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法衣店って必要なのか?

「法衣店」の僕にできることは何だろう。常々考える。「法衣袈裟は僧侶の必需品じゃないか」という意見もある。しかしこれには2つの「法衣店がそこまで必要でない」理由がある。(宗派や各寺により見解や状況が違います)

◾️ 法衣店がそこまで必要でない2つの理由

⒈ 袈裟が有り余っている

物がない時代〜バブル期に、お寺さんも袈裟をそれなりに購入された。檀家さんの「寄付」も頻繁にあった時代には「寄付いただいた檀家さんのお参りや葬儀、ほぼその方専用の袈裟」のように、人に合わせて袈裟を用意していた時代もあった。ほんの数年前までそうだったと思う。

だから現代、僧侶一人に対し、いくつも袈裟を持っている方も多い。また記念品でも小さめの袈裟(輪袈裟や絡子)をいただくこともあり、余計に溜まる。売れるほどあるお寺も少なくないのではないだろうか。

しかし袈裟の寸法は体型に合わせたものでなく「規格寸法」であるものも多い。つまり余っていても、その子供や親戚が着けることもできる。「寄付」の慣習がなくなったとしても「袈裟がない」という状況はそこまで多くない。なければ、親戚寺からもらったりしている僧侶もおられる。つまり絶対数は足りている

⒉ 袈裟が簡略化されてきている

近年に始まったことではないが、たとえば葬儀で大きい袈裟を着る機会が減っている地域もある。複数人でつとめていた葬儀が一人となり、また、葬儀が会館でおこなわれることによる着替えスペースの関係などで、小さめの簡略化された袈裟で済ますことも増えている。

もちろん宗派や僧侶個人にもよるのだが、核家族などから葬儀の簡略化は避けられない

◾️ で、どうする?

後ろ向きなことばかり言っていても仕方ない。で、法衣店としてどうするか。僕は法衣袈裟を仕立てることだけが、法衣店としてできることではないと思う。

⒈ 事業形態を変える

法衣店は「富山の薬売り」のような御用聞き販売を基本としている。定期的にお得意先であるお寺さんに訪問する。法衣店やお寺さんの地域によるが、訪問の際はほぼ雑談であることが多い。それが良い悪いでなく、時代にあっていないのは明らかだ。

かといって完全にオンラインでのやりとりがいとは僕は思わないが、使えるツールは使って、みんなの時間を大切にしてもいいのではないかと、僕の価値観では思う。お寺さんも勉強する時間が必要かと思うので。

⒉ 事業軸を移す

エルメスが馬具から革製品に事業の軸を移したのように、法衣店もその技術知識を活かして、事業の軸を移すことを考えてみる。

◾️ ナオシチが取り組んでいること

⒈ 事業形態を変える

じゃあナオシチは何をしているか。2020年の新型コロナウィルスで、この業界もようやく変わり始めたように感じる。ナオシチ四代目の僕は2020年、出張ほぼ0の決断をした。例年は年に半年以上は出ていたことを思えば、かなり思い切ったことをしたと思う。当然売上も激減している。

2020年11月現在、オンライン販売を積極的にしているわけではない。急に始めて買っていただけるわけではないと考えたからだ。そもそも今までのお得意さんとインターネットを使っておられる僧侶の方の層が違う。肌感だが、お寺さんでインターネットを積極的に使っておられる方は10-20%ほどではないだろうか。

僕が思う原因は、お寺さんにとっての顧客である檀家さんとの関係性で、インターネットを使う必要性が薄いことが一つあるかと思う。基本的に檀家さんは近隣の方々であり、インターネット上の関係性より、対面での関係性が重視される。コロナからお勤めを動画配信でされている僧侶もおられるが、関係性構築の点からはやはり、対面でのお付き合いの代わりには厳しいかと思う。

僕は対面での関係性を重視したい。しかし時代もあるし、そうは言ってられない。インターネットなど使えるものは手段として使うことも大切だと思う。ここからは特に僕の価値観やり方だが、やるならとことん突出して。だから出張を断腸の思いで0として、オンラインでの取り組みに完全に舵を切った。1-2年、目先の利益や関係性に目を瞑ってでも、今変わるために挑戦することが、この先10年100年を考えれば必要だと決断した

正解かどうかわからない。離れるお得意さんもいるだろう。逆に新しい関係性も生まれるだろう。いずれにせよ目先でなく、僕は先代から受け継いだ「ナオシチ」に対する思いがある。受け継ぐというのは、良い面悪い面あるかと思うが、祖父母と両親の姿をみてきた僕にとって、簡単に「ナオシチ」を捨てることはできない。

⒉ 事業軸を移す

数年前から「ナオシチ座談会」を始めた。僧侶と机を囲んで、気軽に仏教を学ぶ場だ。食べ物やワインを出すこともあった。なぜ始めたか。次回書くことにします。合掌

直七法衣店四代目  川勝顕悟


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