映画館を守るために考えたいこと「ディズニーランドと映画館の差」「仮想チップ制度」
こんにちは。わたしは、元映画配給会社でマーケティング担当で、現在デジタルを起点としたエンターテインメントをプロデュースする企業でディレクターをしてる者です。
今、映画業界が大変なことになっています。
この状況なので映画業界に限ったことではないですが、映画や演劇、ライブハウスなど「箱」商売をしている業界は、この状況を一時的に脱したとしても一筋縄ではいかない可能性が高いと思っています。
ソーシャルディスタンス(2m)をとってシアターを満席にしても半分も埋まりません。フル稼働しても、以前のように十分な収益を上げることができないのです。
そんな状況下ですが、今回は「映画館を守るために考えたいこと」について書きたいと思います。
1、「収益構造を理解する」
先日あるツイートをたくさんの映画好きの人に拡散してもらいました。
このことについて少し補足します。せっかくなので。
わたしの主張としては「好きな場所にはできるだけお金を落としていきましょうよ」ということなので、別にそこまで映画に愛着がないのであれば無視して良いです。
とはいえ、あくまで金銭を払って十分な対価が得られることが前提なので、見返りを求めない寄付とはまったく別の話になります。
映画館の中で、どこまで全力で楽しんで、どこまでお金を落とせるかって話です。
その上で理解しないといけないのは、「映画館のビジネスがどのように成り立っているか。」です。
2、「実際の収益シュミレーション」
仮に映画のチケット代が1,900円だったとしましょう。
<売上>
チケット 1,900円
ポップコーン&コーラセット 800円
パンフレット 800円
↓
<利益>
チケット 1,900円×50%=850円
ポップコーン&コーラセット 800×80%=640円
パンフレット 800×30%=240円
となるわけです。
※このパーセンテージはあくまで経験と調べた限りの情報からの推測なので絶対とはいえません。
ただ大体がこれぐらいの利益率になっているはずです。フードとドリンクを買うか買わないかで2倍近く客単価が変わってくるわけですよね。そうなればソーシャルディスタンスで四方にお客さんがいない分をカバーするには「ドリンクとフードを朝昼晩買ってもらって、一日中映画館で過ごしてもらう。」なんてミラクルが起きれば十分な収益が確保できるのですが、そんなことはまず難しいでしょう。
3、「ディズニーランドと映画館の差」
この映画館の収益構造はみんな大好き「ディズニーランド」と同じです。
※2019年度のオリエンタルランドの決算資料を引用します。
ディズニーランドは、一人当たりのチケット「収入:物販:飲食=5:4:2」の割合です。対して「映画館はチケット収入:物販:飲食=5:2:4」のはずです。(間違っているという映画関係者の方々いらっしゃいましたらコメントでご指摘ください)
箱商売はほとんどこんな収益構造だと思います。
注目すべきはここ
チケット収入というはお客さんによって簡単に変化するものではないのです。当たり前ですが、「めちゃくちゃディズニーが好きで、ディズニー映画のセリフほとんど暗記してます。」っていう人と、「彼女に連れられてとりあえず来た。」っていう人も、単価は同じなんです。ここに熱量は反映されないんです。
勝負すべきは「飲食」「物販」なのです。ディズニーでも気合いが入った人たちはみんなカチューシャつけて、おそろいのTシャツで、チュロスもターキーも山ほど食べますよね?実際にディズニーランドは一人当たりの物販を伸ばし、前年比で10.5%売上を伸ばしています。
これらを映画館に置き換えてみましょう。
下の3人のうち単価がもっとも高い人は誰でしょうか?
Aさん「映画が好き!今日の映画を何年も待ち望んでいた。」
Bさん「暇だからなんとなく映画を見に来た。」
Cさん「映画嫌いだけど、友達がどうしてもというから来た。」
Aさん!と言いたいところですが、そうとは言えません。Aさんは映画に集中するため、鑑賞中はドリンクもフードも食べません。逆にCさんはどうでしょう。あまり映画に期待してないから、ポップコーンに、ホットドッグに、ビールまで買いました。その結果、この1回だけ見ると映画館にとって一番良いお客さんはCさんになるんです。矛盾です。熱量との圧倒的な矛盾です。
でも、もしからしたらCさんは映画を観てみて「映画ってこんなに面白いのか。俺、映画監督になるわ。」と人生が変えられてしまうかもしれません。一気に熱量が高くなりましね。
でも、その熱量の受け皿が残念ながら劇場には存在しないのです。ディズニーランドなら、満足したお客さんたちは帰り際にお土産をたくさん買うでしょう。ディズニーランドにできていて、映画館にできていないものの一つはこの「熱量を金銭に変換する」ということなんですね。
4、こんなものはどうだろう?「仮想チップ制度」
では、こんなのはどうでしょうか。
もし映画を観終わって「楽しかったな」「感動したな」と思ったら、帰り道で映画について考えるお供にコーヒーを一杯買ってください。皆さんの心を少しでも映画が揺れ動かせたなら、その一杯のコーヒーが、巡り巡って次の素晴らしい作品へとつながるのです。
わたしは映画会社で働いていた時から疑問を抱いてました。
「何故、映画の料金は一律同じなんだろう。」
「鑑賞後の感情を、レビュー以外に表現する方法ってないのだろうか。」
収益モデルを抜本的にどうにかしていくというのは、とても大変なことですが、今一人の映画ファンとしてできることを考えた時、鑑賞後に同じ場所でまた消費をすることが仮想的なチップになり得ると考えてます。
最近、独立系配給会社を救うプロジェクトも始動しました。文化の芽を絶やさないためにも、しっかり考えて、理解することも大事だと改めて感じています。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
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