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いちごみるく(11)

 わたしはトレーとトングを持って、ひそかに、なににしよーかな、と言いながらパンを物色し始めた。このパン屋は昼時になるとパン屋なのにパスタを弁当にして売っていて、うどんのような太い麺のパスタがなかなか評判を取っていた。ただ、いただけなかったのは、「スパゲッティドッグ」という惣菜パンで、それはホットドック用のパンに、うどんのような太いパスタをナポリタン風にいためて挟んであるという代物だ。たしかに「ヤキソバパン」のヴァリエーションと思えば抵抗はないのだろうが、主食に主食をはさんだとも考えられるそのパンを食べると、わたしは文字どおり息苦しくなり、食べたあとおなかの中で水分を吸ったパンとパスタが膨張し、えもいわれぬ胃もたれに悩まされるのが通例だった。わたしは二度ほど食べたことがある。
 

 結局ツナサンドとポテトサラダを買い、コンビニで雑誌を立ち読みして家に戻ったところへ、携帯が鳴った。ディスプレイには見慣れない番号が表示されている。出ると、新しく聞き覚えた声がした。
 「俺、覚えてる?昨日クラブで会った、ユズだけど」
わたしは少し驚いて黙ったけど、とりあえず誰かと話したかった。本当はユズリハって名前なんだけど友達からユズ、って呼ばれてて、という話を思い出した。
 「うん。覚えてる。昨日は何時ごろ帰ったの?」
 「あのあとすぐ帰ったよ、今日これから仕事だから。また仕事。お前今何してんの」
 「え?(お前?)今、これから朝ゴハン。遅いけど。さっきまで寝てた」
 「俺もこれから朝メシだな。明日あたり、夜、メシでも一緒にどう?」
 「うん、わかんない、明日、夜バイトなかったらヒマだけど」
断る理由は明日また考えようと思って適当なことを言ってしまった。本当は明日はバイトがなくてヒマなのだ。
 「じゃ、明日また電話するよ。明日だよ明日!」
 ほんの一、二分しか話さなかった。ユズは最後に「ありがとう」を二回立て続けに言った。なんで「ありがとう」なんだろ?

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