Garçon ギャルソン !! 〜その7・新人の映画撮影〜
仲間と共に創る世界がある。
レストランにも。映画にも。
夕焼けの海に浮かぶ洋館
大理石の床、ブルー絨毯
鉄のジャバラ越しに
ワインセラーの灯がゆれる。。。
シリーズ7回目。
レストランは休業日によく
映画やドラマ撮影が行われる店でした。
撮影協力のクレジットで広告宣伝をする。
企画室の私は研修で店におりましたが、
広報を含め、本来の仕事はこちら。
映画撮影にも立ち合います。
まず製作スタッフさんが
エントランスから店内に至るまで
毛布のような布を何枚も敷いて養生する。
店の床や壁を機材や靴で汚したり
傷つけないための配慮です。
この日の撮影場所は客席。
照明、カメラ、音声と
次々機材がセットされ、
かなりの人数。店からは
メートルの柴さんも立ち合い人。
実は、この店のギャルソンに
元モデルで役者がいました。
185センチ、日に焼けた肌、
黒い大きな瞳が少し暗い。
なのに、笑うと目尻が下がる江藤さん。
この方に私は前日、
こっぴどく叱られました。
お客様がタクシー会社をご指名されたのに、
私は社名を指名せずに、
フロントにタクシーの依頼をしたのです。
タクシーを頼めばいいと思っていた私。
仕事を忠実にやらなかった事を
烈火のごとく叱られました。
もし、これがドラマなら、
問題発覚!どうすんだ!!の場面。
大きな瞳の目力が凄〜い!
お客様のご事情があるのかもしれない。
でも、余計な事はたずねない。
お客様からご指定あるものに忠実に。
ワインの銘柄を決めるのと同じ。
江藤さんは女性のお客様に
ワインのラベルをお見せするとき
長身の片膝を床に着くように折り曲げ
説明をする。
少し下からご婦人を見つめる眼差しが、も〜
ボクはあなたのしもべです、的な。
で、いやらしくない。
お帰りはクロークまでエスコートして
ご婦人に後ろから上着を着せる。
あっさりがお好きな男性には、
手渡しで会釈する・・・
それもさまになる。
さて、ようやく撮影準備が整い、ついに
俳優と女優が登場し
海辺の店のデートシーン。
しかし、新人ふたりの表情は硬い
バックヤードで白衣の料理人さんが
フランス料理を用意している。
実はこの方、小道具さん。
綺麗に盛り付けられた
オマールエビ料理が何皿も並んでいる。
「料理はね、小道具担当なんすよ」と
たずねた私に教えてくださる。
リハを重ね、本番も撮り直しが続く。
その度、料理を直し、
オマールを差し替える。
はあ〜、大変なもんだ、
と同情してたら
そこに江藤さんが来たのです!
うそ!なんで!
昨日こっぴどく叱られた後で、
ビビる私。
シーンの内容は・・・
恋人同士のふたりはテーブルで
浮かない顔で食事をしている
そこにギャルソン役が登場し水を注ぐ
それを機に男が話しかける。
「僕のこと、お父さんは気に入らないんですね」
「そうじゃないと思うんですけど」
「僕は学歴はパッとしないし、
仕事だって、エリートじゃない…」
「そんなこと私はどうでもいいんです」
「でも、君のお父さんはそうじゃない・・・」
柴さん、江藤さん、私は
俳優たちのセリフを聞いている。
柴さんが、ひそひそぽそり
「俺たちも完全にアウトだな…」
江藤さんも、
「あ〜オヤジさんに殺られますかね」と
腕を組んで笑って見ている。
柴さんが、ちらりと江藤さんに、
「懐かしい?」と聞きました。
江藤さんは、首をふって
「オレ、向いてませんから」と笑っている。
そして、不意に私に、
「休み、もらえるのか?」
「え?!あ、あ〜…わ、わかりません」
昨日の事で完璧、縮こまってる私。
江藤さんが
「柴さん、彼女、代休ないんですか。
現場もやってんだし。体こわすよ、
な!」
「へ?」
「ココ、何時まで?」
「あや、わ、あの、一応5時アップでしゅ」
「まだあるじゃん、
まあ、仕事だ、がんばれ」
江藤さんは、そのまま帰っていきました。
柴さんがボソリと言いました。
「確かにな、シフト見とくよ。。。。
で、江藤くん、何しに来たんだ?」
もしや、・・まさか。。。
いや、そんなことはない。
でも〜昨日とは天と地…
うぬぼれおりーぶ、あらゆる妄想を・・・
アタシのこと気にしてくれた…?
んなはずあるかい❣️
もう〜ほんと、かんたんです♪
すぐに、ほの字に落ちていく…
オンナ寅さんとは私のことです。
そして、相手に、
ス、ス、テキです、の
スの字も言わずに、
終わるのです。
叱られた私の心のくもりは吹っ飛び、
撮影風景に目を戻すと、
テイクを重ねる新人ふたりが
明らかに焦っている。
すると小道具さんが、
「そのエビうまいだろ〜♪
1ケースあるから心配すんな
全部食っていいぞ 」
と言って、若い役者と現場を笑わす。
どこの世界も、
誰だって、
新人から始まる。
そして、誰しも
なかなかうまくいかないんです。
でも、周りのスタッフが、
ちゃんと支えている。
そんなふうに創り上げていく
いろんな世界が、
とても魅力的に見えて、
私はなにか、
すごく感動していました。
ここで、2か月が終わる私…
このひと月後、企画室に戻ってからも、
ドラマ、映画、雑誌、情報番組、
あらゆる撮影に立ち合いました。
あの女優さんと俳優さん、あれから数年して、
女優さんは、◯の国から、
男優さんは、◯スノート、にも出演しました。
立派になっていくお二人を見ると、
今でも、あの撮影を思い出します。
ギャルソン、それは、
さりげない気遣いと優しさが
にじみ出ている人たち。
今回も最後までお読みいただき
ありがとうございました。
ギャルソンシリーズも
次回は最終回となります。
お楽しみいただければ嬉しいです。
こちらは過去に江藤さんが登場した記事です。