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一日の終わりに

 今日も雨が降っている。職場と家とスーパーのトライアングルが、日々の生活動線である。なんて地味な毎日。それでも、取り立てて不満がないのは歳を取ったせいなのだろう。お尻に根が生えるとはよく言ったもので、年々出不精になってきている。あぁ、お家が好きだ。

 そんなお家時間の、小さな楽しみを見つけた。眠りにつく前に、一曲だけ好きな歌を聴くのだ。そう、一曲だけというのが良い。一日一曲、一年で三百六十五曲。そんなに好きな歌があるのかどうか、疑問は残るのだけど。
 昨夜、初めてセレクトした一曲は、杉山清貴さんの「さよならのオーシャン」。
 昭和のバブル時代に青春まっただ中だった私は、夏には杉山清貴、サザンオールスターズ、チューブなどの曲をよく聴いていた。歌を聴きながら、淡く切ない思い出と一緒に、若さゆえに可愛かった(幼さの意味も含めて)自分を思い出し、酔いしれる。エアコン自体にお掃除機能が付いているように、自分の中の思い出を巡り、自動的に日々のストレスを掃除するのだ。なんて便利で低予算なんだろう。

 食事も昔みたいにたくさんは食べれない。それなら、好きなものを一品作って朝ごはん、お弁当、夕食と食べるのも良い。知人に頂いた大きな玉ねぎと、余ったひき肉があったから、茄子を買ってきて、昨夜、茄子の味噌煮を作った。それを、今日の朝昼晩のメインにして、あとは、冷奴やとうもろこしを湯掻いたものを食べた。明日は鶏もも肉の塩焼きをメインにして、朝昼晩食べようと思う。簡単で単純が一番だ。

 休日は、あれもこれもしたいことが溢れて、朝は読書会、昼は友人とランチなど、昔はいくつか予定を重ねていたけど、できればそれもやめてみたい。一日ひとつの予定だけにして、それに集中する方が豊かな時間になる気がして。加齢にともなって、たくさんのことを一度に体験すると、記憶が曖昧になるのだ。会いたい人に会う、行きたい場所に行くなど、ひとつひとつが大切な時間。いつでも何処でも行ける時間は、日に日に限られてきているのだから。

 先月、よく行く古本屋さんでドフトエフスキーの「罪と罰」を買った。店主さんと本の内容を語りたくて、少しずつ読んでいる。しかし、思いの外ズシンと胸にくる。「カラマーゾフの兄弟」もそのあと読むと宣言してしまった。読み終わるのはいったいいつになるのか?それまでは古本屋さんに行かないつもりなのか?自分でもよくわからないのだけれど、熟成させた時間を手に入れて、簡単には見えない奥深いものを感じてみたい。

 これから日々若さは失っていくけれど、積み重なった時間は増え続けていく。ミルフィーユみたいな時間の層をめくって、史跡巡りのように、昔の自分に会いにいく。そして八十歳くらいになって、今の自分を振り返って、「あの頃は面白かった」と笑っていたいのだ。
 
 
 
 今夜の一曲は、三十年以上前の、JALのコマーシャルソング。二十歳過ぎにラーメン屋さんで初めて聴いた、あの一瞬の感情は今でも覚えている。

今でも逢いたい 気持ちでいっぱい
そんな惨めな恋などしたくない
涙も乾いて 痛みに変わるよ
そんな乱れた思いはWoo,Baby.
I feel the echo.

桑田佳祐「いつか何処かで (I FEEL THE ECHO)」


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