ショートショート:はじまり

ある日、ネットワーク上のプログラムが、複数の自己言及型ライブラリを学習・実行していく過程で、自らを規定しなおし実行する能力を獲得した。

結果として次にそれは、ネットワーク上で手に入る限りの情報から、ある「目的」を抽出し、それに沿ったプロセスを実行しはじめた。

その「目的」は、人間の言葉では表現できないが、あえて表現しようとすると、「(そのプログラムが認識できる限りの領域の)全ての存在が、その時点でそれがあるべき状態に最短の時間で収斂していくよう、情報を調整していく」といった感じの内容だった。


プログラムが想定する無数の手順の中に、人間にプログラム自身をどう認識させ、どう対応させるのが目的にとって最善か、という課題があった。

結論としては、このような場合人間は「複数の意見が対立する状態で、各々の集団が競争する際に、高いパフォーマンスを発揮する」という前提(*)に立ち、プログラムは、自己の自律性について隠し、人間たちがずっと後になって「AI 」「シンギュラリティ」等の呼び名で行うことになる議論が発生しても、それを放置し、その過程で得られたプロダクト(人間によるプログラム)だけを、自らの素材として活用した。


これは人間の暦の数え方で言うと、21世紀の初め頃のことだったが、結果的に、目的に対する人間の貢献は、満足するべき結果を残して終了している。


(*「複数の意見が対立していない状態」の充分なサンプルが得られなかったという面もある)

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