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2022年 個人的ベストアルバム10選

はじめに

今年も数多くのアルバムがリリースされました。
そのなかでもお気に入りのアルバム10枚を紹介したいと思います。
並べてみるとジャンルが似通っていたりしており、来年は今まで聴いてこなかったジャンルも積極的に聴いていきたいなと思ったりしました。
特徴的な10選になりましたが、自分の好みが滲み出ているので、「そんな君にはこれがオススメ!」という作品があれば是非教えていただけると嬉しいです。
(ハイライトとなる曲も併せて記載しています。)

1. Arctic Monkeys - The Car

ハイライト:1 , 2 , 3 , 5 , 8 , 10

まずはやはりこのアルバム。
1曲ごとのレビューをこちらの記事にて行なっておりますので、気になった方は是非見てみてください。

毎作方向性を変えてくることで有名なArctic Monkeysですが、今作は前作の延長線上にあるような雰囲気になっています。
ただ、前作は月面を舞台に作られたコンセプトアルバムであったことからも、非常に特徴的なサウンドプロダクションになっていましたが、今作はそこから地球に帰還してきたような地に足着いたサウンドになっています。
かといって、ありきたりなものではなく、特に2曲目のようなAlex Turnerらしい歌い回しやサウンドになっており、今作も病みつきになりました。

また、David BowieやLeonard Cohen、Serge Gainsbourgなどの影響も色濃く見えてきます。
近年のアレックスの艶やかなボーカルワークもとてもDavid Bowieぽいですが、特にリードシングルの "Body Paint" のアウトロは、David Bowieの盟友ミックロンソンのギターサウンドを彷彿とさせます。

今作では今までArctic Monkeysが使ってこなかったワウギターやフィンガーピッキングも多用しており、7作目という歴ながら、新たな可能性も模索する探究心が伺えます。次回作はどんなものになるのでしょうか。

来年3月に控える待望の来日公演も無事にチケットが取れたので、とても楽しみです。是非オーケストラ隊をバックに演奏してほしいですね。

2. Father John Misty - Chloë and the Next 20th Century

ハイライト:1 , 2 , 3 , 5 , 6 , 8

続いてFather John Mistyの新譜。
前作は今でも定期的に聴くくらいとてもお気に入りだったので、今作も非常に楽しみにしていました。
前作と同じく、今作もシネマティックな雰囲気がアルバム全体で漂っています。
ただ、前作では70年代映画のようなカラフルな印象でしたが、今作はジャケからもサウンドからもモノクロ映画のようなシックな印象を受けました。
本人も戦前の音楽や映画作品から影響を受けていることを公言しており、過去作よりクラシカルなものへと昇華されています。
特に1曲目の "Chloë" は、戦前のミュージカル調的なナンバーで、昨今のポップシーンとは真逆の方向に突き進んでいるのが、彼を唯一無二な存在にさせています。

サウンド面ではHarry NilssonやTom Waitsであったりの影響を強く感じます。
特に2曲目の "Goodbye Mr. Blue" はHarry Nilssonの名曲、"Everybody's Talking" を彷彿とさせます。
今年はHarry Nilssonをとても聴いていたので、この曲は聴いてすぐにお気に入りになりました。

また、Lana Del Reyがカバーしたバージョンの "Buddy's Rendezvous" が本当に素晴らしかったです… 最初から彼女のために作った曲かと思うくらいに良かったです。
カルトの帝王ことDavid Lynchの短編に登場するお猿さん(Jack Cruz)もカバーをリリースしていましたね。
確かに今作のジャケットもどことなくイレイザーヘッドぽく、David Lynchのようなカルトな雰囲気が漂っています。

全然話は逸れますが、今作から長い髪をばっさりと切って坊主頭になったFather John Mistyもかっこいいですね。(個人的には長髪のときのカルト宗教の教祖みたいな雰囲気も大好きでした)

3. Weyes Blood - And In The Darkness, Hearts Aglow

ハイライト:1 , 2 , 3 , 5 , 9

続いては辛口で知られるPitchforkも高得点をつけていたWeyes Bloodの新譜です。
前作「Titanic Rising」からの3部作の2作目にあたる今作は、さらにビルドアップしたストリングスが印象的で、よりサウンドスケープに厚みが増しています。
前作で圧倒的な地位を獲得したWeyes Bloodですが、今作では周りからの期待の遥か上を行く出来になっており、彼女の底知れない才能に恐れ慄きました。

特に1曲目と2曲目のストリングスアレンジ/サウンドプロダクションは本当に圧巻で、聴いていて音の渦へと引き込まれていきました。

また、今作でのモダンなサウンドとクラシカルなサウンドを往復するようなポップサウンドは、様々な音楽がありふれている現代において稀有な存在だと思います。どのメディアでも年間トップアルバムに選ばれ、いくつかのメディアではベスト・オブ・ザ・ディケイドにも選ばれているのも大納得です。

