんな中でUbieでは昨年から海外進出を本格化させ、現地入りなし・リモートでゼロイチの事業立ち上げをやり、PMFが見えるところまで事業を進捗させることができました。
今回は、そのプロセスや立ち上げのリアルをご紹介したいと思います。

Who I am/What We do

前職はエス・エム・エスの海外子会社代表としてインドネシアでの事業開発を担っておりました。一昨年よりUbieにジョインし、海外事業開発を担当しています。
Ubieでは、「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」をミッションに、昨年から本格的なグローバル展開を開始し、APAC HQとしてシンガポール法人を設立し現地での事業開発を進めています。 

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ミッションの「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」は、「世界中の人々を」というのが前提となっています。 (社内資料より↓)

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これまでに国内事業を通じて培ったプロダクトアセットや、日本の医師・医療従事者の叡智を基に、先ずはアジアを軸足に展開し、その先には当社のビジョンである「Hello,Healthy World」の通り、全世界70億人を最適な医療に案内するべく、グローバル事業を進めています。

コンセプト訴求とブランドアセットの基盤を作る

グローバル第一弾はシンガポールで行くぞ!と意思決定をして、矢継ぎ早に英訳した日本のプロダクト資料で数件の顧客にピッチをしてみましたが、反応はいまいちでした 。「シンガポールではニーズないよ。日本で頑張れば?」と浅い会話で終わり、検証が進みません。

そもそも、シンガポールでは問診を診察前に取るというフロー自体が無いことが多く、先ずそのコンセプトについて理解してもらうことが必要でした。
日本では多くの医療機関で問診票があるため、”既存業務”としての紙の問診票がタブレットに置き換わるというシンプルなデジタル化として捉えることができます。

シンガポールでは事前問診は既存業務にはなくAdd-onになるため、問診単独では業務負荷が逆に上がることになってしまい導入メリットは感じられません。事前問診により待ち時間を有効活用できることや、カルテ自動生成によるドキュメンテーション工数削減など、外来フロー全体での業務効率化・患者満足度という観点でのメリット訴求が必要です。

これらを直感的に理解してもらうために、英語でのconcept movieなどを作り、医師インタビューやピッチイベント時の冒頭で見せました。

コンセプトと両輪で、会社・サービスのクレジットも毎回の商談・採用時に参照され、意思決定の大きな材料になります。特に医療業界では医療レベルが高い国での実績(Evidence)が価値が高いため、医療先進国である日本での実績が東南アジアでreputationのあるメディアで取り上げられることで、当地での実績が無くとも一定のクレジットが持てます。

これらを採用時、商談時にキットとして毎回送ることで、リード獲得の打率を上げることができました。

現地メンバー採用

前述の通り、プロダクトはシンガポールではカテゴリ自体が存在し無いため、事業開発はCPF (Customer Problem Fit) からゼロベースで進める必要があります。ゼロイチ時の無数のトレードオフ・卵鶏問題 を解決しつつ、開発を有意に進めることができるメンバーを現地入り無しで採用できるかが初期の最も大きな不確実性でした。

<やったこと>
国内と同じく、 グローバルでも事業・Pd開発メンバーが直接採用にコミットすることで、2ヶ月で初期開発のコアメンバー : 現地の事業開発, 医師メンバーを採用することができました。
現地コネクション無くゼロから、また2ヶ月という時間制約の中でUbie Discovery(事業開発・Product開発)の人材要件を満たす最高の人材を採用することを考えた時に、グローバルでも開発メンバーが採用をゼロから考えて実行していくことが最短と考えました。
( Ubieの採用スタンスについて詳しくは→ 採用は人事にはできない )

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↑のような一般的なダイレクトリクルーティングのHowに加え、各プロセスのリードタイムを短縮・CVRを上げるために、以下のような施策に取り組みました。


[ペルソナ]
 - 現地のリファラル元・パートナーから個別候補者名だけで無く、このJDだとxxのようなペルソナがxxにいそう、といった候補者像 <> 生息領域についての解像度を上げ、ペルソナ<>ターゲット領域 <> リードサーチ条件を最適化
[リード]
- ペルソナをベースに、Linkedin等のDirect Recruiting チャネルで検索条件を設定。最初は幅広に、ペルソナの解像度と連動して条件を順次追加・ピンポイントに絞り込んでいく
- 医師向けのUXリサーチなど、採用以外でも接点を持ったところからリファラルをもらう
[アトラクト]
- 現場起点のリアルタイムの情報をスカウト・アトラクトScriptに反映。2回目以降のメッセージに、前回からの進捗サマリーを添えて、開発進捗がイメージできるようにする → CVR↑
- 候補者から参照されるアセット(PR、メディア掲載)を同時に積む (2. ブランドアセットの基盤を構築)
[マッチング]
- 事業/Pd開発のリアルについて、特にゼロイチ時の最も大きい不確実性について候補者に共有し、どのような登り方で解決できそうかディスカッションする
- Ubie JPは一定事業進捗しているが、グローバルはゼロイチであり創業メンバーとなる点について目線を合わせる。(フロントワークだけで無く、法人設立やback office業務も全員で手を動かす)

