成田新幹線の面影を探して(後編)

前編はこちら

6.印旛日本医大駅

千葉ニュータウン中央駅からみたび北総線に乗り、北総線の終着駅である印旛日本医大駅に降ります。

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この印旛日本医大駅は北総線の終着駅となっています。
ここから成田空港に繋がっているのは2010年に完成した「京成成田空港線」、またの名を「成田スカイアクセス線」という路線のみになっています。
このような妙な言い回しをしたのは理由がありまして、成田スカイアクセス線は「京成高砂駅~成田空港駅」と定められており、京成高砂駅~印旛日本医大駅の区間は北総線との共有区間になっているからです。

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まるで何かの宗教施設でもあるかのような特徴的な駅舎を後にして、成田空港方面に少し歩いてみます。

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駅を降りてしばらく歩いていると、スカイライナーが再び通過しました。

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駅の東側でソーラーパネルも途切れています。
ちょうどこの辺りに車両止めがあり、そこからは上下線のみとなっています。

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線路はこのまま東に10kmほど繋がっており、成田湯川駅を経て成田空港に直通していますが、
実はその途中に駅を設置するという計画が今でもあり、今でもその痕跡が残っている場所があります。
次はそれを確認するために、一度京成佐倉駅までバスで行き、そこから京成成田駅に向かいます。

7.ウイング土屋(土屋駅)

京成成田駅に着きました。
早速目的地に向かいたいところなのですが、せっかくですから成田山新勝寺にお参りしに行きましょう。

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成田山新勝寺は有名なお寺で、初詣の時期は表参道から本堂まで約1時間近くの行列ができるほどです。
表参道には色々な名店が並んでいるほか、本堂以外にも季節ごとに綺麗な彩りが出迎えてくれる公園もあるため、行った事が無い人はぜひ一度は一日かけて回るのがおすすめです。

さて、これから向かうのは新勝寺本堂から歩いて15分ほどの所にある「ウイング土屋」という場所です。
名前だけ聞くと何かの商業施設のように見えますが、これは住所です。

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現在はこの地の殆どがイオンモール成田が占有しています。
また、土地の中を横断するようにスカイアクセス線とJRが通っています。

このウイング土屋の一帯は元々は田園地帯でしたが、成田空港を建設する際の資材置き場とし利用されることになり、近隣住民から田畑を借り上げて埋め立てられて使用されていました。
空港建設後に敷地は返還されましたが、埋め立てた田畑は当然元に戻るはずもありません。

そこで住民たちは空港建設に協力した見返りとして、当時計画が進められていた成田スカイアクセス線の停車駅をこの土屋の地に作るように京成電鉄に要請します。
しかし実際に停車駅として決定したのは土屋駅ではなく、ここから4kmほど離れた成田湯川駅でした。京成線は土屋よりも通勤通学客が見込めそうな成田湯川を選択したのです。
しかし駅の用地だけは確保されており、今でもその痕跡をうかがう事ができます。

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新勝寺からウイング土屋に向けて歩いている途中、このような看板を見つけました。
看板に描かれている車両は現在走っているどの車両とも違うようで、過去に北総線を走っていた9000系に似ているようですが…?
参考

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イオンモール成田の近くまでやってきました。
このあたりの住所は「ウイング土屋」であると電柱にも表記されています。

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イオンモールから少し離れた所にあるケーズデンキの横道に入ります。

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ここが、本来は「土屋駅」が設置される予定だった土地です。

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ここにロータリーができる予定だったためか、何もない場所にロータリーの形をした円形の道路が敷かれています。

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スカイアクセス線の高架橋に近寄ってみると、明らかに作りかけのまま放置されている橋げたや、

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この高架下に駅舎を作ろうとしたのか、骨組みだけが作られたスペースが確認できました。

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少し離れたところにあるイオンモールの屋上から見渡すとこのような感じです。
駅を作れそうなスペースは十分にあるように見えますし、イオンモールのすぐ近くということで集客は見込めそうですが、今後設置される可能性はないのでしょうか。

