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#読書の秋2021 『うそをつく子』   トリイ・ヘイデン

お久しぶりです。

ようやく、読書の秋に辿り着いた ナカちゃんです。

課題図書、たくさん読みたいものがあったのですが、今回は図書館で借りてきた本から書こうと思います。


『うそをつく子』 助けを求められなかった少女の物語 

  トリイ・ヘイデン著 入江真佐子訳  早川書房


 トリイ・ヘイデンと聞いて、思い当たる方も多いのではないでしょうか。

 今から25年前、『シーラという子』が、一躍ベストセラーとなり、その後立て続けにベストセラーを刊行し、ベストセラー作家として知られるようになりました。

 教員になろうと思っていた自分は、『シーラという子』から、『〜の子』のシリーズを読み漁った記憶があります。

 その頃は、「こんな子どもがいるんだ」という衝撃と、恐怖で、「これから教員になったら、どうしたらいいんだろう。」という不安に襲われたことを思い出しました。

教員になって、22年が経ちました。

小学校、中学校と勤務し、様々な生徒とかかわってきました。

生徒の質が変化し、不登校生徒や、発達障害を抱えた生徒など、今まで以上に「難しい生徒」が増えてきていると実感することも多くなりました。

 教職25年目に、特別支援2種免許を取得しました。

 そして、久しぶりに再会した トリイ・ヘイデンの本。

 彼女は、優秀な特別支援学校の教師であり、カウンセラーであり、作家でした。こんな先生になりたいと思っていた、私にとっての理想でもありました。

 16年ぶりの新作『うそをつく子』を読み終えて、あの頃とは違った読み方をしている自分がいました。

私も、大なり小なり、ジェシーのような子どもたちに 出会ってきたのだ。

 「しんどい子ども」だった彼ら、彼女らに、私はどうやって寄り添ってこれたのだろうか。

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 9歳にして、放火犯となり、家から追い出された大噓つきのジェシー。

 誰も近づけなかった彼女の「本当」を引き出したのは、粘り強く、真摯に、そして、高い技量で、一人の子どもと向き合い続けた、トリイ・ヘイデン その人でした。

 目の前の子どもと向き合う彼女の姿勢は、25年経っても変わっていませんでした。

 アメリカからイギリスに生活の拠点を移した彼女は、NPOのボランティアカウンセラーとして、ジェシーに関わるようになります。

 様々な問題を抱える子どもたちを、多くの専門家やNPOが支えているイギリスでも、ジェシーのような難しい子どもたちを受け入れる里親はそんなに多くはありません。

どこへ行ってもトラブルばかり、施設でも暴れ放題。でも、学校では優秀な生徒。

 どこからが嘘で、どこからが本当の話なのか。

 そして、年齢に似つかわしくない、性的な意味を感じさせるようなスキンシップ。

 トリイ自身も迷いながら、試行錯誤を重ねながら、ジェシーの「本当の心」を覗こうとしていきます。


 「貧困」「育児放棄」「児童虐待」「性的虐待」「薬物汚染」「ヤングケアラー」の問題が、幼いジェシーの心を壊してしまったのです。

 そして、彼女の姉たちが、加害者でもあり、被害者であったことが明らかになります。

 ジェシーはその後、家族の元に戻ることはありませんでしたが、周囲の支えと自分の努力で人生を切り開き、ダンサーとして活躍するようになります。


 この物語を読んで、これまで私が出会ってきた子どもたちの中にも、「ジェシー」がいたことを思い出しました。

 「うそをつく」ことは、言葉に尽くせないような辛い体験が積み重なることから、自分の命を守るために使う自己防衛法であるとも言います。

 そして、乖離もまた、強烈なストレスや衝撃から自分の命を守るために起きることです。

 ジェシーの親は、親としての役割を果たすことができませんでした。

 親が親として役割を果たせなくなった時、子どもは誰を頼ればいいのでしょうか。

親自身もギリギリのところで生きている。だから、子どもにも、子ども以上の役割を背負わせなければならない。そんな現実が見えてきます。


 がんを患った母親を、献身的に介護して、看取った中学生の教え子がいました。

 彼は、学校を休みがちで、勉強も遅れていました。十分な睡眠や食事が取れていないこともありましたが、まずは学校に来て、給食を食べ、眠れる時にベッドで寝ること。それから、勉強をすることを励ましながら、続けさせました。そのためには、周囲の理解を得ることも必要でした。

 彼は、母の死後も、勉強を諦めることなく、寮のある高校に進学し、今は就職していると聞きました。

 彼には、母親や兄に愛された記憶がありました。そして、周りの人たちも彼の家族を支え、親族の方も、彼が独立するまで支えてくれました。

 幼い頃、家族に愛されること、大事にされることが、その後の子の成長を支えるのだということを、彼は身を持って示してくれたのです。


 今、多かれ少なかれ、厳しい家庭環境で育っている子どもたちは、多くなってきているような気がします。

 子どもが子どもらしい生活を送ることが、こんなにも難しい世の中ってなんだろう。

 私達教員も、トリイのように、時間をかけて、しっかりと子どもと向き合うことができていないのが現状です。

 ジェシーほどの極端で難しい例はあまり多くありませんが、トリイ・ヘイデンの著書で光が当たった子どもたちのようなケースは、どこの学校でも見られると思います。

 「困った子」の裏には、「困っている子」がいて、

 その後ろには、「困っている親」がいるのだ。

 そのことに気づけるかどうか、これは、教員だけの問題ではなく、社会全体の問題として捉えていく必要があると思います。


ジェシーを通じて しんどい立場にある「子どもたちの心の声」が、

 たくさんの大人に届きますように。


#読書の秋2021   #早川書房  

#トリイ・ヘイデン    #うそをつく子   #ヤングケアラー




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