マガジンのカバー画像

#何が正解なのかわからない official

41
2020年4月8日〜6月1日、緊急事態宣言下での飲食店店主たち34人の記録です。感染状況も、行政の指針も日々刻々と変化するなか、平均1.6日に1人、限りなくリアルタイムで掲載しま… もっと読む
運営しているクリエイター

#補償なき自粛要請

『シェフたちのコロナ禍』トリセツです。

背景の異なる34人、34の事情  『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』(文藝春秋)には、文字通り34人のシェフと店主たちが登場します。 「飲食店」と言っても立ち食い蕎麦だって料亭だってありますから、ひとくくりにはできません。背景が違えば、抱える問題も違います。 本書の取材範囲は東京(一部神奈川)ですが、下町、都心、住宅街などのエリア、料理のジャンル、営業形態、店の規模、歴史など、できる限り多岐にわたるよう取材しました。 たとえば、フランス料理のグランメゾン

『シェフたちのコロナ禍 道なき道をゆく三十四人の記録』5月13日発売。

最も混乱した、第一波およそ1年前の2020年4月7日、一度目の緊急事態宣言が発令。翌日から私は、シェフなど飲食店の店主たちに話を訊いていく活動を始めました。 目標は毎日、結果的には平均1.6日に1人のペースで取材し、書いて、翌日すぐにnoteへアップ。「#何が正解なのかわからない」シリーズとして、宣言が解除された2日後、34人をもって終了しました。 この連載が、書籍『コロナ禍のシェフたち 道なき道をゆく三十四人の記録』となって、2021年5月13日、文藝春秋から発売され

「眠庵」柳澤 宙さん、5月16日の答。

―淡々と営業― 2004年、神田の古民家で開店し、2020年で16年。「眠庵(ねむりあん)」の柳澤 宙(やなぎさわ ひろし)さんの前職は化粧品会社の研究員、その前は大学で応用微生物学を専攻。世界を微生物の目から見る蕎麦職人は、人類未曾有の危機にどう対峙したのだろう? 世界が変わったのは、3回目 世界が変わったな、と感じました。 この感覚は、2001年の9・11(アメリカ同時多発テロ)、2011年の3・11(東日本大震災)と同じで、今回のコロナ禍が3回目です。 19年前の

有料
300

「荒木町 きんつぎ」佐藤正規さん、5月15日の答。

―要請に準じた通常営業― 2018年7月に開店して、もうすぐ2周年。「荒木町 きんつぎ」は、アイデア溢れる和食と日本酒で荒木町に新風を吹き込んだ。飲食店が必要とされる今と未来を疑わない、1986年生まれの店主が選んだ答は「通常営業」。 自分たち以外の理由で売上が落ちること僕らはテイクアウト、デリバリーなどは一切していません。 「通常営業が営業だ」という気持ちを強く持っているので、これまでイベントなどのお誘いも辞退してきました。 そんなことは言っていられない非常事態かもしれ

有料
300

「すし 㐂邑」木村康司さん、5月15日の答。

―クローズ― 今やミシュラン二つ星の「すし 㐂邑(きむら)」には、店主の木村康司さん曰く「どん底」の8年間がある。だから彼が「生きていればなんとでもなる」と言うのなら、それは綺麗ごとでなく、経験を伴う本心だ。何度でもゼロから始められるという自信を持って命を守る、クローズという答。 平等に、来週の分だけ、早いもの勝ち 僕、もうすぐ50歳になるんですよ。長年かけて自分が蓄えてきた知識や技術を、そろそろみんなに分けていく歳じゃないかな、という思いで、数年前から海外でお鮨を握る機

有料
300

「パッソ・ア・パッソ」有馬邦明さん、5月7日の答。

―ご近所営業― イタリア料理店「パッソ ア パッソ」は門前仲町で18年。有馬邦明シェフは自ら日本各地へ足を運び、生産者たちと交わってきた。一方で祭りを愛し、町会のゴミ拾いにも参加する地元密着の人でもある。地に足をつけ、身の丈を信条とするシェフの答は、街への思いに溢れていた。 いつだって、明日はどうなるかわからない こんな経験はもちろん、誰もがまったくしたことなんてないですよね。どうすればいいかなんて、わからない。 わからないけど、そのなかで今、自分たちができることはなんだ

有料
300

「オード」生井祐介さん、5月9日の答。

―架空の3店舗― 「Ode(オード)」が『アジアのベストレストラン50(Asia's 50 Best Restaurants)』35位を獲得したのは、東京オリンピック延期が決まった3月24日だった。本来なら予約が殺到するタイミングでの自粛、休業。しかしみんなの心配をよそに、生井祐介シェフは3つのレーベルでテイクアウトを始めた。架空の店舗とその物語、音楽までキメる、その世界観はじつに痛快。 結果を出した、というほうが大事そう、それみんな言ってくれるんですよ。せっかくの『アジ