事業開発メンバーでこれらに取り組み、結果的に2ヶ月で目標としていたGlobalのStart up メンバー : 現地事業開発・現地医師を現地入り無しで採用しました。これにより現地Operation Readyとなり、シンガポール法人設立Goの意思決定をすることができました。

価値検証 -> MVP開発

ユビーでは、”最も大きな不確実性は何か?”ということを常に問い続け、そこにフォーカスしたプロダクト開発をしています。 シンガポール進出当時は、 ​

・そもそも、医療機関に業務効率化軸で課題があるのか/認識されているのか  (課題の存在)
・日本で培ってきたコア機能:AI問診+カルテ生成自動化が情報収集・情報記
 載・情報検索の業務効率化につながるか(課題に対しソリューションの方向
 性がフィットするか)


というのが最大の不確実性でした。
前述の通り、日本では多くの医療機関で事前問診フローが確立しているので、既存のアナログフロー(紙問診)をデジタル化することでの業務効率化価値が第一に見えやすいですが、シンガポールではそのフロー自体が無いため、Value Propositionの検証についてゼロベースで取り組みました。

課題探索 - 顧客が欲しいもの(機能)を聞かない/課題探索にフォーカスする

数々のリーン開発の本で言われているように、

"顧客は課題を説明できるが、解決策(How)を説明するのは難しい"

という考えに立ち、顧客からは課題を聞くことにフォーカスしました。
"今"抱えている(=顧客が認識・言語化できている)課題をopen questionで聞くことに加え、認識されていない課題に対しても、closed questionで仮説をぶつけ
て、顧客の言語化をサポートしながら潜在的な課題も炙りだします。

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定性的な質問と合わせて、医療機関内での業務実態を数値/Factで把握するための固定質問を設定し、全てのインタビュー冒頭で聞きます。
定性的な質問だけだと、顧客に依り直近で経験した事象等で一定のバイアスが掛かっていることもあります。これらの質問により、課題の大きさ(Issue度)を定量的に把握し、定性的な課題とリンクさせて確信度を高めます。

一定のインタビュー数をこなし、課題確信度が50%くらいになった段階で、課題 <> ソリューション仮説の検証に移ります。ここでMVPを想定した機能、ユーザーフロー、UI/UXなどについてプロトタイプを作り、インタビューで得たインプットを元にリファインを繰り返し、更に確信度を高めていきます。

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Prod Designerとプロトタイプを紙芝居で作り、コンセプトムービーなどと合わせてインタビューを重ねました。

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課題<>ソリューションの確信度がさらに上がり、ソリューション -> 実装機能の優先度が見えてきた段階でMVPをローンチし、プロダクト検証により不確実性をさらに下げていきます。

プロダクトDev/マーケットDev が一体となったスクラム運用
〜エンジニア・デザイナー・Biz Dev全員で不確実性に向き合う、ユーザーの声と向き合う。


0->1フェーズの開発では、プロダクトdev (仮説検証、開発実装) とマーケットdev (顧客への提案、導入) の間で無数の”鶏<>卵”、トレードオフが発生します。
例えば、


・顧客へのサービス導入が遅れ、フィードバックが少ないから(マーケッ
   ト)、検証が有意に進まず、ROIが良いPBIが積めない(プロダクト)

・利用率が一気に上がり、プロダクト課題 ->PBIが一気に増える(マーケッ
   ト)。 開発リソース的に全てDoneにするのは2 sprint (2週間) かかりそうだ
   が(プロダクト) 、課題の大きさ的に現場では2週間は待てない。
   このままだとユーザー体験を毀損する(マーケット)。

といったことが起こります。
これらはプロダクトとマーケットが密に連携していないと、お互いにblockerが発生し、開発がスタックします。

プロダクトとマーケットで区別せず、一体となってスクラムを運用することで、これらを解消することができます。
先の例で言うと、例えば以下のようなアクションが取れます。

[課題1.] 顧客へのサービス導入が遅れ、 顧客からのフィードバック(マーケット)が少ないから、検証が有意に進まず、ROIが良いPBIが積めない(プロダクト)

