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【連載小説】 真実なお隣さん②-隣人-

長い冬を乗り越えた木々たちが、春風に乗せて新緑の枝葉を揺らしている。
その横を、不釣り合いに大きく、真新しいランドセルを背負った小学生の行列が歩いていく。

そんな、春の訪れを感じられる景色の奥に、その家はひっそりと建っていた。


いったい、いつからそこに建っているのだろう?
”お隣さん”と呼んでいるその家は、割れた瓦とすすけた壁を纏い、その立ち姿は、柔らかな春には似つかわしくないくらい寒々しい。

伸び放題の草に囲まれ、今にも朽ち果てそうな感じは、どことなく落ち武者を連想させた。


史江が知る限り、そこには確か中年の男性が一人で住んでいるはずだ。
数年前までは、奥さんと二人の息子との4人暮らしだったようだが、ここ最近は男性の姿しか見かけない。

保険の外交員という仕事がら、史江は男性の単身世帯が増えていることを知っている。
それに、最近は離婚なんかも当たり前のように聞く話で、決して珍しい話ではない。

しかし昨夜、「ご主人が浮気をして奥さんに逃げられる」という設定のドラマを見たせいか、史江は無性に、お隣さんの家庭の事情が気になってきた。

もしかしたら、お隣さんも離婚したのだろうか。
浮気であれば慰謝料が発生するのだろうし、浮気相手を訴えるという展開も考えられる。
確か、昨夜のドラマでは、訴えようとした奥さんが殺されていた。


お隣さん、そんな込み入ったことになっていなければいいけれど。

そこまで考えたところで、史江はふと、気になることを思い出した。

そういえば……

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