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【僕たちは母を介護する】-22「同意書②」

説明を受けた同意書の中で、ここにないものが一つある。
書類がないので名称は覚えていないが、内容は今回の手術(治療)において得た情報を、今後の研究などに用いても良いかといった内容の同意書だったと思う。

1日目の帰る前に、入院の説明などを受けた時に求められた。
私は看護師から話を聞き、『わかりました』と言ってサインをしようとした。
その時、いろいろな考えが頭の中を巡る。
(御袋はどう考えるのだろうか)
(同時に弟はどう思っているのだろうか)
(私が知る御袋の性格だと多分『良いよ』という気がする)
(しかし、違うかもしれない)
考えた挙句、この同意書は緊急性がないような気になってきた。
そこで、私は看護師にこう伝えることに。
「わかりました。私、個人は協力したいと考えます。しかし、これは母のことになります。そのため私の一存でサインをすることはできません。」
すると看護師は
「わかりました。大丈夫です。」
あっさりと言われたので、特に重要でもなかったのかなしれないとその時は思った。

部屋を出て、エレベーターの中で弟が
「さっきの同意書は俺もしないでいいと思った」
と話しかけてたが、なんとなくそんな気がしていた私は
「うん。今じゃなくてもいいと思ったからね」
とだけ答え、病院を後にした。

3日目、腹部を覆っていたシートの交換と経過状況の説明を担当の先生から受けた後、サインをしなかった同意書の話になった。
「先日看護師から説明のあった同意書のことですが」
先生が落ち着いた感じで話し始めた。
「お母さんの症例や記録などを、研修を含め全体で共有することで、今後の医療のために活用させていただくことに、同意してもらうことはできないでしょうか」
先生の言葉に少し間を空けて
「それは手術室に研究生が入ったりもするのでしょうか」
と弟が聞いた。
「中に入ることはありません。様子を観察したり、データを確認したりすることはあります」
「そうですか。母はあまり人から見られるのを好まないもので・・」
弟がそう告げるのを聞いて、私は少し考えた。
個人としては断る理由はない、それどころか私は積極的に受ける方だ。しかし、弟の反応は拒絶と感じられた。
何度もお願いされるのは、それなりに理由があるのだろう。
正直、「わかりました」と言ってサインしたい。
ただ、弟の断りたいと思われる気持ちもわかる。
そして母の立場になって考えることはできない。
私は母ではないのだから。
そこで私はこう伝えることにした。

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