→ 契約後に導入が遅れているのは顧客側のリソース要因だけなのか?
    本当は顧客側で、特に現場側で価値が未だに見出せておらず、Problem
    Solution Fitしていないのでは? ->現場にもう一度入り込み、現場の顧客
    (医師、事務、患者)から更に深いFact/フィードバックを得よう。

→ 早く導入ができるアーリーアダプターを効率的に獲得し、導入->フィード
     バックを早められないか?プロダクトDevでマーケtoolを開発してリード
     獲得効率を高めよう。
     (現場Ops軸での解決例↓ - 患者向け説明資材の改良、現場インストール)

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[課題2.] 利用率が一気に上がり、プロダクト課題 ->機能実装PBIが一気に増える(マーケット)。 開発リソース的に全てDoneにするのは2 sprint (2週間) かかりそうだが(プロダクト) 、課題の大きさ的に現場では2週間は待てない。このままだとユーザー体験を毀損する(マーケット)

→  課題解決Howは機能実装だけか?現場Opsも一要因では?現場Opsでの
     改善で課題を30%程度は解消できそうなので、顧客に提案しよう。
→ そもそも検証したい課題-ソリューション仮説と、導入している顧客のセ
     グメントがフィットしておらず期待値Gapが起きてないか? セグメントの
     定義をリファインして、マーケ対象のリード属性を変えてみよう。

マーケットから得られる情報でプロダクトで解決すべき課題が分かり、逆にプロダクトの新機能をマーケットに当てることで検証ポイントや型を作る部分が変えることができます。

スクラム開始当初は手探りで鶏卵・トレードオフでスタックしてしまうことも多くありましたが、このような連携でプロダクト<>マーケットのフィードバックループが回るようになり、真の課題<>ソリューションへの到達・顧客への価値出荷のスピードが早まっていきました。

(一体スクラムのレトロスペクティブの様子 - Fact/Keep/Try/Problem/Try)

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ユーザーを巻き込んだ価値検証

インタビュー・MVPによる顧客課題<>ソリューション検証が出来たあとは、プロダクトが現場で実用に耐えうるか、が最も大きな不確実性です。ここで特にUI/UX/Opsについての検証にフォーカスします。
インタビュー・MVPでは概念的な検証はできますが、”実用に耐えうる” かの検証は現場にサービスを導入し、顧客に使ってもらわないとできません。

アジャイル開発に顧客を巻き込む
アジャイル開発を進めるためには、顧客がその概念を理解し、機能リリース<>現場検証 <>フィードバックのサイクルについてメリットを実感していただく必要があります。
商談段階からこの開発スタイルについて顧客にお伝えし、機能リリースの前後でリリースの目的・期待効果などについて顧客とコミュニケーションを密に取ります。ゼロイチフェーズでほとんどのリリースがPoCの位置付けであり、対象顧客も絞っていますので、それまでの顧客との課題感や要望についてのやり取りも踏まえてコミュニケーションをします。
リリースと同時にユーザー観察・検証と顧客からのフィードバックを開始し、 施策出し → PBIを生み出します。

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このサイクルを回していくことで、リリースを重ねるごとに顧客からのフィードバックが早まり、仮説の精度も上がっていきました。「ユビーだったらxxもすぐ開発してくれるだろう」といった弊社の開発能力に期待をいただく形で、「できない理由」ではなく「できる理由」を探索するようなフィードバックを頂けるケースも出てきました。

おわりに


いかがでしたでしょうか。リモートでの0→1海外事業で特に苦しんだ点、うまくいった点についてまとめてみました。

海外事業開始当初は、現地入りできないことで絶望をしかけましたが、法人設立、採用からプロダクト・マーケットまで全てをゼロベースで考えて開発メンバー全員で取り組むことで、初期の生みの苦しみを突破することが出来ました。
昨年末にようやく現地入国ができました。POとして現場にも入り込むことで深いFact収集・ユーザー観察ができ、より多くの顧客で再現性のあるプロダクトとなるように開発を進めています。
グローバル事業開発で同じような課題がある方、これから進出を考えている方がいらっしゃいましたら、ぜひお気軽にお声がけいただければ幸いです!

We are hiring Talents for Global!

日本と同様に、グローバルでも単一事業ではなく、事業群を拡大していきますので、今後また別の事業群で0→1開発が出てきます。同時に、0→1を終えたプロダクトについては新しバリュープロポジションの探索 → 機能開発や、対象顧客増加によるマーケ・オペレーション・サクセスなどの基盤構築といった開発が重要になっていきます。
世界中の医療課題を一緒に解いていきたい方、グローバルでスケールするプラットフォーム開発をやりたい方は、是非お気軽にお声がけください!

Why don’t you come with us to dive into the Global Scaling Business!

「※2023年3月追記
症状検索エンジン「ユビー」US版/Ubie AI Symptom Checker


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