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引きこもりと漫画家と 「スロー・ダウン」萩尾望都

漫画の感想を書きます。
読んだのは「スロー・ダウン」。
天才と呼ばれし萩尾望都さんの作品です。
『半神』という短編集に収録されています。




「スロー・ダウン」について

「スロー・ダウン」は萩尾望都さんの短編漫画。
宇宙旅行などに応用が期待される感覚遮断実験に参加した青年が主人公のSFテイストな作品ですね。
以下、簡単にあらすじ、というかラストまでの大雑把なまとめを書きます。
※大いにネタバレ有り。


「スロー・ダウン」のあらすじ(というか大雑把に最後まで)

※大いにネタバレ有り。
主人公の青年は感覚遮断実験の被験体。
感覚遮断実験では地下室に隔離され、刺激が極端に少ない環境に置かれる。
音は何もない。時計もない。照明は薄暗く、昼も夜も分からない。
触覚を減らすため手袋をはめ、メガネはくもりガラスが入れてあり、耳栓をしている。
ときどき0から120まで数える。集中力が切れると正確にカウントできなくなる。こうなると幻覚が見えるようになるらしい。
唯一の刺激は食事。ボタンを押すとボードが開きそこから出される。
このような部屋で何もしないでいると人間はどうなるのか。
ゆっくりと死んでゆく感じだと青年は思う。

青年は何日も閉じ込められており、カウントを間違ったり、コンピューターに誤った名前で呼びかけられた時に自分の名前が分からなくなったりと、意識、自我、記憶に綻びが生じ始めている。

そんな中でイレギュラーな事態が起きる。
食事が出るボードが開くと、そこには人間の手が。
咄嗟に手を掴む青年。
「キャッ」という声が。
それまで「死んでゆく感じ」だった青年は興奮し、おかしくなったように喚き立てる。

ここで実験終了。
ボードに現れた手は、実験に参加していた所長の奥さんのものでアクシデントだった。

外界に解放された主人公は住み慣れた街が初めての場所のように感じる。
感覚遮断された10日分を取り戻すように刺激を求める。
しかし、女の子の話をしていてもぼーっとしてしまったり、ダンスなど何をしても実感が湧かない。
何もない実験部屋と同じように感じてしまう。
「ほんとのことは何もない 僕はひとりで死んでゆく」

青年は記録係として感覚遮断実験に参加することになる。
今度の被験体は手を出してしまった所長の奥さん。
青年は奥さんに自分を重ね、「あなたはしだいに死んでゆく」と思う。
でも生きかえる。
ボードから差し出す手を握りしめた時、「ぼくたちは永遠の眠りから目覚めるのだ」


刺激が少ない状況に置かれた人間の描写が卓越している

ここからは感想です。
まず、何日も刺激から遠ざけられ、感覚が鈍くなっている人間がすごくリアルに表現されているなと思いました。
特にコミュニケーションの部分で。
実験終了後、所長に話しかけられるのですが、言葉が出てこず、どもってしまいます。
話しかけられているのにぼーっとしちゃって「聞いてるの?」と言われちゃったりとか。
コミュニケーションの部分でうまく対応できないのって感覚が遮断された後では顕著に現れるものだと思います。その辺がしっかり表現されていました。

僕は感覚遮断状態にしばしば置かれます。
連休時にゲームにハマったりすると、食事、シャワー、寝る以外の時間をゲームに費やしてしまう。
食べ物がなくてコンビニに行きます。
レジで声を発さなければいけないのですが、声が出てきません。
絞り出すよう発声するのですが、自分の声じゃない感じ。
自分はちゃんと答えられたのかと不安になります。

引きこもっていると、コミュニケーション以外もおかしくなってしまう。現実感の無さ。
ゲーム以外の何をしても現実感がない。
食事は味気ないし、何か道具を使おうとすると使い慣れているはずのものなのにこういう風に使うんだっけ?と不自然さを感じてしまう。

このような引きこもり、ニート的な感覚を何度も体験した自分が「スロー・ダウン」を読んでいると、「無感覚・非現実的」が身体に刻まれた記憶として蘇ってくるようでした。
非現実さにリアリティを感じる逆説的体験でした。


引きこもりと漫画家

このような「無感覚・非現実的」な感じって、もしかしたら漫画家も有しているのかな。
1つの作品にのめり込んでいると、他のことが考えられなくなってしまう。
作品を書き上げるまで何日も缶詰になって、やっと終わって現実に戻ってきたら、その現実にリアリティを感じない。
それを作品に昇華したのが「スロー・ダウン」なのでは?

何も生み出さないゲーマー視点で恐縮至極だけど、漫画家も引きこもりと同じように、「無感覚・非現実的」に陥るのではないかと思いました。
天才漫画家と類似した体験ができているのではと嬉しくなってしまいますが、かたや何も生み出さないゲーマー風情でごめんなさい。


最後に

手が握られたことで生きかえる、など考えさせられるものは他にもたくさんあったのですが、今回は引きこもりの話題に留めておきました。
色々といっても基本、考えが浅い人間なので大したことは言えませんが。

今後も読んだ本・漫画等の感想を書きたいなと思っています。
気軽に書けるボリュームでのんびり更新していく所存。

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