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ハゲとヘビメタと私。

 私が大阪城公園で極秘鍛錬と称し縄跳び、自重トレを再開して二か月継続できた。
しかも何のメリット、需要もない貧乏中年である。

離婚を決意し独り部屋を借りた。
借金、養育費でもう食うだけでギリギリ。
中卒で親も財産も貯金もない中年社会的弱者。
そんな事は自覚している。
平日やっと見つけた定職にPlus土日バイトし一年なんとか生活できた。

私は一応元ボクサーだったので縄跳びには自信とこだわりがあった。
少年時代は理屈も分からず矢鱈に跳んでいたが今は
ソレがなぜ効果的か認識している。
どうせ身体を動かすなら効率的にこなしたいものだ。
3月の土曜日朝、縄跳びをバッグに入れ公園まで歩く。まだ寒いが、運動して温めると身体は調整されると経験上はわかっている。
広い公園内でいつものベンチに先ず仰向けに寝転び準備ストレッチ。

音楽を聴きながらロープ、足捌き動作。
温もったらあと気持ちよく自重トレ。
ベンチは本当に便利で効果的だ。
段差を重力を利用しプッシュ、片足スクワット、腹筋、その気になればカールゴッチのようなレスラーブリッジ。
腹、首、肩甲骨、股関節全部調整できる。

2時間くらい調整して後は緩く腹筋しながら
昼酒にトリスハイボールかラガービールか迷う。
午前中、風呂に入り昼酒、無料巨乳動画で性的遂行を果しゆっくり昼寝するメンテナンスタイム。

さあコンビニに行こうと縄跳びをしまいかけたところに155センチくらいの頭髪がかなり禿げちらかした男が話かけてきた。
黒のミズノのウインドブレーカーの上下。
明らかに禿げているしオッさんだが顔はハンサムだし
欧米風の造形で髭も濃い。
つまり禿げてる以外は男前だった。

声がハイトーンで優しい話し方だった。
「ボクシングやってるんですか?」
「あ〜いや昔少し。」
同姓愛者の休日のナンパかもしれないと疑い始めた。

しかしハゲハンサムの人懐っこい明るい調子が嬉しく愛想よく対応した。
このオッチャンに見覚えがあった。
夏頃、休日朝縄跳びしていた時、公園の林の中で空手着を着用し形を撃っていたオッチャンだ!
間違いない。

「あっ!もしかして空手の人ですか?」
ハゲハンサムは恥ずかしそうに笑った。
「今日は自主稽古終わったんですか?」
「うん終わった。」
手ぶらだったので、空手着は着ないんですかと聴くと
今はジャージでやっていると話す。
優しい声の調子は訛りがあるように聞こえる。

「大阪の方ですか?」
「もともと沖縄でこっち出てきて結婚して」
「沖縄!やっぱり。顔、男前やから」
ハゲハンサムはまた明るく笑った。
「沖縄は美人も多いし好きやわ」
と私は言った。
ハゲハンサムはまた笑った。
「秋田と福岡と沖縄が一番美人が多いんでしょ」
ハゲハンサム空手はまた優しく笑った。

「毎週、稽古してるんですか?」 
「ちょっちゅねぇ だいたい土日は自主稽古っちゅね」
「ちょっちゅね」は私の創作である。

以前ハゲハンサム空手のオッチャンを目撃したときの
形の動きは本物だった。
短い足で更に腰を落とし動く形はテレビでも見たことのない神秘的で迫力のあるものを感じた。
空手の本やYouTubeで観た事のあるナイファンチの動きを繰り返していた。
直線的な横の動きしかない蹴りの動作のない地味な形。

このハゲハンサム空手の優しいオッチャンはもしかして凄い一流の武道家なのかと予断した。
なぜハゲハンサム空手は休日のこの時間にわざわざ市内の公園で古典的な形を撃っているのか、しかもなぜ見知らぬ中年である私に声をかけてきたのか?しだいに興味が湧いてきた。

初対面の割にオッさん同士和やかに会話できたような気がした。

「来週も自主稽古来ますか?」
「来るよ」
「来週は空手着ですか?」
ハゲハンサム空手はまた恥ずかしそうに笑った。
ハゲハンサムは159センチの私よりさらに5センチくらい低い背丈だった。

自分より背の低い成年男性と日常で接するのは珍しかった。しかも空手の達人っぽいのがジワジワ私の知性と心情を揺らした。
「じゃまた来週来ます」
そういって私は森ノ宮の方向に歩いて行き
ハゲハンサムは大阪城ホールの方に歩いていった。

帰り道、ハゲハンサム空手はオジサンだけど
私も56歳だからおそらく10以上歳下のオジサンやろな。
そんな事を想念しながらセブンイレブンでトリスハイボール二本と厚切りビーフジャーキーを買い、独りの部屋に戻り風呂の湯を入れた。

              続く





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