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いちごみるく(3)

 カジノバーをクビになってから数日後、バイト情報誌をめくりながらラーメン屋で日本シリーズのテレビ中継を観ていた。目の前のテーブルにはスポーツ紙を片手にタンメンをかきこむ四十代後半くらいのカジュアルな服装のオヤジが同じく中継を凝視している。おぉ、とかよっしゃ、とか試合展開にいちいち反応するさまが、いつのまにか見慣れた原風景のように目に染み込んでくる。

 野球に興味のないわたしにはブラウン管に映る映像がのっぺりとしか見えないけど、野球、というスポーツにまつわるイメージが一気によみがえってきた。まずは枝豆。つぎに甲子園。そしてオフの選手がよく手にしているヴィトンのバッグ。カジュアルなオヤジは箸をくわえてビールを自分のコップに注ぎ、テレビから目を離さないまま焼き豚を一皿、追加注文した。いよいよ本腰をいれて野球観戦に臨む体勢だ。CM中は店の主人と今シーズンの日本プロ野球界について意見交換を始める。おおむね主人は聞き役にまわることが多い。わたしは聞き耳を立てるでもなくその会話を聞きながら、ぼんやりとテレビ横の神棚に置いてあるみかんが、くすんだオレンジ色になっているのに見入っていた。

 わたしはカジノバーでウエイトレスをしていた。ふりかえれば2か月ほどの短期間だったが、クビになったのはその店がバカラ賭博で摘発されたからでもなければ、店長のセクハラを告発したからでもない。店の裏に集まる猫にエサをやったせいだった。近隣からの苦情がすごいんでね、責任とってもらうよ、と店のマネージャーに言われ、そのとおりにした。現在もうひとつバイトの口があって、そちらが主たる収入源だったから、別に構いやしなかった。バイトを兼業するのもなかなか疲れる。とはいえバイト情報誌を眺めて旨味のありそうな求人を探すのも楽しいものだ。

 とりあえず目にとまった求人広告のページに折り目をつけて雑誌を閉じ、足早にラーメン屋をあとにした。ちらっと目をやると、カジュアルなオヤジは小っちゃいガッツポーズを作って喜んでいるところだ。顔は真っ赤っ赤。応援するチームが逆転ホームランを放ったのだ。これがサッカーなら、スポーツバーで盛り上がっちゃってなんて友達にも言えるんだけど、と思いつつ店を出た。あんなに嬉しそうにしているオヤジを、うらやましく思った。

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