経産省「DXレポート2」の可能性と限界
「DXレポート、第二弾はけっこうまともだったよ」
ある大手総合化学メーカー幹部の方からそのような話を聞き、それでは!ということで今更ながら原典を読んでみました。
幹部の方は評価していたけど、個人的には「うーん」という感じで、読後モヤモヤが止まらない。
一体なぜモヤモヤするのか、その理由を自分なりに考察してみました。
なんかまとまらない読書感想文みたいになっちゃいましたが、お時間ある方はご笑覧ください。
「内輪の議論」を聞かされている感じ
最初から「DXについて、ここでは大手企業に焦点を絞って議論する。なお、大手企業システム開発の重要な担い手であるITベンダーもフォーカスに含むものとする」と一言でも注釈入れてくれたら、たぶんモヤモヤしなかった。
普通、情報伝達というものは対象読者や前提を明確にして行われるものだけど、本件はそのような配慮がないため特定セグメントにおける考察が、日本企業全体をテーマとしたものとして軽率に一般化されて (もしくはポジショントークが独り歩きして) いると思う。
民間からの提言として官僚が読む分にはよいのだと思うけど、DXに関心ある人みんながこのテーマに関心あるかどうかはよくわからないな。。。
どんな様子か、ちょっと中身を紹介しながら挙げていきますね。
DXの成功パターン
レポート内では、DXの成功パターンや、DXフレームワークなどが紹介されている。
DX の具体的な取組領域や、成功事例をパターン化し、企業において具体的なアクション を検討する際の手がかりとなる「DX 成功パターン」を策定する。これを活用することによ り、企業は DX の成功事例の中から自らのビジョンや事業目的の実現に資するものを選択す ることで、DX についての具体的な取組を推進できるようになる。
おっと、顧客体験はどこいった。
複数の事象の中から、共通の規則やロジックを抽出したものを「パターン」という。では上記の成功パターンはどのような事象から抽出されたものなのだろうか。
上図には明記されていないが、本文に記載のある「DX 推進指標自己診断結果」、もしくは出典に記載されているIPA「DX推進に向けた企業とIT人材の実態調査」における「成果が出ている企業」がサンプルではないかと思われる。
例えば、「DX推進指標自己診断結果」の母集団305社には以下のようにけっこう偏ってる(この点については注釈があって優しい)。
素材系製造業+機器製造業で4割、また売上1,000億円以上が37.4%。
ちなみに「DX推進に向けた企業とIT人材の実態調査」の方は「IT企業の人事部門996社 + 上場企業IT部門821社」のうち、DXに推進していると回答した185社がサンプルとなる。また成果が出ているのは業務効率化が中心で、それでも4割に満たない。
個人的な感覚としては、このような偏った調査対象から抽出された、少数の成功事例を「成功パターン」や「フレームワーク」と表記し、普及させていくことにはためらいを感じる。
まあ、自分自身も「おれおれ肌感フレームワーク」をたくさん作っているので、人様のことを偉そうに言えた義理ではないんですが、例えば「製造業ではこのやり方でうまくいくっぽい」というように、前提を明確にしてあげたら、と思った。結果が出ることが重要なので、ぜったいその方が効率的だと思う。
「ITベンダー論」のウェイトが大きすぎる
「事業会社側でもっとできるようになればいいじゃん」という殺し文句が封印されているがゆえの回りくどさありますよね。
DXレポート2018、今回の DXレポート2 、そして追補版の DXレポート2.1 のいずれもDXにおける議論のテーマとして「ユーザー企業とベンダー企業の付き合い方」の占める割合が非常に大きい。
中には「(受託開発スキームは) ベンダー企業にとって、生産性の向上や新規技術の習得にインセンティブが働かない」ため、相互依存による低位安定に陥っているという有益で本質的な指摘も含まれる。
このようにITベンダー論では受託からアジャイル、SaaSの活用といった具体的な議論が展開されているのに比べ、ユーザー企業の戦略については「ビジネスモデルを変革しよう」「時代に合わせたプロダクトを作ろう」「リーダーシップを発揮しよう」「投資を増やそう」といった抽象論から一向に深まっていかないもどかしさを感じる。
あくまで私見ですが、事業会社のDX議論が深まっていかないのは「デジタルトランスフォーメーションの加速に向けた研究会」の構成上の限界なのかもしれません。
研究会の委員は以下のようになっています。
歴史ある大手事業会社と、大手ベンダーによる議論で両者の関係性と今後にフォーカスが当たるのは流れとして当然であり、ベンダーからすると事業会社の次の投資に向けたプレゼンテーションという意味合いも強いだろうと推測する。
一方で、事業会社がどこに向かうべきか、という業種業態・個別企業によって幅のある具体の議論を行うような座組でもなく、またモチベーションが生まれようもなく、今後何か生まれそうな予感もない。
「新たな顧客体験」はどこいった。
今後に期待すること
上記のようなモヤモヤもありつつ、事業会社とベンダーの間に、環境変化を前提とした新たな関係性を模索する意図は読み取れ、それ自体は非常に有益な議論だと思う (結論が「アジャイルすべし」なのは短絡的だと思うけど・・・) 。
一方で、カネを出す側の事業会社にとって、DXというコストのかかる活動に対してどんなリターンが見込め、なぜ推進しなければならないのかという部分については今の座組だと限界があるような気もしている。
それこそ、レポート本文にあるように "ベンダー企業が事業会社のビジネスを深く理解し、パートナーとなる" 、つまり効率化やコスト削減ではなくグロスの売上増につながる議論ができるようスキルアップしなければ始まらないからだ。
この議論が発展し、DXが事業会社にとって成長の原動力となる確かな確信につながるためには、事業会社中心のセグメントやスコープを絞った分科会を設置していかないとらちが明かないのではないだろうか。
一見合理的に見える抽象論や方法論をいくら弄ってもユーザーやマーケットを満足させることはできず、顧客体験の向上なくして企業の成長はありえない。
本文では「デジタルに遅れている企業は、傍からみればヤバい状況だが、自分自身は健康だと思っているからDXが進まない」という話をメタボリックシンドロームのアナロジーを使って説明しているが、それはそのままこの研究会にも当てはまるような気がしてならない。
日本には300万社を超える中小企業、製造業・小売業以外の多種多様な事業会社があり、たくさんの経営者・社員がいる。
GDPへの貢献を考えるとプライオリティが低くても仕方ないのかもしれないが、彼らを置いてきぼりしない議論をぜひ展開していただきたいと、いちビジネスマンとして強く願うばかりだ。
終わりに
というわけで、なんだかまとまらない感想文になってしまいましたが、ひとつひとつの内容は至極もっともな考察が繰り広げられていて大変勉強になりました。
このレポートで「アジャイル」という、なんでもうやむやにしてくれるブラックホールにぶち込まれた諸議論は、実行しようとするとほんとはめちゃくちゃ大変だったりするんですが、その辺はまた別の機会に書いてみたいと思います。
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