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兄弟姉妹が、相続で揉めるのは、なぜか?

「兄弟は、他人の始まり」という言葉があります。

進学や就職、結婚と、大人になるにつれて、
兄弟姉妹間の物理的、精神的距離が遠くなるのは、
自然のなりゆきなのかもしれません。
(もちろん、そうではないケースもあると思いますが)

先日、B子さん(50代/女性)から、姉妹間の相続についてご相談がありました。今日はそれをシェアします。
(*個人が特定できないように、フィクションを加えています)


兄弟(姉妹)は、他人の始まりと言うけれど。

私はB子、三姉妹の二女です。

先日、父が亡くなりました。
母は数年前に亡くなっており、相続人は、長女A子と、二女の私(B子)、三女C子です。

相続財産は、父が自宅として住んでいた土地と建物、500万円ほどの預貯金があります。

私と三女のC子は、父の遺産を3人で平等に分けたいと考えています。

でも、長女のA子は、どうやらそうではないらしいのです。

A子は、結婚して数年後に離婚して、子どもを連れて実家に戻り、両親と暮らしていました。

母が亡くなるまでは、家のことは母が全部していたのですが、
母が亡くなってからの数年は、A子が父の面倒を見ていました。

とはいえ、父は亡くなるまで元気で、自分の身の周りのことは自分ですることができていました。
A子の負担は、それほど重くはなかったと思います。


A子の言い分は、自分は長女としての責任を担ってきた。
B子とC子は、大学までの学費を出してもらい、結婚後も子どもたちの教育費の援助をしてもらってきた。
だから、父の財産は、自分が全部もらうくらいで、ちょうど辻褄が合うと言うのです。

でも、それを言うなら、A子だって、離婚して家に帰ってきてからは、
さんざん、両親の世話になっているし、金銭面でも援助を受けているはずです。

A子は、昔から、物ごとはハキハキ主張するほうで、
私とC子は、「おねぇちゃんが、そう言うなら」と
なるべく、波風が立たないようにしてきました。

A子は、父の相続に関しても、自分が強く出れば、妹たちは黙っているだろうと
甘く見ているのかもしれません。

できることなら、姉妹で揉めたくないし、
お互いに嫌な思いをしたり、感情にしこりを残すようなことは、したくない。

でも、私もC子も、このことに関しては、うやむやにしたくないと考えています。

どうしたら、いいでしょう?

現金で分けるのが難しいケースは、揉めやすい

私はこれまでに5000件以上、相続に関する相談を聞いてきましたが、

B子さんの例に限らず、
兄弟姉妹の争いは、両親が亡くなってから表面化することが少なくない、と感じています。

なぜ、両親が亡くなってからなのか?

例えば、
B子さんの場合では、
母が亡くなった時の相続人は、父と三姉妹です。

不動産は父名義ですから、母の相続には関係ありません。

母名義の預貯金があったとしても、
今後、父の生活費や医療費に使われることは、想定内でしょう。

つまり、母の財産(預貯金等)は、おおむね父が相続することになっても、
姉妹間で文句が出る可能性は、低いと言えます。
(もちろん、母名義の財産の種類や金額にもよりますが)

次に、父が亡くなるとどうなるか。

父の相続財産は、姉妹で分けることになります。

法律では、皆さんご存知のように、兄弟姉妹間の相続分は平等です。

B子さんのケースでは、父の相続財産をひとり3分の1ずつ相続する権利があります。

だったら、仲良く3分の1ずつ分ければいいじゃん!
そう思われる方も少なくないかもしれません。

でも、現実的には、それがなかなか難しいのです。

特に「現金で分けるのが難しい」ケースは、
兄弟姉妹間で揉める、大きな理由のひとつです。

もう少し具体的に見ていきましょう。
B子さんの父の相続財産は、不動産と預貯金500万円です。

これらを三姉妹で平等に分けるには、
まずは、今、実家を売ったらいくらになるか評価する必要があります。

仮に土地建物の評価額が1000万円とすると、
預貯金500万円と合わせて、相続財産の額は1500万円になります。

これを、三等分すると、
1500万円÷3=500万円となり、

ひとりあたり、500万円の相続分になります。
でも、実際には、実家の不動産は、A子が住み続ける家なので売却を予定していません。

ひとりあたり、500万円の相続分は計算上のものであり、
現実的には、家を売らない限り、お金で分けることができません。

A子が実家に住み続けるのであれば、
不動産の名義は、A子にしておいたほうが、後々の争いを防ぐことができます。

そうなると、姉妹間の不平等をなくすためには、A子は、1000万円の不動産を得る代わりに、現金で500万円を用意しなければならないのです。

果たして、A子にその現金が用意できるのか?

現実的には、それが難しいことが多いのです。

だから、揉める。 

大人になってもひきずっている、あの日、あの時の感情

次に、それぞれの心の裏側を見てみましょう。

長女のA子さんは、
「B子とC子は、大学までの学費を出してもらい、結婚後も子どもたちの教育費の援助をしてもらってきた。
だから、父の財産は、自分が全部もらうくらいで、ちょうど辻褄が合う」

と言っています。

一見、この主張は、「お金の問題」のように見えますが、
実は、根深い感情の問題が見え隠れしていると私は感じています。


「他の兄弟姉妹は、こんなことを親にしてもらったのに、自分はしてもらえなかった」という本人の認識が、事態をややこしくしています。

え~!そんな昔のことを今も根に持っているの?
と、驚かれるかもしれませんが、

子どもの頃のあれやこれやが不満として残っていて、満たされなかった思いが、両親の死後、兄弟姉妹との関係の中でゾンビのように蘇る、(心理学的には投影という)ことはよくあることです。


事実はそうじゃないかもしれません。

親としては、B子さんとC子さんに学費を出してあげた代わりに、
A子さんには、就職のための準備をしたり、お祝いをしてくれていたかもしれない。


A子さんとしては、
自分は当時、就職があたり前と思って勤めに出たけれど、
進学を選んだ妹たちが、学生生活を謳歌する姿を見たら、羨ましかったのかもしれない。

自分は結婚に失敗して、実家に戻ってきたけれど、
妹たちは、家族円満に暮らしている。

そんな妹たちの生活と自分を比べて引け目を感じたり、
ある意味、妬ましいと感じることもあるのかもしれません。

A子さん自身は、自分の中にそんな感情が潜んでいるとは、気づいていないでしょう。

だから、余計にこんがらがることは、よくあります。

一方、妹たちにすれば、

子どもの頃は、
ケンカしてもおねぇちゃんには、口では勝てなかったり、
しっかり者のおねぇちゃんに助けてもらったり、
なんだかんだ言っても、頼りにしていて、

言いたいことを言わずにきた面が、あったかもしれません。

A子さんの離婚後は、両親の援助を受けることもあったでしょうし、
ひょっとしたら、妹たちにとっては、不満の種だったかもしれません。

だからこそ、亡くなった父の財産については、
姉の好き勝手にはさせたくない、言うままになりたくない、という感情が起こることもあるように感じます。 

それぞれの立場で、今、感じている感情は、
大人げないとか、今さらとか、そういうものではなくて、

人としては、あるものなのです。


法律的な問題としては、お金で割り切れず、
心理的な問題としては、過去の事実のとらえ方に違いがあって、
沸き起こる感情に振り回されることがある。

誰かひとりを悪者にすることなく、
そのような前提に立ったうえで、
じゃぁ、どうやってお互いの主張に折り合いをつけていくのか。

簡単なことではりませんが、皆さんだったら、どうされますか?


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