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好きだから選んだのではなく、選んだから好きになった

幼い頃の夢はプロ野球選手、義務教育期間を経て学校の先生になることを夢見て、教職の単位を取るのが億劫に感じた私は今、旅館で接客をしている。

まさか自分が旅館で働くなんて夢にも思わなかった。そもそも家族旅行なんてほとんど行ったことがない。親は共働きだったし、男三兄弟は皆マイペースなもので、家族全員が集う時間や余裕はなかった。ましてや、旅館に泊まるなんてことは夢のまた夢の話。

それに、文化とか風習には堅苦しさを感じていた。どうして食事中は行儀よくしなければいけないのか、どうしてお正月は親戚で集まって美味しくないおせちを食べなければいけないのか。小さな頃から本当にひねくれていた。

だからこそ不思議に思う。どうして私は旅館で働くことを選んだのか。接客が好きだからとか、あの時お世話になったからとか、常套句を生み出す経験は皆無。

それは単なる偶然だった。

大学時代に受けていた授業で、たまたまゲストスピーカーとして当社のスタッフが講演していたこと。インターンシップに応募して、たまたま通ってしまったこと。そして、採用担当者がたまたま同じ大学の出身であったこと。

これら度重なる偶然に導かれて、私は今旅館で働いている。

まあ、そんな受動的な理由だったので、働き始めの頃は悩むことが多かった。周りのスタッフと比べて知識もモチベーションも低いのでミスばっかり。退勤後のロッカールームでは、「いつ辞めようか」とか「大学の友達はめっちゃボーナスもらってるらしい!」とか不満ばかり言っていた。

ただ、続けていると良いこともあった。それは、これまで経験したことのない世界だったからこそ、多くのことを知ることができたこと。お食事中の作法は、目の前のお料理を楽しめるように五感を研ぎ澄ますためにあること。お正月に出すおせち料理には、一品一品ちゃんと理由があること。義務教育では学ぶことができなかった知識の宝庫が、そこにはあった。

ふと気が付いたら、私は日本文化の虜になっていた。他の旅館さんに泊まってみたり、地域の伝統的なお祭りに参加してみたり、お正月にはおせちを作ってみたり。まさか将来の自分がこんな古臭い生活をしているだなんて、子供の頃の自分は想像もしなかったことでしょう。本当に不思議。

好きだから選んだのではなくて、選んだから好きになった。時の流れやご縁に身を任せ、寄り道かもしれないが、私は今、なんだかんだ楽しく仕事をしている。


#この仕事を選んだわけ

ここまでスクロールして頂いたことだけで私は充分です!最後まで読んで下さり、ありがとうございました!