荒木博行『独学の地図』
荒木博行さんの『独学の地図』の感想を記す。再読して言葉に出会い直すたびに、また違った感想を得られるものと想像するが、まずは初読でのメモ。
本書を通して、学びはきわめて日常的なものであることが強調される。その中で、「実用的な知的欲求」だけがモーターだった人に対して、「純粋知的欲求」の駆動法をはやいうちに体感として知っておいたほうがいい、と説くことが荒木さんからの強いメッセージであると解釈した。
安易な「それっぽい一般論」に逃げず、いったん経験を描写するだけにとどめる
経歴は「名詞」ではなく「動詞」で理解する
経験の前後の「差分」を考える
といった、具体的なヒント・格言が数多く記載されていることは、まず大きな魅力である。
また、ラーニングパレットの構造化や、各章末の書籍紹介(「独学をささえるBOOKLIST」)や、適宜挿し込まれるイラストには、これまでの荒木さんの書籍にも通底する"らしさ"が溢れる。
さらに、過去のキャリアにおける失敗経験が大量に開示される驚きとともに、そんな弱みをさらけ出す寛容さに感服する。
この本自体も、「純粋知的欲求」よりかは「実用的な知的欲求」の部類に入るものかもしれない。それは、「実用的な知的欲求」を入口として本書を手に取った人に対して、「純粋知的欲求」を訴求することを企図しているという意味で納得である。トロイの木馬のように、「純粋知的欲求」への誘いを埋め込ませているようなイメージ。
ただし、それと同時に、荒木博行さんが著す正面からの「純粋知的欲求」の文章もぜひ読んでみたいと個人的には思ってしまう。荒木さん自身が貪るように求めたという人文科学方面の知見として、荒木さんのレンズを通して語られる「純粋知的欲求」の世界に、どのようなメッセージが込められるのかが楽しみである。
その他、印象に残ったフレーズのメモ。
「自分だけの具体論」は、無骨な言葉になる。紋切型ではない。
「他者」を通じて学ぶ」。自分の中に他者を飼う。
今を十分に楽しむからこそ、学びに彩りが増え、その結果、後付けでキャリアの可能性は豊かになっていく。
魯迅の『故郷』の一文のように、最初に地図があるのではなく、後に地図が生み出される。
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