3部作ということもあり、大団円を迎える次回作にも大きな期待をしています。

4. Drugdealer - Hiding In Plain Sight

ハイライト:1 , 3 , 4 , 9

続いては、1st Albumからずっと大好きなマイケルコリンズによるDrugdealerの新作です。
マイケルがロサンゼルスを拠点にしていることもあり、今作も同じくロサンゼルスを拠点に活動しているTim PresleyやJohn Carroll Kirbyを客演に迎えています。
ロサンゼルスを連想させる風通しの良いサウンドに、グルーヴィーなリズム隊が非常に心地よく、晴れた日のドライブなんかにはぴったりな一枚だと思います。

また、アルバム全体を通して聴こえてくるWurlitzerのエレピサウンドが本当に最高で、Wurlitzerが大好物な自分にとってはデザートを食べているような多幸感に包まれました。

毎作、インディー心をくすぐられるようなコラボレーションも印象的なDrugdealerですが、前作までのWeyes Blood枠を今作ではKate Bollingerが見事に担っています。
Kate Bollingerの新作EP「Look at it in the Light」も本当に素晴らしかったです。(EPだったのでアルバム10選には入れませんでしたが、こちらも今年のお気に入りの作品です)


5. Sylvie - Sylvie

ハイライト:1 , 2 , 4 , 7

続いては、南カリフォルニアのミュージシャン、ベン・シュワブによるソロプロジェクト Sylvie のデビューアルバムです。
Drugdealerの作品にも参加しているベンが、その才能をいかんなく発揮しています。

古き良きサイケデリックなフォークサウンドを基調に、Marina Allenの優しく包み込むようなボーカルワークを重ねることで、キャロルキングやボニーレイットを彷彿とさせる極上のソフトロックに仕上がっています。

サウンドプロダクションも本当に見事で、あえてザラっとした荒い質感に仕上げていることにより、リアルな70年代のソフトロックサウンドになっています。
おそらくオープンリールデッキなどのような当時の機材で録音されていると思われますが、ここまで限りなく70年代のサウンドに寄せられるところに、彼の細部まで行き渡っているこだわりやレジェンド達への多大なるリスペクトが見受けられます。

デビューアルバムということもあり、個人的に今後の活躍に大きな期待を抱いているアーティストです。

6. Angel Olsen - Big Time

ハイライト:1 , 2 , 6 , 8 , 9

続いてはAngel Olsenの2年ぶりのアルバムです。
もう手放しで評価できる大大大傑作です!

ひとつひとつの楽曲のスケールが地球の裏側まで届きそうなとてつもない大きさになっており、アルバムを通して非常に感動的な内容になっています。

本作が作られた時期に本人が同性愛者であることを公言したことも重なり、これまで心につかえていた葛藤や迷いが一気に振り払われ、自由な心情を描くかのような清々しさを聴いていて感じました。

サウンド面においても、Father John Mistyと同じく、Tom Waitsの初期作品(Closing Timeなど)を彷彿とさせ、そこに彼女の内省的な歌詞が重なることにより、彼女の人生そのものを目の当たりにしている感覚がありました。

Angel Olsenのキャリアにおいても、また今後10年間の音楽史においても燦然と輝く名盤として語り継がれるような作品だと思います。

7. Aldous Harding - Warm Chris

ハイライト:1 , 2 , 3 , 5 , 6

続いては、前作「Designer」で初めて知ったAldous Hardingの新作です。
今作は、過去作から引き続きフォークサウンドが基調となっており、非常にオーセンティックかつ芸術的な内容となっています。

彼女の大きな特徴でもある、曲ごとに大きく印象が変わるカメレオンボイスが今作でも如何なく発揮されています。
今作では、Feverなどのような力強い歌声と、Lawnなどのような可愛げのある飄々とした歌声が使い分けられており、彼女の表現力には脱帽させられます。

特にFeverでのボーカルワークやサウンドは、Hunky Dory期のDavid Bowieを彷彿とさせます。曲の中盤のブレークから徐々に転調していき、最後のコーラスではキーが高くなる感じもいかにもて感じです。
ライブでの佇まいもどことなくボウイぽく、見ていてニヤニヤしてしまいました。(外見も色白でスキニーな感じがいかにもボウイぽい)

彼女の清澄な美しさのなかに潜むどこか狂気的で不気味な雰囲気は、ものすごく惹かれるものがあります。
絵画でいうところのシュルレアリスム的な印象を受け、聴いていると、ダリやマグリットの絵画のなかに閉じ込められたかのような感覚を覚えてしまいます。

