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新宿L/R ~フェイクの中で(2)

 けっこう長いトイレタイムになってんなあ、隆文はもうフロアへ踊りに行ってしまっただろうか、それともサッカー選手もどきのお友達とまだしゃべってるかな。しのぶは鏡を見ながらリップグロスを何度か重ね塗りして、どうせアルコールと一緒に食べてしまうだろう粘着性の液体を唇をこすりあわせて平たくのばした。つやつやになった口もとの両端を上に引っぱりスマイル、スマイル。隆文がいつか言っていた。しのぶの笑顔ほど素晴らしいものはないよ。本当だろうか。フェイクなのに。

 みんなフェイクだ、笑顔だって、リップグロスを塗ることだって、さっきカウンターで話してたことだって、待ち合わせ時間に遅れて隆文を待たせることだって、写真の専門学校に通うことだって、中学校の同窓会に出ることだって、みーんなフェイク、ごまかし、にせもの、いんちき、やらせだ。そう、やらされてるんだ。みんなそうだ。しのぶはフェイクにまみれる中から、自分の欲求をはっきりさせてみたいと思う。そうすることで初めて、ようやく呼吸ができるような気がする。
 

 トイレを出たところで白人の男が壁にもたれてひとりでハイボールのような薄茶色の酒を飲んでいた。しのぶの方を見て床を見てからまたしのぶを見た。相手はハイ、と言ってしのぶはどうも、と言った。白人はしのぶを呼びとめ、ウタイは何時ごろ出るのか聞いてきた。よくわかんない、と答えると、君の髪の毛は黒くて長くてきれいだとほめてきた。このクラブへ来るのは初めてかと聞き、僕は初めてなんだと言って目を細くして笑ってみせた。目線がしのぶの大きく開いた胸元と眉毛のあたりを2、3度行ったり来たりする。しのぶは左胸のキャミソールのふちを引っぱり、胸のふくらみが始まる場所に入れたちょうちょの形のウォータータトゥーを見せた。

 白人はその形を認めるとこれ、本物?と聞きながら右手の中指と薬指でそっとタトゥーに触れてきた。いいえ、これ、水で写しただけだから今日だけのものなんだ、だからあんまり触らないで、そう言いいながらしのぶは白人の指を払いのけようとした。でも指は強い意志をもってしのぶの左胸を這い始め、乳首を探しに行った。左手はしのぶの尻を力強く握りしめ、白人の大きな手はたやすくしのぶの乳首に達した。右の中指で乳首に触れられた途端、ああ、と小さくしのぶの声が漏れて、白人はcute、と英語でしのぶの耳元にささやき、耳たぶを噛んできた。しのぶは白人の手首にネイルサロンで長くのばした爪を思い切り立て、白人がアウチと大げさに声を上げたすきにフロアへ向かって走った。背中の方から女を汚く言う言葉が聞こえてきた。

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