残念ながら、現実的には土屋駅が今後完成する可能性は限りなくゼロに近いです。
既にお話しているとおり、JRの前身である国鉄が成田新幹線構想を消滅させているためJRがここに駅を設置する可能性はほぼあり得ません。
今でも毎年地方自治体は土屋駅の設置要望を京成電鉄に送っているようですが、
京成線側はスカイライナーの速度を落としてまで止めるメリットはないという否定的な見解を示しているそうですので、こちらも可能性は低いと言わざるを得ないでしょう。
イオンモール近辺はかなり道路事情が悪いため、もし土屋駅が完成したらその辺りも改善されるのではないかと個人的には思うのですが…
可能性は低いとはいえ運動は止まってないようなので、今後に注目しましょう。

8.東成田駅

次はいよいよ成田空港に向かいます。
イオンモール成田に戻り、空港直通の連絡バスに乗り第1ターミナルへと向かいます。

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成田空港は各ターミナル間を無料の連絡バスが走っています。
これに一度は乗ったことある人はご存じかもしれませんが、途中の停留所に「東成田駅」というものがあります。
公式サイトにも乗っていない停留所ですが、ここはかつて「成田空港駅」として賑わっていた駅でした。
空港連絡バスに乗り、東成田駅に向かってみましょう。

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停留所からしばらく歩くと検問所のような第5ゲートがありますので、守衛さんに一声かけここから東成田駅に入ります。

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こちらが京成線の東成田駅です。
ここは、1978年から1991年までの間「成田空港駅」として利用されていた駅です。
現在は普通電車しか停車していませんが、かつてはスカイライナーの終着駅でもあり、成田空港を利用する人はここからリムジンバスに乗ってターミナルに向かっていました。

この話を聞いて「なぜわざわざバスを使わないとターミナルに行けない所に駅を作ったのだろう?」と思った方もいらっしゃると思いますが、このことも成田新幹線計画が関係しています。

この駅は元々は成田空港に勤務する関係者への通勤用の駅として設置された駅で、駅自体は1972年には完成しています。
元々は今の成田空港駅を成田新幹線の終着駅として設置する予定だったのですが、工事がいつまでも着工しないまま成田空港が開業することとなり、やむなくこちらの駅を成田空港駅として特急のスカイライナーを停車させることにしました。
こうしてひとまず空港開業と同時に東京と成田空港は鉄道で繋がった訳ですが、案の定直接ターミナルまで乗り入れることができるリムジンバスに押されて当初の見込みより利用客は伸びなくなります。

しかし1988年、成田新幹線用に確保していた用地にJR・京成線が乗り入れることが決定し、1991年にようやく現在の成田空港駅が完成します。それと同時にこの駅は「東成田駅」に改名されました。
成田空港駅が移転してからは一般の利用者は殆どいなくなり、本来の目的であった空港関係者の運送手段の駅に変わりました。

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ということで現在は日中は1時間に1本程度しか電車が来ない駅となっていますが、この駅にはかつて成田空港駅だった頃の遺構がそのまま数多く残されています。

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たとえば、この使われていない窓口もそうです。
また、写真右側の塀で仕切られた壁の向こうには未だに当時の看板や案内板が無造作に放置されているようです。
(ちなみに背の高い人は覗き込もうと思えばできると思いますが、くれぐれも自己責任で)

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かつてロータリーとして使われていた場所には今でも上がる事はできますが
登るためのエスカレーターが停止しているほか、地上に上がってもロータリーの周辺が全て金網で閉鎖されているため空港方面はに出られません。
(ちなみに連絡バスで降りる時は間違えてロータリー方面に向かいがちですが、当然入れないのでおとなしく第5ゲートに向かいましょう)

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現在使用されているホームに降りると、すぐ向かい側に使用されていないホームがあります。
こちらはかつてスカイライナーが停車していたホームです。
写真をよく見ていただくと、向かいの駅名標は「成田空港駅」となっているのがお分かりいただけるでしょうか。