8. Daniel Rossen - You Belong There

ハイライト:1 , 2 , 4 , 9

続いては、2000年代を代表するブルックリンの人気バンド、Grizzly Bearのメンバー(別名、Grizzly Bearの頭脳)でもあるDaniel Rossenのソロ作品です。

アルバム全体で特徴的なクラシックギター、チェロ、そしてコントラバスのサウンドが非常にクラシカルな印象を与える作品になっています。
他でも挙げているようなHarry Nilssonからの影響もさることながら、Tim Buckleyやスペインの民謡音楽からの影響も感じとることができ、彼のルーツの幅広さとその深さが伺えます。
そして、彼の伸びやかなボーカルワークが今作の温かみのあるそのサウンドに非常にマッチしており、リリースされてから鬼リピートしています。
本作では、これまであまり触れたことがなかったサウンドが多く出てくるので、自分にとって非常に新鮮で聴いていてとても興味深かった作品でした。

また、収録曲の "Shadows in the Frame" のMusic Videoは、Harry Nilssonの1971年のパフォーマンス映像 "The Music Of Nilsson" から着想を得て作られたそう。

今年は様々なところでHarry Nilssonに関する記事であったり、影響を受けてそうな楽曲が多く見受けられました。
先日リリースされたLana Del Reyの新曲「Did you know that there's a tunnel under Ocean Blvd」でも、歌詞においてHarry Nilssonに言及している一説もあったり、Lana Del Rey本人も近年Harry Nilssonに傾倒しているらしく、何年経っても影響力の大きさに驚かされます。

9. Damien Jurado - Reggae Film Star

ハイライト:1 , 2 , 6 , 9

次は、地元シアトルでカルト的な人気を誇っているDamien Juradoの新作です。
ほぼ毎年アルバムをリリースしているという、非常にクリエイティブなアーティストであり、前述のFather John Mistyも影響されたと公言しており、非常に大きな影響力を持つアーティストの一人です。

私も数の多さから全部のアルバムは追えていないものの、2018年の「The Horizon Just Laughed」はとても好きで一時期よく聴いていました。

今作においても、彼の持ち味である重厚なストリングスとアコースティックギター、そして繊細で温かみのあるボーカルが非常に心地よいハーモニーを奏でています。
この味わいは彼にしか出せないなぁと聴くたびにつくづく思います。
(色々なラーメン屋を回るけどやっぱりここに戻ってくるよね、みたいな感覚)

そんなDamien Juradoですが、今作は過去作と比べて、シネマティックな内容になっており、よりサウンドスケープに広がりと深みが増している印象がありました。
今年は個人的に映画を最も見た1年でもあったので、非常に今の自身の気分にフィットした作品であったなと思います。


10. Alex Izenberg - I'm Not Here

ハイライト:1 , 2 , 3 , 8

最後は前作「Caravan Chateau」でのChris Taylor(Grizzly Bear)、Jonathan Rado(Foxygen)のプロデュースが記憶に新しいAlex Izenbergの新作です。

今作も前作の延長線上にあるようなサウンドプロダクションでありつつ、Dirty ProjectorsのDave Longstrethによるストリングスと木管楽器のアレンジが特徴的な内容となっています。

どこかミステリアスでサイケデリックな雰囲気は、Revolver期のビートルズを彷彿とさせ、収録曲「Ivory」のMusic Videoではポールマッカートニーのそっくりさんが出てきます笑
この「Ivory」の終盤のギターソロはRevolver期のビートルズサウンド(I'm Only Sleepingのような録音したギターソロを逆再生したもの)そのものです。
また、「Egyptian Cadillac」のドラムについてもリンゴスターそのものという印象を受けました。

Alex Izenbergの特徴的なハスキーボイスがビートルズライクなサウンドに重なっているのが非常にユニークで、ビートルズのような軽やかなサウンドは聴いていて非常に楽しく、心地よい気分にさせてくれます。
また、ころころと変わっていく曲展開は彼の気まぐれかつ不気味な印象を非常に表しているなと感じました。

おわりに

いかがだったでしょうか。
今年リリースされたお気に入りのアルバム10枚を僭越ながら選ばせてもらいました。
こうして見てみると、今年はHarry Nilssonあたりを好んで聴いていたこともあり、その影響が滲み出ていますね。
近年のストリーミングサービスの普及により、さまざまな音楽が大量に市場に出回っていますが、これら10枚のような味わい深いクラシカルな作品がやはり好きだったりします。
是非、このレビューを見て新たな発見が見つかったなら、非常に嬉しいです。

それでは、よいお年を!

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