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『え?嘘…師走だから仕方がない?あなたは大丈夫?』



師走の駅中カフェ。
パンを買って、座る席を探す。

窓際の席を見るが、
可愛らしい傘が立てかけてある。

誰かが席を取っているようだ。




仕方なく、
お店の中央の席に座る。

お隣では、
仲良しのおばさま方二人で
お喋りをしている。

『救急車がね、1時間かかるって言うのよ。
 でもね、最初に言って貰ったから助かったの、
 心づもりが出来るでしょう。』
「1時間も?」
『そうなの、でも、向こうも混乱してるみたいで。
 後ろで呼び鈴みたいなのが、ずっと鳴ってるの。
 この時期、倒れる人が多いみたい…。』

年も押し迫って救急車かぁ、大変だなぁ。
と、何とはなしに聞いていた。

『あら、やだ!
 53分の電車に乗らなくちゃならないのに!』
「え、あら50分過ぎてるわよ。」

急にバタバタと出て行く二人。

しばらくして、
ふと見ると…
二人が座っていた席に紙袋が置いてある。

あーあー。
時計は56分。
もう53分の電車に乗ってしまったのだろう。

ちらっと見えた中身は
立派なリンゴが二つと手紙。

うーん。
誰かに持って行かれたら可愛そうだな。
お店に届けよう。

席を立とうとして窓際の席を見る。
あれ?
もう20分も経つのに、
可愛らしい傘は立てかけられたまま…

おーっ!
これも忘れ物だったのね。

リンゴ二つに手紙。
そして、可愛らしい傘。

きっと、持ち主は、
この後、どこかで思い出して
探しに戻るだろう。

「ご主人様を、ここで待っていてね。』

声をかけながら
忘れ物を二つを両手に持って
お店の人に預けた。




ふともう一度、
自分が座っていた席を振り返る。

私を待つ忘れ物を作らないように。



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