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なぜ僕がこうなったのかについての2、3の理由(28)

  それから、数日前に大学生協で購入しておいた大学名入り便箋を用意した。2枚を取り出し、1枚目のはじめに「退学届」と書いた。入学祝いに親戚のおじさんからもらった万年筆で、ていねいに一字一句を記入した。少なくとも、今より落ちることは、ないんだと根拠なく思っている。

   時計の針を見ると、5時10分をまわったところだ。そろそろ新聞受けに朝刊が投げこまれる音がする。まず道の脇にスクーターが止まり、タイヤのきしむ音が聞こえる。そのいつもちょうど6秒後に、がたっ、カン、と新聞受けが鳴る。この時間に起きているようになって、いつも規則正しく、同じことが繰りかえされていることを発見した。僕は朝刊に似合うように、コーヒーメーカーを準備した。飲むかどうかはわからない。コーヒーを飲みたいからいれるのではなくむしろ、メーカーの立てる音と香りを部屋に満たしたくていれるのである。その準備が済んでから、玄関に新聞を取りにいった。第一面ヘッドラインの字の大きさを確認して、今日のトップニュースの重大性をはかることが楽しみになっている。
 

   あぐらをかいて部屋の半分以上を占めるシングルベットにのり、新聞をめくる。真ん中あたりの紙面に、最近の若者は、という副題のついた連載記事がある。僕はそれをしばしば読んでいた。今週はやる気のない若者は希望をもっているのかどうかという趣旨だ。今日もそれを先に読んで、くだらないとつぶやいてからスポーツ面をくまなく見る。コーヒーは飲まずに、コーヒーメーカーの電源を切った。昼過ぎに目覚めるときには、ぬるくなっているから、牛乳を入れてカフェオレにして飲むのである。僕はそのぬるいカフェオレに砂糖をたっぷり入れるのが好きだ。朝食はそれだけだから、すぐに腹がへって困ることがある。一緒に食べるものを買っておけばいいものを、すぐに忘れて翌日また困るのだ。

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