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【優しいということ|沖縄タイムス唐獅子③ 2011年8月22日】

*これまでに執筆した記事を振り返っています。

ロンドン北部で黒人男性が警察官に射殺されたことをきっかけに発生した英国暴動事件。映像を通して見た、見覚えのある通り、通っていたお店、そこにいる人たちと聞き覚えのあるなまりの英語。私が以前に住んでいた地域で起こった、異常な光景に、言葉が無くなり、心が痛かった。その映像の中で、唯一、救いだったのは、放火された店内に飛び込んで、火を消す1人のおじさんの姿だった。なぜ、ああいう事件に発展してしまったのか、考えることはあるけどもそれを簡単には言い表せない。しかし、あの街は私にとって、第二の故郷であり、見ず知らずの他人に対しても、優しい街だった。困った時には、いつも誰かが声をかけて助けてくれた。

去った8月13日に京都大学助教、小出裕章先生の「放射能と子どもたち」という講演会があった。ちょうどその日は7年前に、沖縄国際大学に米軍のヘリが墜落した日である。沖縄の基地と福島の原発問題の関連性。根底にあるものはとても似ていて、知らなかったでは、すまされない重要な問題である。小出先生は、想像していた以上に、とても謙虚で誠実な方だった。難しい言葉を並べることなく、とても分かりやすい言葉でお話をされていた。配布された資料の冒頭にはこんな言葉があった。「強くなければ生きられない。優しくなれないなら生きる価値がない」これは、作家レイモンド・チャンドラーの遺作「プレイバック」からの引用である。

そして、最後は「優しいということは、強いものに付き従うことではない。自分以上に、生きることに困難を抱えている生き物に対して、どんな眼差しを向けることができるのか?」と締めくくられていた。

末っ子で、親戚の間でも一番年下だった私は、めいが生まれて初めて、自分よりも小さくて、守るべきものの存在を知った。かわいいめいたちのこれまでの成長を見守ってきて、自分がどれだけ周りの人たちに愛され、守られて育ったかということに気付かされた。だから、彼女たちの未来に出来るだけ多くの希望と選択肢を残してあげたい。そして、社会を作る大人としての責任がある。混沌とした世の中に、考えさせられることは多いが、いつも希望に目を向けて、強く、優しくありたいと思う。

◯英国暴動事件について
https://ja.wikipedia.org/wiki/イギリス暴動

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