Flying Solo (柏編)
柏に行くのは初めてだった。
携帯でちょっと調べれば、簡単に行き方も所要時間も料金さえ一瞬でわかる。便利な世の中である。
新宿で山手線に乗る。混んではいるけど整然としている。この素晴らしさは、日本を出て初めてわかることだ。
日暮里のホームで常磐線を待っていると、隣にいたおじさんがいきなりものすごい勢いで屈伸を始めた。
面食らって思わず妹にLINEする。
「日暮里あたりにはいろんな人がいるのだ。」
えええ?屈伸ともスクワットとも言えない謎の動きをしてるんだが。そして掛け声とも唸り声とも何とも言えない声を発しているぞ。
困惑する姉をおいてけぼりにして妹は続ける。
「で、たまに見かけるパリッとしたのは(超有名進学校の)開成の子たちね。」
パリッとした子たちはついに見ないまま、屈伸おじさんとともに常磐線に乗り込んだ。
柏に着くと、駅を出て広場を横切りとてつもなく遅いエスカレーターで下りる。遅い。恐ろしく遅い。こんな遅い必要ある?というくらい遅い。
ようやく下りて、信号を渡ってアーケードを抜けていく。多くの地方都市がそうであるように、柏駅周辺も必要なものがまとまってあり、きっと住みやすい街なのだろうと思う。
そう言っている間に着いたその店の前には
お昼から飲めます
という魅力的な看板が出ていた。私は飲めないが、今から会うひとたちには非常に大事なポイントだ。
彼女たちは私より10歳以上年下だけれど、話していて年の差を感じたことはほとんどなかった。少なくとも私の方は。
それは実際に会っても同じだった。
初めましてなのに、全然初めましてという感じではない。だけど実は彼女たち二人には、どういうわけか私は勝手にほかのClubhouseで出会った人たちと少し違う近さを感じていた。
それがどうしてなのか、どういう種類のものなのかは、ずっとよく分からなかった。
美味しい焼き鳥などを肴に、彼女たちはお酒をぐびぐび、私は烏龍茶をちびちびやる。店を変え、ぶらぶら平日の昼間っから飲んでいる不思議なおじさんたちに囲まれて、私たちは何時間もしゃべり続けた。
しゃべり続けてわかったことがひとつある。
二人ともわたしと似ているのだ。
いやいや年も違うんだし勘弁してくれよと彼女たちは言うかも知れない。
けどまあいいから俺の話を聞け。酔っぱらいのおじさんみたいになってきた。
話してるだけで、間違いなく仕事ができるとわかる彼女。けど負けん気が強くて具合が悪くなるほど働いたりする。
ただ真っ直ぐ頑張ってる最中は、自分の許容量が全然見えないのだ。そして何で見えなかったんだろうと後でちょっとへこんだりもする。
感受性が豊かで、色んなことが心のあちこちに触れて、感情が揺れる。それらを自分の言葉にするのに時間がかかるから、時にもどかしい思いをする。私も同じだからよくわかる。
でも、だからこそ彼女が世界に向ける目は優しく、差し出す手はいつも温かい。彼女の世界も同じ温かさで満たされていて欲しいと心から願う。
曲がったことや世の中の不条理が許せずに正義の刃を振り回し、自分が傷ついてしまう彼女。優しくて真っ直ぐで、ただ一生懸命な人が報われる世界を願っているだけなのに。
頭が良いくせに、何かにぶつかる時はまるで他に方法がないみたいに正面からしかぶつからない。思いがたくさん溢れるのに、すぐには上手く言葉にできないから、悔しい思いをする。
その不器用さはわたしの不器用さとよく似ている。似ているから見ていると時々胸がぎゅっとなる。そして傷ついても何度も何度も立ち上がる彼女を見て、もっと胸がぎゅっとなる。
彼女の刃の後ろで助けられてる人はきっとたくさんいる。どうか彼女の正義が勝つ、ただ穏やかな世の中であって欲しいと心から願う。
二人のことをそれぞれに書いているつもりが、どっちにも当てはまると気づく。何だ、二人ともお互い似てるじゃないか。
そうか。彼女たちはわたしにとって妹みたいなんだ。
世の中の荒波に揉まれるかも知れない。けど大丈夫だから、信じて行って来な。何かあったら姉ちゃんが駆けつけるから。そういう気持ちなんだ。
そして、謎の屈伸おじさんみたいなおもしろびっくり場面に出くわした時、姉ちゃんが一番にそれを伝えたいのが妹なんだよな。
(続く)
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