有料
300

「七草」前沢リカさん、5月7日の答。

―気配のお持ち帰り― 季節の野菜と、豆や干瓢、高野豆腐といった乾物が主役の和食「七草」。この店を営んで17年。2度の閉店危機を泣きながら乗り越えてきた店主、前沢リカさんは強くなった。「振り返ったとき、何のせいにもしたくない」から、どんな選択でも自分の意志。そういう覚悟で歩いていく。 お客さんの気持ちを想像してうちでキャンセルが出始めたのは、小池さんの会見(3月25日、週末や夜間の外出自粛要請)から。それ以前はむしろ週末がすごく忙しくて、世のなかは景気がいいの?と思ったくら

有料
300

「クインディ」塩原弘太さん、5月5日の答。

―複数のチャンネルを持つ― オーナーソムリエの塩原弘太さんを中心に、シェフの安藤曜磁さん、ソムリエの今田秀樹さんら3トップの、チーム「クインディ」。イタリアンレストランだが食材やワインも売っている。イタリアと日本、クラフトなプロダクト。さまざまなチャンネルをもつ店は、難局に強かった。 レストランがワインの小売もするということ なぜか2月から、ショップのワインが妙に売れていたんです。 今思えばその頃から外食控えが始まっていて、家飲み需要が高まっていたのですね。3月半ばを過

有料
300

「Ryukyu Chinese Dining TAMA」玉代勢文廣さん、5月5日の答。

―クラウドファンディング― 沖縄料理と中国料理とナチュラルワイン。深夜3時まで笑い声の絶えない「琉球チャイニーズ TAMA(タマ)」。ソーシャル・ディスタンスの時世になって、玉代勢文廣(たまよせ ふみひろ)シェフは「人との距離が近い」この店の存在意義を見失ってしまった。しかし、救ってくれたのはやはり「人」。常連客たちが立ち上げたクラウドファンデングだ。 映像を倍速で逆再生するみたいに「TAMA」っていう店は、奥のテーブルやカウンターでは仲間同士ワイワイやってて、入口の立ち

有料
300

「La Maison du 一升vin」岩倉久恵さん、4月28日の答。

―1軒で3軒ハシゴ構想― 数々の名酒場、レストランを手がけてきた女将にして、日本の食材や日本ワインの女将でもある、岩倉久恵さん。「Buchi(ブチ)」から16年。どんな逆境も乗り越えてきた彼女が、人生で初めて「休業」を選択、そして再開。みんなの女将は、常に誰かを、何かを「助けたい」と思っている人だった。 なんだろうこれ、なんだろう?浅草ってね、都内でもとりわけ、コロナの影響がすっごく早かったんですよ。(1月に中国・武漢での新型肺炎が話題になり)中国人観光客が多いイメージも

有料
300

「ピッツェリア イル・タンブレッロ」大坪善久さん、4月28日の答。

―よりナポリらしく、リニューアルオープン― 3月いっぱいを改装工事中で休業。4月11日よりリニューアルオープンした「ピッツェリア イル・タンブレッロ」は、昼に揚げ物屋を始めた。緊急事態宣言後の再開は、最悪のタイミングか、それとも意外とナイスなのか?ピッツァ界のアニキ、大坪善久さんにかかればtutto bene(すべて大丈夫)である。 非日常では変化を受け入れやすい2月29日から1カ月ちょっと、もともと改装工事で休業する予定だったんですよ。今年で10周年、念願のFRIGGI

有料
300

「高太郎」林 高太郎さん、4月28日の答。

―昼吞み、夕吞み― 渋谷といっても、住宅街の桜ヶ丘。静かな路地にありながら、夜遅くまで人の絶えない居酒屋「高太郎」。店主の林 高太郎さんは2週間の休業を経て、4月23日に再開。夜の居酒屋から一転して、14時開店の2部制へ。都の要請による営業時間の制約から、昼吞み/夕吞みの新しい形が生まれた。 予約帳の名前を一つずつ消していく 「高太郎」は2011年3月29日に開店して、2020年で9周年を迎えました。27日までコロナの影響はほぼなくて、むしろお祝い週間で2回転目もずっと忙

有料
300

「オストゥ」宮根正人さん、4月24日の答。

―要請通り― 代々木公園のイタリア料理店「オストゥ」は、桜が眺められる春と、ピエモンテの名産・白トリュフシーズンの秋が賑わいの最高潮。しかし2020年の3月、ちょうど桜の満開時季に、宮根正人シェフはキャンセルの電話を自らかけた。 1日限りの臨時休業、そして再開。いいんだろうか?と葛藤を抱える一方で、奇しくも「レストラン」の意味――語源は「回復させる」――を感じている。 考え過ぎて、逆に平常心今日、店の前の公園も閉鎖になりました。 うちはレストランを開けながらテイクアウトも

有料
300