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駅名標だけでなく当時の看板もそのまま放置されていることが確認できます。
東成田駅は基本的にはほとんど人がいないことも相まって、まるで昭和の時代に廃駅になった駅舎にそのまま1人取り残されているかのような錯覚を味わえます。
個人的にもとても好きな駅なので、もし興味を持たれた方はぜひ一度立ち寄ってみることをオススメします。


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余談ですが、東成田駅に向かうためには「連絡バスに乗る」「京成線で直接来る」「第1ターミナルから歩いてくる」以外にもう1つ手段があります。
実は第2ターミナルから通路で直通しており、こちらを歩いてくればそのまま到着するのですが
約500mの道のりは音もない無機質な通路が続いているだけで殆ど人も通らないため、これはこれで高まるものがあると思います。

9.成田空港駅

さて、最後に現在の成田空港駅に向かいます。

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ここにきてようやく、何度も目の前を通っていたスカイライナーとご対面です。

現在のスカイライナーは三代目で、成田スカイアクセス線が開業した際に新車両として採用されました。
最高速度は160km/hで、これは日本の特急列車の中では一番早いものとなっています。

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幻となった成田新幹線は東京〜成田間を30分で繋ぐ予定でしたが
現在のスカイライナーは日暮里〜成田間を36分で結ぶ路線となっており、多くの訪日客に利用される路線となりました。
スカイライナーこそが、幻となった成田新幹線の魂を受け継いだ路線と言っても過言ではないでしょう。

10.おわりに

幻と消えた成田新幹線の夢のあとを巡ってきましたが、実際に現地に足を運んでみると知っている人じゃないと分からないような痕跡が殆どでした。

しかしそれぞれ残ったものは決して無駄になることはなく、計画が執行してから30年以上経った今でも面影を残していることが明らかになりました。

そして、成田新幹線の夢は成田スカイアクセス線が完成した京成のスカイライナーが引き継ぎました。
東「京」と「成」田を繋ぐ鉄道、という由来から生まれた「京成」電鉄は、今日も成田空港の利用客の足として活躍しています。


もし、この記事を読んで成田のあたりに足を運んで見たくなった方が1人でもいらっしゃったらとても光栄に思います。

これからも散策をした際はまた旅行記を書きたいと思います。
ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。











(付録)

最後に、本筋とは全く関係のない寄り道をした場所を簡単にご紹介します。

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まず印旛日本医大駅から徒歩5分ほどの所にある「扇寿司」

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ランチの握り寿司セットを注文しました。
寿司だけでなく多くの日本酒や一品料理があり、夜は居酒屋替わりに利用するお客さんも多いとか。

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成田山新勝寺の表参道にある「成田ゆめ牧場」のソフトクリーム。
とても濃厚な味わいで、市民だけでなく多くの人に親しまれている味です。

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同じく表参道にある「なごみの米屋」のマスコット、ぴーちゃんです。
ここの『ぴーなつ最中』は手ごろな価格で御茶うけにピッタリなので、成田散策のお土産におすすめです。

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続いて成田空港第1ターミナルにある「八代目儀兵衛」です。
いわゆる「銀シャリ」が売りのお店で、土鍋で炊いた最高級のご飯が味わえます。
なんとお代わり自由ですが、食べ過ぎにはご用心。

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最後は東成田駅から芝山鉄道に乗って一駅のところにある、芝山千代田駅からすぐの所にある「成田空港温泉 空の湯」です。
2019年12月に開業したばかりで内装はとても清潔で、カプセルホテルも付いているため成田空港の早朝便を使う人にも人気のようです。
ここの天然温泉はなかなかのものですが、それに加えて風呂は飛行機が発着陸するところが目の前で見れます。
芝山千代田駅以外にも実は空港第2ターミナルからも送迎バスが出ているため、空港散策の後にゆっくり疲れを癒すといいでしょう。

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